アバター、それは誰の魂か 最上級のメタバースアバター劇場『テアトロ・ガットネーロ』を観劇した

メタバースアバター劇場『テアトロ・ガットネーロ』レポ

 シルク・ドゥ・ソレイユを彷彿とさせる高級感のあるテント会場。扉を開けた途端に目に飛び込んでくるその光景に息をのむ。ドレスコードで揃えられた専用アバターに身を包んだ観客からは、期待感にあふれた上ずった声が聞こえてくる。

 私は2月10日、メタバース空間「VRChat」にて開催されているアバター劇場『テアトロ・ガットネーロ -The Auction-』へと足を運んでいた。メタバース発のアバター専門店「黒猫洋品店」が主催する本公演は、「アバターの魅力を引き出す」ことを主眼においた劇場型アバター宣伝イベントだ。

 世界最大級のクリエイティブの祭典SXSW・アバターダンスコンテストでの優勝経験を持つyoikami氏が団長を務めるプロアクター集団「カソウ舞踏団」が演者を務め、イベント企画は山猫氏、イベントアドバイザー兼司会補佐にろれる氏が、会場デザインは、イラストレーターのかんにゃ氏が、ワールド制作は黒猫洋品店とMinaFrancesca氏が、会場BGMはサウンドクリエイターのAtree氏が担当するなど、メタバースの最前線で活躍するクリエイター陣が届ける“メタバース内屈指の劇場”としてユーザーから高い評価を受けている。これまで、昨年4月に第一幕を、6月に第二幕を実施。そのいずれもが満員御礼という人気ぶりを見せていた。

開演前、yoikami氏により説明されたメインスタッフリスト
開演前、yoikami氏により説明されたメインスタッフリスト

 コロナ禍の抑圧を一切感じさせない熱気に包まれる会場。まさに時代の最先端を行く劇場体験がそこにある。アバターに息吹を吹き込むカソウ舞踏団と豪華絢爛な舞台演出が織りなすバーチャルならではの舞台体験を早速レポートしていく。

扉を開けてまず飛び込んでくる光景。バーチャルなのに「空気感」が伝わってくる美麗な空間だ
扉を開けてまず飛び込んでくる光景。バーチャルなのに「空気感」が伝わってくる美麗な空間だ

 本公演のテーマ、それは「アバターとは何か」だ。これまでの「第一幕」「第二幕」というナンバリングから打って変わってつけられた副題「The Auction」。そこには、これまでのアバター宣伝劇に加え、よりメッセージ性を込め、問いを投げかけたいという想いがあったという。

開演に先立ち演目の想いを語る黒猫洋品店・うぃりあむ氏(中央の赤いドレスのアバター)
開演に先立ち演目の想いを語る黒猫洋品店・うぃりあむ氏(中央の赤いドレスのアバター)

 アバターとは自分の分身だ。バーチャル空間上での自分自身の姿、それがアバターだ。しかし、一方で「好みの姿」でもある。本当の身体ほど不可分ではなく、かといってキャラクターのように完全に切り離されたものでもない。主体と客体の狭間にあるようなそんな存在が「アバター」なのだ。

 前半、ショーケースのパートではカソウ舞踏団によりGOLDENTAKASAN制作「卯兎」(マオトゥ)に息吹が宿る。単にアバターを着て動いてみせるだけでなく、アバターの持つ「アクションが映える」という機能性をいかしつつ、まるでアバターが自ら動き出しているかのような自然な動きを魅せる。カソウ舞踏団の魅せる動きに見惚れながら、「これは自身の身体に合うアバターなのか」と品定めをする。命が吹き込まれているからこそ、生き生きとした様子に想像を膨らませることができた。

 後半、第2部ではいよいよアバター演劇が始まる。紹介するアバターは、ここやこ制作の「Lilie」(リリエ)と、第六製鉄部制作の「Silvia」(シルヴィア)だ。

 アバター劇冒頭、司会を務めるメビウスはこう話す。

「アバターにも魂はあるのです。金槌であろうと無骨な刀であろうと、職人が丹精を込めて創り上げたものには魂が宿るのです。

魂が宿ったものを売買する。言葉にすると何やら恐ろしいことに思えますが、手作りのアクセサリーを買うこともそう。そう思えばいいのです。同じことなのですから。

これまでのテアトロ・ガットネーロでアバターを購入なさった方も同じことなのですから。それでは、魂そのもののオークションを始めさせていただきます」

沈黙ののち、緊迫した空気感の中ゆっくりと語気を強めるメビウス
沈黙ののち、緊迫した空気感の中ゆっくりと語気を強めるメビウス

 そう。これは「The Auction=競売」だったのだ。この宣言により、我々観客は魂が宿ったアバターを品定めするオークションの参加者へと変貌した。観客をも巻き込み、「アバターとは何か」を考えさせる。ましてや、アバターを購入することに恐怖すら感じさせる。アバター宣伝劇としてもかなり攻めた内容だ。「自分に本当に合ったアバターを探してほしい、見つけてほしい」そんな黒猫洋品店とカソウ舞踏団の想いあってこその脚本だろう。

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