『Weekly Virtual News』(2022年1月24日号)
イラストレーターはVTuberに、蕎麦屋はVRメタバース屋に バーチャルで多様化する「やってみたい自分」
「イラストレーター兼VTuber」という肩書は、この数年でかなり一般的になった。その代表的な存在ともいえるしぐれういが、1月16日に3Dモデルを発表した。
ホロライブ所属のタレント・大空スバルのキャラクターデザイン担当(俗にいう「ママ」)としても知られるしぐれういは、2019年にその大空スバルに誘われる形で配信活動を開始。現在のチャンネル登録者数は約68万人と、並みいるトップVTuberと肩を並べ得る存在だ。待望ともいえる3Dモデルは、もとのイラストを見事に立体化しており、クオリティは十全。お披露目配信も構成や演出が凝っており、企業に属さないいわゆる「個人勢」の3Dお披露目配信としては、ひとつの到達点と言えるだろう。イラストレーターとしても順風満帆であり、今後もマルチプレイヤーとして活躍が期待される一人だ。
イラストレーターがVTuberを始める時代。では、蕎麦屋はなにを始めるのだろうか? その一例となるかは不明だが、「手打そば 田奈部」は、その事業内容にVRを追加したことを発表した。店の軒先に、「メタバースはじめました」という張り紙を添えて。
「VR蕎麦屋タナベ」こと田名部康介氏は、本業の蕎麦屋の傍ら、『VRChat』にて数々の独創的なワールドを発表している、日本のVRChatコミュニティにおける著名なクリエイターの一人だ。代表作のひとつである「ファンタズムセブン」は、有志から募集した文字通り”あらゆる”展示物を集結させた、カオスの究極ともいえる仕上がりで話題となった。シュールかつ独創的な制作物で話題を呼ぶ一方、日産自動車公式ワールド「NISSAN CROSSING」なども手掛けており、精緻な仕事も見事にこなしてみせる職人だ。
1月22日に放送された『マツコ会議』では、「メタバース特集」のゲストとして同氏が招かれた。マツコ・デラックスが番組内で訪れたのは、なんと「ファンタズムセブン」。田名部氏と友人たちに導かれながらカオスの中を探索するマツコは、終始驚きながらも好意的な反応を見せており、そしてその理解も非常に早かった。一通り体験した後、マツコは「(魂がむき出しになる)メタバースって心地よいかも」と感想を述べたが、これはVRメタバースのコアな魅力の一つだろう。地上波にてVRメタバースの根源的な魅力を見事に伝えた蕎麦屋が、事業としてさらにメタバースを豊かにする未来に期待したい。
『VRChat』にワールドをひとつ作るのはなかなかに大変である。アセットやパッケージ製品などを活用すれば多少楽にはなるが、本格的に作り込むとなればUnityとの格闘は避けられないだろう。だが、VTuberの水瓶ミアは、そうした格闘を乗り越えたようである。
1月22日に、『VRChat』にVTuber事務所・Re:AcTの公式ワールド(※2)がオープンした。同事務所は現在17名のタレントが所属し、直近は音楽活動への注力が見られる、業界でも古株寄りの事務所だ。同ワールドには所属タレントの紹介に加え、楽曲の購入導線や、歌ってみた動画を再生できるプレイヤーなど、様々なコンテンツにあふれている。このワールドの制作を、上記の通り所属タレントの一人である水瓶ミアが手掛けたことは特筆すべきだろう。熱量があればタレントもワールドクリエイターになれる。メタバースブームの熱量は、VTuber業界のみならず、VTuber本人にも興味深い進化をもたらしそうだ。