AIから認識されない服って? 「UNLABELED」が提示する監視社会の課題
タクシーADに疑問を持ったのがきっかけになっている
近年のAI監視社会の形成は、“ビッグ・ブラザー”の名のもとに監視社会を描いた「1984年」(ジョージ・オーウェル)の世界観に近づいているという見方もある。
こうしたメッセージ性の強いトピックを、UNLABELEDがアパレルやアートとして表現するのはなぜなのか。
Dentsu Lab Tokyoの田中 直基氏は「社会性を打ち出すような野心は持っていない」とし、UNLABELEDを立ち上げた経緯や企画の背景についてこう答える。
「何気なくタクシーに乗車した際、座席に備え付けてあったディスプレイに『カメラで性別や年齢を推定し、最適なCMを流します』という注釈が目に入ったんです。タクシーADは広告手法としてここ最近認知されていますが、AIカメラでは性別や年齢を「見た目のアイデンティティー」でしか判断していないことに疑問に思ったのが原体験になっています。AI監視社会の是非は日本ではあまり取り上げられませんが、海外では顔認識AI技術使用禁止の動きのほか、デモにまで発展したり、法が整備されたりする事態が起きていることを知り、何かこの問題に対してクリエイティブの視点から発信できないかと考えたのがきっかけになっています」
クリエイター視点で社会課題をマイルドに伝えたい
あくまでアーティストやクリエイターという立場で社会に小石を投じ、楽しい手法でAI監視社会に興味を持ってもらうことが狙いだという。
UNLABELEDとしては、今回の展示会で初のアパレルブランドとのコラボを披露したわけだが、昨年Media Ambition Tokyoで発表したスプリングコートがターニングポイントになっていると田中氏は話す。
「AI監視社会を生きるための『現代の迷彩服』というコンセプトでインスタレーションの展示を行ったのですが、AIが誤認識し、人だと分からなくするためのパターンや柄、色、デザインなどを何度も検証を実施しました。ゲームシュミレーターの中で人間の全身を3Dスキャンし、仮装空間の中にカメラを仕込んで撮影した画像を、AIの機械学習によって人の認識率を下がるような画像へ徐々に生成していくことを繰り返したんです。結果として、機械が生み出す偶発性のデザインを見出すことができ、実社会で着れるような服をアウトプットとして出せたのが、今回アパレルブランドとのコラボした展示会につながっています」
AIによる監視社会をテーマに、さまざまな角度から実験的な取り組みを創造し続けるUNLABELED。
その斬新なクリエイティビティに、今後の動向に注目が集まることだろう。
最後にこれからの目標について田中氏へ伺った。
「UNLABELEDは海外メディアの方が反応が良いので、海外への露出や海外アーティストとのコラボも実現できればと考えています。また、来年3月にはアメリカで次回作の展示を予定しています。今回は人が人でなくなるという『人間らしさを低下させるパターン』を制作しましたが、次回は心と見た目の不一致の問題を解決する『自分で性別を指定できるカモフラージュ』の開発に挑戦し、新たな境地を目指したいと思います」