「字幕」の進化、手話の導入、コントローラーの課題解消……変化するビデオゲームとアクセシビリティの現在

変化するゲームとアクセシビリティ

「目が見えないこと」自体をゲーム・システムのコアに取り入れたRPGの登場

 アクセシビリティに対する新たなアプローチとして、2021年、最もインパクトを与えた作品の一つが、新興のインディ・デベロッパーであるFalling Squirrelが手がけたロールプレイングゲーム、『The Vale: Shadow of the Crown』(PC/Xbox)である。Canadian National Institute for the Blind (目の不自由な人々の支援と視力健康に関する情報提供を目的とした、カナダのボランティア機関及び慈善団体)の協力を得ながら、視覚障害を持つ役者や開発者を交えて制作された本作は、ここまで名前を挙げてきたタイトルのような、視覚に障害がある人“も”楽しめる作品ではなく、目が見えないこと自体をゲームプレイの根幹に組み込んだ作品である。本作の主人公であるアレックスは生まれつき全盲であり、その表現にあたって、ゲーム画面に一切の視覚的な情報が表示されないようになっているのである。本作には字幕機能も一切用意されていないため、主人公と同様に全盲のプレイヤーも、そうではないプレイヤーも、等しく音のみを頼りに本作をプレイすることになるのだ。

The Vale: Shadow of the Crown (Blind Accessible Audio Game) -- Launch Trailer

しかし、本作は決して、いわゆる「実験的な作品」ではない。フィールドや建物の探索はもちろんのこと、物語の理解を深める様々なサイドクエストの存在や、剣や弓や魔法といった様々な装備を使いこなす戦闘場面、物語を進めていく上で増えていく仲間の存在や、そしてプレイヤーの選択によって物語が変わっていく分岐の存在など、「RPG」と聞いて想起される要素を一通り揃えた、れっきとした一本の作品である(プレイ時間は約6~10時間程度)。また、あくまでベースは一人称視点のRPGであり、プレイヤーは能動的にスティックやボタンを駆使しながら世界を探索し、実際に敵に向かって剣を振り下ろす必要がある。そのため、プレイヤーはとにかく徹底的に「聴くこと」に集中し、音の鳴る方向や音量、音から推測される事象を元に状況を把握し、適切な行動をとる必要があるのだ。オーディオ・デザインは極めてリッチに制作されており、(環境を整えれば)まさにその場にいるかのような感覚で冒険に没入することができる。まさに発想の転換とも言えるアプローチに挑んだ本作だが、その試みは見事に成功している。現時点で日本語未対応ではあるものの、これもまた、2021年のビデオゲームのアクセシビリティを考える上では欠かすことのできない作品であり、ぜひ触れてみてほしいと思う。

 ここまで書いてきたように、この数年でビデオゲームにおけるアクセシビリティの分野は飛躍的に進化している。とはいえ、忘れてはならないのは、「だからといってすべての人々がゲームを楽しめているわけではない」という点だ。本稿で取り上げた様々なアクセシビリティの取り組みは、一つひとつが、アクセシビリティにおける特定のセグメントを補助するものであり、決してすべての領域をカバーしているわけではない。ゲーム開発者側だけではなく、プレイヤー側もこれらの取り組みをサポートし、業界全体で知識を共有し、着実に前へと進んでいくことが重要である。

 2022年は、ここ数年で類を見ないほどに多くのビッグタイトルのリリースが控えているという記念すべき年だ。ゲームを楽しむのは勿論のこと、ぜひ、その作品がどのようにアクセシビリティと向き合っているのかについても併せてチェックしてみてほしい。

*1 https://caniplaythat.com/2020/06/12/the-last-of-us-2-deaf-hoh-review/

*2 https://caniplaythat.com/2020/06/18/the-last-of-us-2-review-blind-accessibility/

*3 https://www.bungie.net/ja/News/Article/50745

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