にじさんじで最もブレない配信者の一人・鈴谷アキ 3Dの体を手に入れるまでの軌跡

鈴谷アキ、3Dの体を手に入れるまでの軌跡

「自分たちはアプリのテスターや宣伝がお仕事なのだから、Mirrativで配信できるということを皆に知ってもらえれば良いと思っていた。それを言い訳にしてYouTubeで配信をしなかったんだよね」

「今では10万人いけば3Dモデルを制作してもらえたり、新衣装も作ってもらえたり、登録者がいればインフルエンサーとして見えるとか目標があったけど、むかしはそういったものもなかった。だから、登録者が沢山いてもなぁ……と思うこともあった」

 上記の話は、2021年10月18日に元一期生のえるが配信していた「【雑談】沢山眠れて快活元気絶好調(かもね)」のなかで、「アプリのテスターとしてにじさんじに入ったとのころですが、VTuberとして意識し始めたのはいつ頃ですか?」というコメントに対する受け答えだ。

 彼女がこう話すように、そもそもにじさんじの元一期生全員が今でいう「VTuber」然とした振る舞いや配信者・ストリーマーとしての心構えを持っていたとは言いづらかった。現ANYCOLOR社のスタッフと共に、またはその方針に従いながら、元一期生8人は各々が成長していくことになった。

 今回の主役である鈴谷アキも同様に、徐々に自身の配信スタイルを構築していったわけだが、自身のキャラクター性も含めて、おそらくいま現在のにじさんじ内で最もブレることのない配信者の一人だといえよう。

・ほとんどの配信時間1時間から1時間半のなかで収まり、2時間を越えることがあまりない。
・配信開始時間は夜9時半が固定のスタート時間。
・開始時間が前後したり、休むことが分かり次第ツイッターや配信内で報告し、当日急に休むことになっても夜までには一報をする。
・2018年11月から毎週日曜日に勇気ちひろとともに『まほすずラジオ』を続けており、2020年9月6日からはモイラを含めた『モイっと!まほすずラジオ』に変わり、ほぼ休むことなくラジオが続いている。

 特に最初に書かせていただいた「配信時間が1時間から1時間半で収まっている」というのは、デビューした直後の配信からいまにいたるまで続いている鉄則のようですらある。とはいえ、週5回前後と比較的多い配信頻度を考えればとてもファン想いな配慮のようにも感じられる。パズルゲームや謎解きゲームを好み、「Cats Organized Neatly」「Poly Bridge2」「Hidden Folks」といったゲームをプレイしてきた。

 彼の配信でもっとも目を引くのは、雑談時間の多さであろう。これまで約3年に渡る活動で配信してきた雑談配信は200回を超え、先に述べたゲーム配信のなかには「〇〇〇しながら雑談」といったタイトルでスタートし、ゲーム途中でプレイするのをやめて雑談に切り替えたりすることも多々あるので、厳密に言えばもっと多くの枠で彼はトークし続けている。

 にじさんじファンの間ではジョー・力一や夢追翔といった「司会力」「エンタメ向け」なトーク力が目を引くところではある。だが、「配信に来てくれた人と会話をする」というコミュニケーションの意味では、彼がリードする約1時間の配信は非常に強いオーラをまとうことになる。

 そこには様々な要因が重なっているとはいえ、その穏やかなムードで進んでいく雑談枠にも、彼とリスナーの特徴が良く出ているともいえよう。「ファンのコメントを拾い過ぎると、不用心な発言から炎上してしまう」などとも言われているなかにあって、鈴谷アキのトーク・雑談からは一切そういったトーンは感じない。

 垂れ目の目元、金髪のボブカット、通常衣装がフェミニンな洋服と、外見を見てみると男性か女性かが一見分からなくなるビジュアル。正月で着る着物が女性の袴であったり、ハロウィンには猫耳をつけたりなどもするが、外見と声色がバッチリとハマったマッチングがゆえに大きな齟齬感なく見れてしまう。大のスタバ好きでもあり、さまざまな組み合わせとトッピングをSNSや配信内で話すこともある。

 男にして少し線は細く、女性にして温かみある声色、低音成分が薄い男女どちらにも受け取れるトーンは、元一期生にはない魅力であった。発声や語気も強くなったり荒くなる場面が通常の配信ではほとんど見られず、一定のテンションの間で感情を表現し、コメントをうまく拾いながら約1時間にわたってトークしつづけていくスタイル。視聴者も安心して聴き浸ることができるので、ラジオを聴いているかのように流しっぱなしにして楽しむこともできる。

 こういったビジュアルや配信内容は視聴者にもかなり大きな影響を与えており、2021年6月の雑談配信内で調べたところ、男女比は男性60.1%:女性39.9%となっていたことが明らかになった。配信初期には男性が圧倒的だったことを踏まえると、この比率は配信内容による変化だといえよう。

 落ち着いた振る舞いや配信内容はにじさんじのなかでも異色中の異色で、「鈴谷アキと陽だまりの庭」というチャンネル名に負けない、ほっこりとした穏やかムードは無二のオリジナリティがある。その無邪気そうな姿は、自分自身をうまく理解してつくりあげたというよりも、最初から自然と出来ていた彼の天性とキャラクターの外見が相まったものだといえよう。そのムードやスタイルはほとんどブレることなく3年間続いていった。

 だが、この「優しそうなイメージ」を崩してはいけないと気にしたゆえか、ほかのVTuberとのコラボ配信の頻度が当初から非常に少なく、参加者が多いにじさんじ内の大型コラボ配信に参加することもあまりないため、比例して彼の配信を知るチャンスを逸していた側面は大いにあるだろう。

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