人類は「イノシシの時代」の先へ進む覚悟はあるか メタバースを通じて会得した“魂で会話する”こと

人類は「イノシシの時代」の先へ?

 3月19日に発売された、メタバースエヴァンジェリスト・バーチャル美少女ねむ初の単著『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』に関する、筆者へのインタビュー。前編【ソーシャルVRにNFTは不要なのか? バーチャル美少女ねむと考える、メタバースの“誤解”】ではNFTとメタバースに生まれている誤解など、さまざまなメタバースを取り巻く環境について話してもらった。

 後編では、他人へ無意識にロールを被せることがなくなるなど、メタバースを通じて人類が“進化”した点、VTuberとメタバースなどについて、大いに語ってもらえた。(編集部)

VTuberは「有名人」の仮面を脱げない。だけどメタバースなら……

――直近は、メタバース界隈の人とNFT界隈の人の一部が、Twitterのスペースなどを通じて情報交換をよくされていますね。ただ、メタバース側の人の多くは、情報商材屋や「日本メタバース協会」などの一件もあり、相当に警戒している様子です。

ねむ:いろいろあったので仕方ないと思うんですけど、メタバース界隈の人はNFTという言葉に対してちょっと神経質になりすぎているかなって思ってますね。NFTと言っても、誰もが価格操作の目的で誤情報を流している人ばかりでは決してなくて、純粋に技術や可能性を信じている真面目な人もたくさんいます。「NFT帰れ!」って言わなくても、「NFTとメタバース関係ないんですよー、メタバースこっちでーす!」って、”深み”へ案内すればいいかなと思いますよ。

――純粋に興味を持ってくれる人もいるはずですからね。でも、それを快く思わない人もいそうです。

ねむ:私はいまのメタバースは経済性の観点でも人口の観点でも不完全だと思っているんですけど、“メタバース原住民”にはいまのメタバースが好きで、「安住の地」だと思っている人も多いので、「頼むから入ってこないで!」と守りに入っちゃう人もいますね。それでは尻すぼみになってしまうと思うので、むしろこんなに注目されるチャンスめったにないと考えて、色んな人を呼びこんでいけばいいのかなって。

――ふと思ったのですが、ねむさんみたいな“メタバース原住民”って、昨今のメタバースブームに対してどう思われているのでしょうか? 賛成か反対か、どちらが多いかもわかりますかね?

ねむ:まぁ、いろいろですよねぇ……私みたいな「お祭りだー!」ってノリで、よくわからんけど乗っかっておこうって人もいれば、「メタバース絶対反対!」「お金稼ぎするところじゃありません!」という人もいますよね。良くも悪くもいろいろと注目されたことで、意識が変わったなという感じはします。私のまわりはお祭り好きな人が多いので、周囲を見渡すだけだとみんな楽しんでいるように見えますけど、物静かに暮らしているだけの人とかはどう考えてるんでしょうね……正直かえってめんどくさいと思ってる人も多いと思います。

――私はとある取材をきっかけにいろんな人と「VRChat」で知り合ったのですが、必然的になんらかの発信者との接点が多くなっているので、昨今のブームは肯定的な反応が多い印象なんですよね。でも、本当の意味での一般人に意外と出会えていないなって……。

ねむ:メタバースの文化は、私にも本当にわからないんですよ! 本当にサイロ化されていて。現実だったら、たとえば渋谷にいけば「いろんな人がいるんだね」とわかると思うんですけど、メタバースだとプライベートな空間に引きこもることができるので、ちがう文化圏の人と会えないんですよね。

――「VRChat」でもPublicインスタンスへ出歩く人って少ないですよね。みんなだいたいPrivateインスタンスに引きこもっている。

ねむ:だから、私もVR国勢調査(ソーシャルVR国勢調査2021)をやるまでは、どんな人がほかにいるのかって、いまいちイメージが湧いていなかったんですよ。VR国勢調査をやったことで、はじめて「案外私と同じような人がいるんだ!」とか、「ここはそうでもないんだ」って、いろいろわかったんですよね。ほんとうに世界初の試みだったんですけど、やっぱり定性的には語れないので、定量化するしかないんですよね。文化圏によってやってることがちがうので。

――しかし、そこまでやったねむさんでも「わからない」としか言えないとは……。

ねむ:「わからない」がある意味答えですよね。「毎日『VRChat』に入ってる」という人ばっかりのグループもいれば、「ボイチェン(ボイスチェンジャー)は邪道。みんな女声できて当然でしょ」という“両声類グループ”もいれば、逆にボイチェンだけのグループもあれば、ただ飲んでるだけのグループもいますからね。あと、VTuber・インフルエンサーのファンのグループもいますね。というか、表に出てくるひとはこのタイプだけかもしれませんね。

――VTuberといえば、昨年下半期から「VTuberとソーシャルVRが交わっている」と感じる人が、自分も含めて一定数いるみたいです。自身もVTuberの先駆者の一人であるねむさんの視点からは、この下半期はどう見えていますか?

ねむ:たしかに増えていますよね。やっぱりコロナの影響で「VRChat」の住人が増えてきたのもあるんですが、「この世界に住む」となると、VTuberは相性がいいと思うので、入ってきやすいのかなって思います。

――本書の中でも「号(雅号)」とVTuber、メタバースをからめるコラムがありましたね。

ねむ:号やペンネームで活動するという意味でいうと、ソーシャルVRもVTuberも同じようなものですから。配信するかしないかの違いですよね。

――「VRChat」の中でVTuberさんを見かけることも増えたように思います。ねむさんは「VRChat」でVTuberさんと遭遇したご経験はありますか?

ねむ:このあいだ、おめがシスターズのおめがリオちゃんがPublicインスタンスにいてびっくりしましたね!

――おめがシスターズって「VRChat」の動画をたまに出しますけど、本当にPublicインスタンスに現れるんですね!

ねむ:でも、おめシスはおめシスとして来てたんですよ。逆にすごくおもしろかったのが、有名なVTuberであることを隠して「VRChat」に来ている人がいたんですよね。こっそり打ち明けてもらったんですけど、私がVTuberとしても知り合いだったのでびっくりしちゃって、「なんで言わないの? 言えばいいじゃん!」って思っちゃったんですよ。ソーシャルVRって友達を増やしてなんぼなところがあるので、有名VTuberだって言えば、あっという間にフレンドが増えるはずで、「強くてニューゲーム」になるじゃないですか!

――それはそうですけど(笑)。なにか事情があったということですね。

ねむ:その子が言うには、「プライベートの時間がほしい」とのことでした。その子、専業のVTuberなんですよ。

――なるほど……VTuberという「バーチャルな著名人」ではなく、「バーチャルな一般人」として過ごしたいっていうことですね。

ねむ:私は昼間は一般人として働いているので「別の世界」があります。でも、専業VTuberって、VTuberである間は「有名人」という仮面を脱げないんですよね。そして……もしかしたら、現実でも人との関わりが薄いかもしれない。そうなった時に、もう一つの「バーチャルの顔」を持っておいて、VTuberじゃない一般人としての顔があるといいのかなって思いました。

――芸能人がお忍びで訪れる感覚に近いのかもしれませんね。

ねむ:有名人って「有名人の仮面」を脱げないじゃないですか。あれすごい不便だと思うんですよね。私は身バレしないように活動していますけど、その理由は「疲れるから」です。有名じゃない存在にもなれるほうが楽なので。だから専業のVTuberは、プライベートな時間をバーチャルな存在として過ごしたい気持ちがあるんじゃないかなと思います。

――このあたりは、本書でも取り上げられている「分人」の概念が解決していきそうですね。

ねむ:自分の中の「分人」をどういうふうに切り出して、メタバースで生活していくかが、今後のメタバース時代の人類のテーマになるよってことですね。ただ、人間の時間が24時間しかないのはメタバースでも変えようがないので、たくさん分人を作れればいいというものでもないですね。有名な人格と有名じゃない人格を切り替えられると便利そうですよね。スーツを着ているときと、パジャマを着ているときのちがいみたいな感じで。

――パブリックな公人と、プライベートな一般人の使い分けができると。

ねむ:そういうように人格を切り替えるのが、今後当たり前になるのかなって。それがメタバースのもたらす最も革命的な要素だと思います。

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