記憶を映像化する技術の現在は? 『レミニセンス』が描いた世界は実現するのか

『レミニセンス』が描いた世界は実現するのか

 ジョナサン・ノーラン製作、『ウエストワールド』のリサ・ジョイが監督を務めたSF映画『レミニセンス』が公開された。

 原作もない、続編でもリブートでもないオリジナルのSF企画がハリウッドメジャーで成立することは稀である。よくぞ、この企画を通したものだと思う。しかも、リサ・ジョイはテレビシリーズで実績を残しているとはいえ、初の長編映画の監督だ。

 本作は、人の記憶に潜入できる男が、とある事件に巻き込まれていくSFサスペンスだ。SFとしての核となるアイディアは、他人の脳内記憶を映像化する技術が実用化されている点だ。大変に興味深い技術で、それが現実になると、人や社会をどう変えていくのかについて、興味深い考察を物語を通して展開している。

美しい思い出は麻薬よりも危険

 温暖化現象による海面上昇で、水没しかかっているマイアミで記憶潜入(レミニセンス)エージェントを営むニック(ヒュー・ジャックマン)。彼は、その技術で犯罪捜査に協力するかたわら、心に傷を負った人々に過去の綺麗な思い出を見せるサービスで生計を立てている。

 レミニセンスは、人の脳とマシンを神経接続し、記憶を読み取り立体映像として投影する技術だ。第三者が他者の記憶を、まるで映画のように見られる。元々は、戦時中に捕虜の尋問に使われた装置だったという設定で、記憶を専用のメモリープレートに記録することも可能で、いつでも任意の記憶を取り出し見ることができる。

 ある日、ニックの元に、家の鍵をどこに置き忘れたか調べてほしいと、メイという女性が訪れる。彼女の過去を映像化したニックは、彼女に強く惹かれて、2人は数カ月親密な時間を過ごす。しかし、メイは突然姿を消してしまい、ニックは彼女と過ごした日々の記憶漬けで生活がままならなくなってしまう。

 そんな時、ニックに犯罪捜査への協力依頼が舞い込む。その犯罪にメイが関わっていることを知ったニックは、仕事以上の私情の情熱でメイを探し出そうとする。

 本作は記憶を巡る物語だ。いつでも美しい記憶に浸っていられるようになったら、人はどのように生きるのかを本作は描いている。ニックの元には、厳しい現実を直視したくない人々が、過去の思い出に浸りにやって来る。その多くは、常連客だ。ニックのモノローグで「過去の記憶にすがることは、時として麻薬以上に危険」だとあるが、常連客はある意味、思い出の中毒患者と言える。

 ニックもまた、メイの思い出にすがってしまう。そんなニックが現実にもう一度メイに会えるかもしれない可能性を見つけ奔走するのが、本作のメインプロットで、そこに記憶のトリックを絡めた逆転劇などが用意され、スリリングに展開していく。

 自在に記憶を映像化し、その記憶に留まれるようになると、人は過去ばかりを向いてしまうのか、それでも未来に向けて生きていくためには、どうすればいいのかと本作は問うているのだ。

脳内イメージを映像化する技術は現実に開発中

 本作のテーマは「記憶を映像化する」というアイディアに支えられている。こうした技術は実際に可能なのだろうか。

 現実世界でも、そうした技術開発は行われている。fMRI(機能的磁気共鳴画像)と機械学習を用いて、他者が見たイメージを脳内から読み取り具現化する実験がそれに当たる(https://bicr.atr.jp/dni/research/visual-image-reconstruction/)。

 fMRIは聞きなれない単語かもしれないが、MRIなら聞いたことがあるだろう。病院などで、筒のような装置に全身を入れて、身体の内部を撮影することMRI検査と言う。fMRIは、MRI技術を用いて脳の活動形態を調べる方法のことで、いくつもの小さな部位に別れた脳が、どのように機能するのかを撮影することで、脳の働きを分析する。被験者に何かの写真や動画を見せて、脳の活動をリアルタイムで測定し、再構築していくのだ。

 この動画はその実験の様子だ。

Movie reconstruction from human brain activity

 まだまだイメージは不明瞭だが、人の輪郭や身体の動きを確かに捉えており、視覚から得て脳内へと送られた情報を第三者に提示するという点で、レミニセンスの技術はこうしたものの延長線上にあるものと言えるだろう。

 京都大学の脳情報研究所 神経情報学研究室によると、こうした脳の働きを分析し、信号を解読することができれば、記憶だけでなく、頭の中にある夢や空想をも、スクリーンに投影できるようになるかもしれないそうだ。さらに、「複雑な知覚内容を脳からそのままの形で取り出すことにより、ブレイン−マシン・インタフェース(BMI)など脳を直接介した情報通信技術」の開発にも寄与できると言う。(https://bicr.atr.jp/dni/research/visual-image-reconstruction/)

 こうなると、『レミニセンス』の世界だけでなく『攻殻機動隊』の世界にも近づいてきそうだ。



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