「いまのテレビ局はネットを見過ぎ」 『ABEMA Prime』郭晃彰と考える“報道とニュースのあり方”

『ABEMA Prime』郭晃彰と考える“報道とニュース”

 『ABEMA的ニュースショー』『ABEMA Prime』『ABEMAヒルズ』『ABEMA Morning』など多角的に「報道」を掘り下げ、さまざまな年齢層に届けているABEMA。

 スマートフォンの登場で様々な形でニュースを受け取る人が増えたなか、ABEMAニュースがこの1年を通して感じた課題と、来年で実現したいことは何か。

 『ABEMA Prime』チーフプロデューサーの郭晃彰氏にインタビューを敢行した。

ABEMAニュースが考える番組構成の「3つの軸」

『ABEMA Prime』チーフプロデューサー 郭晃彰
『ABEMA Prime』チーフプロデューサー 郭晃彰氏

ーー現在ABEMAでは、さまざまな時間帯や曜日で多角的に「報道」を掘り下げた番組が放映されています。あらためて、番組編成とその意図について聞かせてください。

郭:ABEMAは情報インフラとしてしっかり機能させ、価値を提供できるような意識を持って運営しています。現状の番組構成は「時短で見られるもの」、「ながらで見られるもの」、「目的で見られるもの」の3つの考え方をもとに行っています。まず、時短視聴は朝の『ABEMA Morning』や夕方の『アベマ倍速ニュース』、オンデマンドのコンテンツなどが挙げられます。

 ながら視聴は、日中の時間帯にニュースを見ながら仕事をしたり家事をしたりするライフスタイルをイメージしていて、腰を据えて見るのではなく、ラフな形でも見られるような構成にしています。目的視聴で言えば『ABEMA Prime』や『NewsBAR橋下』など、ほかと違った切り口や視点で議論するような番組が代表的なものですね。

 私はテレビ朝日から出向しているので、最初は地上波と同じようにオリジナル番組のコンテンツを拡充していき、クオリティを磨き上げていけば、数字が伸びるだろうと思っていたんです。でも、次第に「これまでのやり方はインターネットには合わない」と感じるようになりました。オンデマンドでしっかり見られるものや、空いたすきま時間でもチェックできる動画を充実させた方がネットの特性に合うことに気付き、いまではそちらに注力していている状況です。

ーー地上波の感覚からネットの感覚へ徐々にアジャストしていったと思うのですが、先ほど話していた“インターネットには合わないと気づいたタイミング”は何年前のことでしょう。

郭:2016年に開局してから、2~3年後のことです。最初はユーザー数の伸びも好調だったのですが、そのタイミングで成長が鈍化してきました。その原因は“ネットでニュース動画を見る”という行為自体がそもそも存在していなかったことだと感じています。LINE NEWSやYahoo!ニュース、Twitterなどのテキストで情報収集するのが主流で、ネットで報道番組やニュースを見る文化がまだ広まっていないんです。そんな中、NewsPicksが動画を始めたり、TBSが力を入れてきたりとライバルが出てきたことで、市場開拓につながっていて、いい傾向だと思っています。

「瞬間消費されるコンテンツ」よりも「息の長いコンテンツ」を作る

ーーここ1~2年は『ABEMA TIMES』やYouTubeとの連携もあり、非常に成長しているように思えます。

郭:テレビ業界で真似されるようになった結果、大きく成長したということです。『ABEMA TIMES』で記事にしたコンテンツが、別のメディアで引用されたり、それが盛り上がっているのを見てほかのメディアも後追いで記事にすることで、バイラル的に拡散していく、という流れがいくつも生まれました。動画でニュースを見る習慣はない人も、テキストなら目に入るので、その流れが生まれたことにより、多くの新たなユーザーを獲得しましたし、番組を文字で知った人が、オンデマンドやYouTubeで動画を見ることも増えてきました。地上波のテレビに出るよりもABEMAニュースの番組の方が後に残りますし、知ってもらえるという利点は確実にあって、番組に出てもらっているタレントさんや専門家の方の満足度も高い状況です。

ーーなるほど。番組構成や出演者のキャスティングなどはどう最適化していったのですか。

郭:途中から「その日に消費されるコンテンツ」ではなく「息の長いコンテンツ」を作ろうとマインドが変わりましたね。たとえば、発生時期や場所、登場人物が違うだけで同じような図式の事件ってありますよね。社会の構造や仕組みが主な原因で起こったことであれば、ABEMA内に同様のコンテンツがストックされているのに「もう一度同じような内容の番組を作る必要はない」と考えようになりました。もちろん、経験則から一定の数字は取れることもわかっていますが、「似たようなものを再生産するのは無駄」だと思えるようになったんです。

 瞬間視聴のコンテンツを作るよりも、長く見られるサステナブルなコンテンツや教科書的なもの、Webで検索してもまだ出てこないようなコンテンツ制作を意識することで、既存のメディアにはないABEMAならではの独自性を見出せるようになりました。ネット向けに作っているニュース動画はまだ少ないので、さながら“動画のWikipedia”のように、ひとつずつストックしていく感覚で、番組作りに取り組んでいますね。

ここぞという時には、出し惜しみをしないこと

ーーある種テレビ的な考え方から、WebのSEO的な考え方にシフトし、最適化されてきているのは非常に面白いですね。色々と番組を企画してきたなかで、顕著な成功事例と呼べるものは?

郭:真っ先に挙げられるのは、ひろゆきさん関連のコンテンツですね。ひろゆきさんには、コロナ禍になる前からリモートMCとして出演をお願いしていました。当時は働き改革が叫ばれるなか、日本人が世界中どこにいても日本の仕事ができる斬新なものを発明したと思っていましたね(笑)。無論、去年からリモート出演が当たり前になるわけですが、丸2年やってきて、毎日どこかしらにひろゆきさんが出る時代になっちゃいました。ここまでの人気者になるとは、想像もつきませんでした。私自身、たまに大学で授業をやらせてもらう機会もあるのですが、数年前は「ABEMAといえば恋愛番組でしょ」というイメージが学生にありました。それが、今年はひろゆきさんをキッカケに『ABEMA Prime』のことをみんなが知っているんですね。まさに市場を創ってきた実感を得られた瞬間でしたし、多くの人が使っているプラットフォームにヒットコンテンツを置き、まずは面白いと思ってもらい、認知度を高めていくことが大切だと感じています。

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ーープラットフォームの中で、ひとりスーパースターが生まれる効果は相当大きいと感じられたと思います。

郭:コロナ分科会の尾身茂会長が『ABEMA Prime』に出演した時も大きな反響を呼びました。当時はデルタ株が拡大していた頃で、特に若者に対する批判が高まっていた時期でした。そんななか、彼がスタジオで発した「流行は若い人のせいでは全くなく、ウイルスの特徴だ」というメッセージが非常にインパクトのあるものだったので、ABEMA公式Twitterにこのシーンだけを切り出して、動画投稿しました。そして、この時は「続きはAbemaビデオへ」と形式的に番組視聴へ誘導させるのはやめようと判断したんです。

 その結果、ABEMAとして過去2番目に多くのインプレッションを得ることができました。重要なメッセージはユーザーにストレスがない形で届けた方が良いという判断は、何年も試行錯誤しながら、さまざまな手法を試したからこそ出せた答えでした。1年目には絶対にできなかった決断でした。

ーーある種、ここだと思ったら出し惜しみしない判断をするということですね。

郭:そのためにも、毎日“ふざける”ようにしていて(笑)。ルーティンな番組づくりをしていると、とっさのクレイジーな判断って生まれにくいと思うんです。番組スタッフに向けても「昨日と今日は違うことをしよう」と言うようにしています。マンネリ化せず、いつも柔軟な考え方でいられるような意識で日々取り組んでいます。

 あと、尾身さんに関してはもう一つポイントがあります。尾身さんはいつも校長先生みたいな首相の横にいて、教頭先生的な立場から“決まったことだけを伝える人”のように見えると感じていたので、事前の打ち合わせで「若い人が悩みを相談しやすい担任の先生のようなスタンスがいいのでは?」と提案したところ、先程のような発言がありました。また「コロナが終わったら何をしたい?」という質問には「毎日打ち込んでいた剣道をもう一度やりたい」という意外な声を引き出せました。その影響があってかどうかは不明ですが、尾身さん自身もInstagramを始めて発信したりと、若い世代との対話をより大事にしてくださるようになった気がします。

ーー番組からのスターという話に戻すと、平石直之さんや柴田阿弥さんといった看板キャスターの成長も欠かせないと思います。

郭:実は、テレビ朝日入社1年目の時に担当した番組で、MCを務めていたのが平石さんでした。その時は生真面目というか、ガリ勉という印象で(笑)。ヒラのADだった僕がプロデューサーになって、いま平石さんと仕事をしてるのは感慨深いですし、そう考えると2人でよくここまできたなと思いますね。ほかのアナウンサーの方からは「平石さんは最近よく笑うようになった。人間っぽくなった」と言われたりします。

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ーーあのコメンテーターたちのなかで何年もやっていれば、性格のひとつやふたつは変わりますよね。

郭:コメンテーターのみなさんには、「肩書きに関係なくひとりの人間としての価値観や思っていることを話してください」と伝えています。だからこそ、それを生でやりとりする平石さんは、より人間としての自分を曝け出すことを求められている。本人も最初のうちは苦労したと思いますが、自分の意見を話すことに手ごたえを感じてからはリミットが外れて誰よりも話が長くなっているのは、内緒です(笑)。

ーー側からみているとギラギラしてきてるように見えます。

郭:それは本人も喜びます(笑)。柴田さんも最初は原稿をすらすらと読めないところからスタートして、現在は『ABEMA Prime』ではコメンテーターとして、『ABEMAヒルズ』では進行を担当しています。アイドルを卒業してから短期間でここまで成長したのは、相当な努力があってのことだと思います。

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