SKY-HIと考える「これからのマネジメントに必要なもの」 『THE FIRST』を通じて向き合う“芸能・音楽業界の課題”
——話の角度を少し変えて、マネタイズについて伺いたいです。クラウドファンディングのポイントは、ライブ含めて制作した作品に対して後から対価を得るという従来の構造ではなく、先に対価を獲得し、それを資金として制作・活動を行なっていくという、非常に雑な言い方をすればお金が入ってくる時期をズラすというやり方とも言えるわけですけど。そういう意味においては、最初に話していただいた資金繰りのこと以外に、日高くんはマネタイズに対してどういう考えを持って今回のクラウドファンディングに臨んだんですか。
SKY-HI:それは3つあって。ひとつ目は、いま出ている数字から考えると、従来のやり方でマネタイズをしていっても半年後くらいにはある程度まとまった対価が入るだろうとは思うんですけど、でもBE:FIRSTのメジャーデビューのタイミングだったり、制作や興行を打つタイミングを考えると、ちょっと先立つ体力があまりにも不安だなと(笑)。その上でふたつ目は、「だったらそれを言っちゃえばいいんじゃない?」と思ったこと。
——というのは?
SKY-HI:『THE FIRST』のときも大事にしてたのは、嘘をつかないってことなんです。脚本・演出がないことも含め、一切嘘をつかない。合宿で1ヶ月彼らと一緒に暮らしましたけど、1ヶ月も暮らせばメッキなんて全部剥げるんですよ。だからハナからメッキはひとつも被せない、体裁を取り繕わない。なので正直に、見通しは明るいけど直近の資金に困ってるよ、ということを言っちゃおうと思ったんですよね。で、みっつ目は、従来のやり方を見たときに、人の応援したいと思ってくれる気持ちを搾取する構造が多過ぎるなと常々思っていたというのがありますね。これは難しいところなんですが、本来、CDやグッズを買う行動と、そのアーティストの活動を応援したいっていう行動は別であるべきだと考えていて。CDやグッズというのは、あくまでも「そのモノを欲しい」という理由で買うべきなのかなと。
——つまり作品を買うという行動は、その作品を手に入れたいと思うからこそ対価を払うということであり、お布施ではない。
SKY-HI:それに近いかな。もちろん、これはCDを複数枚買うという行為を否定しているわけでは決してないんです。そういう気持ちを持ってくれる人のために形態数を充実させたり、そのどれか、もしくは全部買ってくれても満足してもらえるように楽曲以外の内容も全力でしっかりしたものにしていく一方で、同じCDを「積む」みたいな感覚で必要以上に大量に買ってもらうことに対して不健全さを感じているのも事実で。応援したいという気持ちを搾取してCDを買わせることを煽るような行為はしたくない。応援したいというファンダムの団結がSNSでムーヴメントを起こしている例がたくさんあるように、その気持ちが大きな力を生むことは確かだし、それは大切なものだからこそ、そこを混ぜこぜにしたまま進むような従来のやり方は、もう一度ちゃんと見直すべきなんじゃないかなと思ってる。CDを100枚単位で買うことがオリコンのチャートに繋がってニュースになる、みたいなことを応援としてやってくださるファンの方がいたとして、そのファンの方に対して感謝はめちゃくちゃするわけですけど、それは果たして健全なのかといえば、そうではないと思うんですよ。それを煽るようなシステム含め。チャートアクションがプロモーションやブランドに直結する部分もあるのは確かなのですぐ解決する問題ではないと思いますが、考える事はやめちゃいけないことだとも思います。
そういう部分も含めて、より健全な形で、より本質に立ち返りたい。その意味で、今回のようなクラウドファンディングは、応援したいという気持ちをそのままダイレクトに受け取れるものなので、その気持ちを資金という形でお預かりして、活動によって返していくということをいまのタイミングで始められたことはよかったなと思っています。あと、今回のクラウドファンディングをしたいま、支援購入してくれた方に対して自分が思っているのは、BE:FIRSTをはじめBMSGのアーティストの作品がこれから世に出ていったときに、「自分のサポートしている会社の作品が出たぞ」という気持ちで過ごしてみて欲しい、ということなんです。それがあなたの生活にどれくらいの潤いや充実や自信を与えるのかを、俺は知りたい。
——なるほど。
SKY-HI:自分も含めBMSGの所属アーティストは、あなたの支援する気持ちと集めてくれたお金に支えられていまの活動をできているのはまぎれもない事実だし、すごく感謝しているから。自分がサポートしている会社の作品が出ているのを街中で見たときに、どれくらい誇らしい気持ちになれたのかを、事後体験として教えてもらえたら嬉しいなですし、今後の参考にしたい。
——たしかに、いま話していただいた視点は大事なところかもしれませんね。ファンダムの在り方を更新していくという意味合いにおいても。
SKY-HI:もしもそれによってその人が誇らしさや自信を得ることができたのであれば、それこそチャートハックなんかよりも遥かに尊いことができるんじゃないかという気はします。………これは自分の話ですけど、やっぱり何年活動していても、どれだけ作品をリリースしていても、自分の作品がお店に出ているとめちゃくちゃ嬉しいんですよね、いまだに。友人の作品がお店に出ているのを見ても「ウォー!」となるし。その感覚をみなさんに味わってもらえるのだとしたら、何よりも尊いものがひとつ生まれるのかなという気がするんですよね。もちろん今回のクラウドファンディングも返礼品を設けてますけど、現在いただいている金額は制作や育成にかけるということを謳っているので、当然Aという返礼品に対してお支払いいただいた金額がAだけではなく、その先のBやCに活きていくということがたくさんあるわけです。実際に、今回のクラウドファンディングで得られたお金を元にBMSGが始めたことのひとつが、自分たちのスタジオを整えるということなんですよ。いつでも人目を気にせず使える自分たちのスタジオをひとつ持っていることは、我々のようなアーティストには重要で。さすがに購入するのはまだ難しいんだけど(笑)、でも年間契約で借りるということが、ありがたいことにこれだけの資金的な目処が立てば可能になったんです。
——それってつまり、先に資金を得ることによって全体のクオリティを上げることに繋がるということですよね。予測される収益の下に予算組みを立てる場合はどうしても制限がかかる場合も多いけど、先に現実的な資金が得られた場合、それを元手に環境を整備したり、あるいは予算がかかる創作物にチャレンジすることも可能になるわけで。それは単にクラウドファンディングだけでなく、個人で様々なことができるいまこの時代においても、プロダクションという資金的・環境的な体力のある団体が存在する意味、そしてそこにアーティストが所属する意味にも通じることですが。
SKY-HI:本当にそうですね。逆に、そこをしっかりしないといけないっていう思いは強いですし、当然、怖さもあります。クラウドファンディングはつまり、信用を売るということでもあるから。ファンの方の大切なお金を預かる以上、その信用を絶対に裏切らない活動をしなければいけないなということは痛感しているので………だから正直、いまは怖さもひしひしと感じていますね。
——でも、こういう時代だからこそ、その怖さに麻痺することなく、むしろその怖さとありがたみを感じながら、ちゃんと向き合って運営していくことは大事なことなんじゃないかなと思います。
SKY-HI:僕もそう思います。ファンの方の力と熱量は常にすごいものだと感謝してるけど、それが数値として見えることによって、こちら側に具体的に突きつけられるものもある。それによって会社的に見直すべきことも随時出てくるだろうし。そういうことを決してないがしろにせず、ひとつひとつ思いやりと責任を持ってやっていきたいんです。それこそ搾取的な、都合のいい商売として愛のないクラウドファンディングをするとか、そういうことは絶対にしたくないし。………なんか俺、ナチュラルに既存の体制に対して批判的なこと言っちゃってますよね。別に全部を否定したいと思ってるわけではないんですけど、言葉にすると批判的になっちゃうんだよなぁ。
——(笑)。でも、従来のシステムや文化に対してどれだけ強いリスペクトと深い愛を持っていても、というかむしろ、この文化に対して愛があるからこそ、現状に対する問題意識や変えなきゃいけない点が見えてくるし、新しいシステム、新しい文化を作りたいと考えるわけで。だからナチュラルにカウンターになっていくのは健全だと思いますけどね。
SKY-HI:まさにそれです! スクラップ&ビルドじゃないけど、音楽や芸能に対して愛があるからこそ、新しい在り方を作るためにナチュラルにカウンターになっていくのは健全だと俺も思います。うん、そうありたいですね。