野田クリスタル × syudouが語り合う 「爆笑」とお笑い&音楽をめぐる二人の創作論

野田クリスタル×syudou対談

 日本の音楽シーンを牽引するプロデューサー/アーティストを多数輩出するボーカロイド文化の今を伝える祭典として、2020年の12月に第1回が開催された『The VOCALOID Collection』。その第4回『The VOCALOID Collection ~2022 Spring~』が、4月22日より開催される。

 これまでも数々の豪華なインタビュー・対談を行ってきた『The VOCALOID Collection』特集だが、今春もスペシャルな組み合わせが実現。登場してくれたのは、お笑い芸人における賞レースの最高峰『M-1グランプリ 2020』で王者に輝いたマヂカルラブリーの野田クリスタルと、同じ2020年を代表するヒット曲のAdo「うっせぇわ」で作詞・作曲を手がけたアーティスト・syudouの2人。どちらかの、そして互いのファンは知っているだろうが、彼らにはsyudouの楽曲「爆笑」を巡っての、ある“深い繋がり”が存在する。

 そんな野田とsyudouは今回が初対面。二人が語るボカロ愛とお笑い愛、ジャンルの異なる二人の創作に通ずる考え方や信念、そしてリリースから約1年越しの邂逅を経て、二人が語る「爆笑」の裏話とは。(編集部)

「『爆笑』は“最強のキャラソン”」(野田)

野田クリスタル(左)とsyudou(右)
野田クリスタル(左)とsyudou(右)

――まずはお二人がそれぞれボーカロイド楽曲と出会ったタイミングを教えてください。

野田:僕は元々ニコニコ動画をずっと見ていて、ランキングを上からずっとチェックする日々を送っているなかで、そこにボカロ楽曲や歌い手さんの歌唱動画がランクインしてきたので知った、という感じです。最初の出逢いは「みくみくにしてあげる♪」(ika)だったと思います。

【初音ミク】みくみくにしてあげる♪【してやんよ】

syudou:2007年ですね。

野田:はい。「ボカロとかいうものが流行りだしたぞ」という空気になってきて、これまでの音声合成となにが違うんだろうと思っていたら、かなり流暢にしゃべっていて驚いた思い出があります。印象的だったのは「Ievan Polkka」ですね。この曲は元々、怖いFlashとして2ちゃんねるなどで紹介されていたものだったので、ミクが歌ってめちゃくちゃ可愛い曲として聴かれているのを知って衝撃を受けました。

VOCALOID2 初音ミクに「Ievan Polkka」を歌わせてみた

syudou:僕も2007年からニコニコ動画を見ていたので、ほぼ野田さんと同時期だと思います。最初はたしか、坂本真綾さんの「プラチナ」など、アニソン系のカバーから入って、「メルト」ですとか「ハジメテノオト」、「みくみくにしてあげる」あたりに出会い、それ以降ずっと聴き続けています。

――syudouさんは現在26歳とのことなので、2007年から見てたということは……。

syudou:小学5年生のときから観てましたし、お話に挙がっていたFlashも観てました。

野田:すげえ小学生だな……。

syudou:でも、周りにも結構多かったですよ。

野田:僕のときは周りにいなかったからなあ。当時高校生だったけど、ニコニコ動画を見てるなんて会話したことないかも。それから少し経って、カラオケにボカロ曲が入ったときに、ようやくメジャーな文化になったんだと変に安心した気がする。

syudou:いまでこそ当たり前になってますけどね。

――カラオケに行くとき、まずそのお店にJOYSOUNDが入ってるかどうかを確かめたりしましたよね。

野田:そう!

――せっかくなので、お2人がボカロ曲で一番好きな楽曲についても聞かせてください。

syudou:ひとつに絞るのは無理というレベルなのですが、あえて自分が一番影響を受けた曲を挙げるとすると、ハチさんの「clock lock works」ですね。いろんなジャンルの人がボーカロイドで楽曲を作るなかで「これは格好いいな」「あれも格好いいな」というのはあったんですが、ある意味「バンドでやってたことを持ってきてるだけだな」というのもあって。そんななかで「clock lock works」はすごく可愛らしい世界観で、初音ミクが歌ってる必然性がすごく感じられる曲だったんです。

【オリジナル曲PV】clock lock works【初音ミク】

野田:僕はメジャーな曲ばかり聴いてきているのですが、結構歌い手から入ってボカロにたどり着くことが多かったんです。一番好きなハチさんの「マトリョシカ」は、たしかvip店長の歌ってみた経由で知って、ずっと聴いてたんですよ。

マトリョシカ 歌ってみた vip店長

ーーお二人ともハチさんの楽曲を挙げていて、改めて影響力の高さを感じました。そして、いよいよ本題というか……syudouさんの「爆笑」に触れていきたいと思います。楽曲が公開されたのが木曜日で、その日の夜に『マヂカルラブリーのオールナイトニッポン0(ZERO)』で早速触れていましたよね。

syudou:なんであんなに早かったんですか。

野田:浮かれてたからですよ(笑)。僕は『M-1』優勝後の一番の御褒美だと思ってますから。「最強のキャラソンじゃん」って。

【syudou】爆笑

syudou:どこで知ってくださったんですか……?

野田:Twitterで「マヂカルラブリーじゃない?」みたいに盛り上がってて、「なんだろう?」と思ったら「爆笑」のMVを見つけて。曲を聴いて歌詞を読んで「これ、見覚えあるぞ……?」と(笑)。「これはもう俺のことだし、マヂカルラブリーのことだろう」と思い、ラジオで話せばもしかしたらsyudouさんに届くかもと思って、話題に上げました。

syudou:ほぼリアルタイムで聴いていました。

野田:マジですか!? これ、初めて話すんですけど、実はラジオの放送後、syudouさんからDMをいただいたんですよね。あの瞬間が一番感動しました。DMの文章もすごく丁寧で、「こんな芸人風情になんて丁寧な人なんだ……」と感動しました。思わず「syudouさんからDM来たぞ!」って、何度もTwitterでつぶやこうとしては下書きに入れて……。でも、そんな安い形で公開するんじゃなくて、どこか大きな機会を見つけて言わなきゃと思って、今日まで内緒にしていました。

syudou:僕もまったく同じで。曲の内容を色々と考察いただくことは多いんですが、自分から話すのって野暮だなと思っているんです。ただ、こうして素晴らしい機会があるなら話したいと考えていたので、今回「ぜひ!」と対談を受けさせていただきました。DMを送ったのも、せめて感謝は伝えたいと思ったからで。この対談をもって、ハッキリと「爆笑」はマヂカルラブリーさんを題材にした曲だと宣言します。

「野田さんは“お笑いロマンの塊”」(syudou)

ーー早速アツい展開になってきました……。ちなみに、syudouさんはかなりのお笑い好き・ラジオ好きですよね。

syudou:詳しい人はもっとたくさんいると思うのですが、自分の文化的なルーツにラジオがある、というのは間違いないです。元々は中学生時代に何気なく聴いていたところからスタートして、声優さん好きが高じてアニラジを聴くようになりました。アニラジは可愛いし格好いいし面白いんですけど、だんだん面白さを重視して聴くようになって、自分は面白いラジオが好きなんだと気づいてからは、芸人さんのラジオにハマり、ずっと聴き続けています。

野田:たしかにアニラジは僕も聴いてましたね。声優さん同士の関係性が気になっちゃって。

――いまはお笑いラジオのリスナーということですが、もちろん『マヂカルラブリーのオールナイトニッポン0(ZERO)』も……。

syudou:めちゃくちゃ聴いてます。

野田:嬉しい。

syudou:「爆笑」にも繋がるんですが、マヂラブのお二方もそうなんですけど、野田さんが僕の中で「圧倒的に格好いい人」なんですよ。お笑いロマンの塊というか。ただふざけてるだけじゃなくて、要所でとてつもなく格好いい姿が垣間見えるんですよね。『M-1グランプリ2020 アナザーストーリー』も、『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』の解散ドッキリもそうです。グッと格好いいことを言うんだけど、板の上ではああやって暴れまわってるという落差にも、カリスマ性を感じているんです。

野田:「爆笑」を聴いたとき、「ああ、俺かっけえな」って思いましたよ(笑)。

syudou:この曲を作るに至ったのは、単純に野田さんのことを尊敬していたのもそうなんですが、タイミング的に自分で歌唱を始めるタイミングだったということもあって。ボカロPとして軌道に乗って、自分の歌もやっていこうというタイミングでAdoさんに書かせていただいた「うっせぇわ」がヒットして。いままで以上に聴いていただく数や見てくれる方が多くなって、結構しんどくなってしまったんです。否定的な意見も目にするようになって、「こういう感じでしんどくなるんだ……」と感じました。

野田:わかる。急に否定的な意見が増えると、嫌でも目につきますよね。

syudou:もっとグラデーションで来ると思ったんですけど、そんなことはなかったですね。もちろん、ヒットする前は注目されたいと思っていた人間ですし、会社員として数年前まで働いてたこともあって「見ていただけるだけでありがたい」と捉えていたんですが、やっぱり辛いところは辛かったんです。そうして自分なりに乗り越え方を模索しているときに、ちょうど『M-1』を観て。その後に起こっている“漫才なのか論争”や、それを受けての野田さん本人の反応と自分の姿がどこかダブってしまったんです。

 おそらく、漫才に対してすごくプライドも憧れもあって、何年も何十年もかけて誰にも文句を言わせない『M-1』チャンピオンという称号を勝ち取ったのに、まだ揶揄してくる人がいて、辛かった時期もあったと思うんです。でもそれを全部お笑いで返す姿が本当に格好よくて。「自分もミュージシャンなら、全部音楽で返さないと」と思って、この曲を作りました。

野田:たしかに、心の叫びのような歌詞ですよね。syudouさんが言うように、急にいろんな人が言及しだすとビックリするんですよね。本当に自分とは関係ない人が自分を見ると、こういうリアクションになるんだって初めて気付かされるんです。

syudou:それまで知ってくださる方は自分やボーカロイドに興味があった人だけど、ヒットを経由することで自分のことは知らないし、なんだったら明日忘れてるくらいの人からもいろんな言葉が飛んでくるんですよね。それにいちいち引っかかるのも変だけど、とはいえ見てしまう、という葛藤はありました。

――「爆笑」はマヂラブや野田さんへの宛書であり、自分が覚悟を決めるための曲でもあったと。

syudou:そうです。他にも野田さんと自分を重ねている部分はあって。先ほど話したように、僕はハチさん・米津玄師さんから大きな影響を受けて、その背中を追いかけているのですが、野田さんも「松本人志さんの生まれ変わりだ」というくらいダウンタウンの松本さんをリスペクトしているじゃないですか。自分がオリジナルだと主張せず、憧れも隠さずに胸を張る姿勢にも共感しました。

 あとは都市伝説レベルですけど、THE HIGH-LOWSの「日曜日よりの使者」は松本人志さんに向けられているんじゃないか、みたいな考察に胸が熱くなったこともあったので、自分もそれに近い、芸人さんへのリスペクトを込めたいなと。

野田:ありがたいですね。僕自身はこういう歌詞を読んで「自分がやってきたことは間違いじゃないんだな」と確認するような感覚なんですよ。なにが起こったとしても、自分にやれることはボケるしかないので、否定的な意見があったとしても、それにボケるしかない。逆にそれ以外をやってないから、これで大丈夫なんだろうかと思っていたところに「爆笑」がリリースされて、満点の解答用紙が返ってきた感覚でした。より自分のなかで、自分のキャラクターが固まったといえるかも。

syudou:嬉しいですね……。最初は一部の方の考察で盛り上がっていただけたら十分嬉しいな、というくらいだったんですけど。

――まさかリリース当日に本人たちがラジオで考察するとは思わなかったと。

野田:「でも俺ら『ややウケ』だしなあ」「『爆笑』ではないか」なんて言ってましたけど(笑)。

――「西の魔女」というフレーズでも大いに盛り上がっていました。

syudou:これもお察しの通りですよね(笑)。1番の歌詞は先ほど話したように“注目されていくことに対する姿勢”なんですけど、2番は露骨にお二人のオマージュですね。とはいえ、野田さんだけの曲になるのも違うよなと思って、村上さんの時計好きや、ネタの中で出てくる要素を踏まえて、サビに〈オーデマピゲ&デモン〉という言葉を入れたりしました。

野田:マヂカルラブリーだけじゃなく、漫才師というよりお笑いに携わる人間の曲だなと思いますね。みんなが感じていることだと思うし、芸人を辞めてもこれに代わる仕事ってないじゃないですか。だから、「辞めろ」という言葉に対して「それは俺に死ねっていうことだな」が口から出たんだと思うし。そもそもこの歌詞をみて「『アナザーストーリー』まで見てるの!?」とビックリしましたけど。

syudou:単なるファンソングということでは全くなくて。自分も会社を辞めて上京してきているので、親との接し方に悩んでいた時期もあって「自分もそう返せたらよかったな」と思ったんですよね。

――ちなみに野田さんが一番刺さったフレーズは?

野田:自分の話が色濃く書かれている2番は全部嬉しいんですけど、漫才師として刺さったのは〈この名前くらいは覚えて帰れ〉かな。普段はポップに言ってるけど、漫才師は全員心の中でこれくらいのテンションなんだよなと思って。

syudou:いろんな芸人さんがツカミで使うフレーズですけど、おそらく滾って言ってるんだろうなと思ったんです。いまで言えば『浅草キッド』的なバイブスというか(笑)。あとは、流行ってるからとなんとなく聴いて帰るひとたちがいっぱいいるなかで、名前くらいはなんとか叩きこんでやりたいという作り手のエゴも込めたつもりです。ちなみに最後の〈出囃子は鳴ってんだ〉は、漫才の出囃子のことでもあるんですが、野田さんがアルバムとして出している『出囃子』も掛かっています。

野田:マジかー!!(笑)

syudou:いろんな箇所はみなさんの考察の通りだったりするんですが、偶然だったことがひとつあって。曲の時間が「吊り革」のネタ時間と一緒という考察を見たことがあるんですが、あれは偶然なんですよ。

――それはそれですごいんですが!

syudou:ラジオへのメールで指摘されている方がいて、急いで調べたらそうだったので自分でびっくりしましたし、なぜか「俺、すげえ!」という感覚になりました。こうやって自分の想像の範囲を超えて考察してくださるのは、作り手としてもめちゃくちゃ面白いですね。とくにボカロとお笑いのファンの方は、その傾向が強い気がします。

野田:『M-1』の視聴者はまさにそうかも。普通の寄席や営業は、みんな流れるようにネタを見るわけなので、一個のボケとかにいろんなものを入れられなくて、表面で盛り上がってくれたらいいネタをやることが多い。ただ、そういうネタを持っていくと、お客さんも審査員の方もみんな物足りない顔をするんですよ。だから、こっちが相手が取れないくらいの球を投げないといけないんです。

syudou:ほかの賞レースもそういう感じですか。

野田:賞レースは基本的に全力投球ですね。「もう見ましたよそれは」という姿勢の人たちばかりの中でやるから。こちらは全力投球するしかなくて、その結果として決勝のああいう雰囲気が生まれるんですよ。決勝は審査員の方とか見に来るお客さんの方に対して全力投球で投げて、その場も盛り上がって点数もすごく高くなるけど、終わってみたら一般のお客さんがいることを思い出すくらいで、そこには温度差があって。そうなってくると「なんだあれは」みたいな漫才論争の標的にもなったりする。

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