記憶を映像化する技術の現在は? 『レミニセンス』が描いた世界は実現するのか
記憶の映像が犯罪捜査に使われるとどうなる?
この技術は、社会になにをもたらすだろうか。『レミニセンス』の中でニックはこの技術で犯罪捜査に協力していた。たしかに、犯罪者の記憶を見ることができれば、事件の解決を容易にしてくれるだろう。
現実にもfMRI技術によるうそ発見器の可能性など、犯罪捜査に応用可能なのではないかという研究は始まっているし、裁判でfMRIのデータが証拠として提出された事例もすでに存在する(https://www.gizmodo.jp/2009/12/post_6465.html)。
本作のほか、記憶を犯罪捜査に使うというアイディアは、清水玲子のマンガ『秘密 -トップ・シークレット-』でも登場する。こちらは死者の記憶を読み取る「MRI捜査」を駆使する警察の活躍が描かれる。
このように記憶の可視化が犯罪捜査に用いられるようになると、社会はどう変化していくだろうか。もはや、完全犯罪など不可能になるかもしれない。どんなに証拠を隠滅しても記憶を見られたらお終いなのだから。
いや、犯罪どころか嘘をつくことすら難しくないかもしれない。見たものも、見られたものも全てが記録されるようになったら、人はこころの休まる時がなくなるのではないか。SNS上だけでも行動が可視化された世界はすでに窮屈なものになりつつある。記憶が可視化可能ということは、ある意味、全ての人間の目が監視カメラになるということでもある。
記憶を見る行為に倫理的な条件はあるかもしれない。だが、見られるかもしれないという可能性が生じるだけで、十分に脅威だ。仮に、そういうディストピアが訪れたとしたら、もはや人が安らげるユートピアは、それこそ過去の思い出の中にしかないかもしれない。
『レミニセンス』が描いた未来とは、そういう皮肉な世界だったのか。
■公開情報
『レミニセンス』
全国公開中
出演:ヒュー・ジャックマン、レベッカ・ファーガソン、タンディ・ニュートン
製作:ジョナサン・ノーラン、リサ・ジョイ
監督:リサ・ジョイ
配給:ワーナー・ブラザース映画
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