スマホ世代に届けるニュース番組の工夫とは? ABEMAが報道番組初のシネマカメラを導入してまで「映像」にこだわる理由
“新しい未来のテレビ”こと『ABEMA』は5周年を迎え、ABEMA NEWSチャンネルにおいても様々な変革に着手している。
ABEMA NEWSチャンネルでは24時間365日にわたってニュースを放送。ロンドンブーツ1号2号の田村淳やEXITなどがMCを務め、“変わる報道番組”をコンセプトにこれまでの日常や働き方、価値観などが大きく変わるいまの時代ならではの現象を届ける『ABEMA Prime』や、1.5倍速VTRで1日のニュースを効率的に届ける『アベマ倍速ニュース』など新感覚のニュース番組を立ち上げ度々話題となっている。
そしてその斬新な試みはコンテンツの内容だけでなく映像面にも及び、2021年5月には映像の質を高めるべくニュース番組として初のシネマカメラの導入を決めた。
ニュース番組をリッチな映像で届ける意図は何か、そしてABEMAが考えるスマホ時代のテレビと報道のあり方とはどういうものなのか。ABEMA Morningプロデューサーの河野晋也氏、テレビ朝日アートディレクター兼ABEMA NEWSクリエイティブ統括の横井勝氏、株式会社AbemaTV編成統括本部報道局局長の山本剛史氏の3名に話を聞いた。(杉本穂高)
背景をぼかすことでニュースも伝わりやすくなる
今回、ABEMA NEWSが導入するシネマカメラとは、「映画のような質感の映像が撮れるカメラ」のことだ。人物にフォーカスを合わせ、背景をぼかすことで、肉眼で見ている印象に近い映像を撮影でき、これまで以上に質の高い映像を生放送でも届けることが可能になる。
導入されたのは昨年末にリリースされたばかりの、ソニーのCinema Lineカメラ「FX6」だ。αシリーズのプロ業務機という位置づけで、オートフォーカス機能を有し、被写体を自然なトーンで美しく際立たせるS-Cinetoneを標準ルックとして搭載している。
これまでの生放送用のカメラよりもセンサーが大きい35mmフルサイズCMOSセンサーを搭載しているため、人物に焦点を当てた時に背景のボケがより出ることから人物が際立つ。そのため、視聴者は自然とニュースを読む人物に注意が向き、ニュースの内容も集中して聞くことができるようになる。
ABEMA Morningプロデューサーの河野晋也氏は、シネマカメラを導入したいきさつをこう語る。
「ニュース番組は、人によってはとっつきにくいとか、難しそうと感じてしまうこともあると思います。しかしそういう方にもニュースを届けるためには、企画や出演者を工夫すること以外にもできることがあると考え、映像の質にもこだわってみようとなりました。映像がきれいだということだけでも、ふとニュースに目を留めるきっかけになるんじゃないかと思ったんです。
昨今、iPhoneにもポートレート機能が標準で搭載されていますし、スマホで簡単に高画質の写真·動画が撮影でき、様々な動画プラットフォームで質の高い映像が簡単に見られるようになっています。そうしたスマホユーザーの感性にあった映像でニュースをライブ配信できれば、面白いんじゃないかと思ったこともシネマカメラ導入の動機となっています」(河野)
現在では多くの人が手にするスマホで、高画質の映像が簡単に撮影できる時代だ。この時代に、スマホからニュースを視聴してもらうためには、従来の映像では物足りなくなってきているのかもしれない。
しかし、ニュース番組の映像を映画のようなハイクオリティで届けるためにコストをかけることに異論はなかったのだろうか。
「そこにお金をかけてもいいのかという声はもちろんありました。しかし、出演者がより目立つことになるので、内容も伝わりやすくなるはずですし、ニュースを届けるという点でプラスに働くという理由で実現しました」(河野)
従来のニュース番組ではアナウンサーが原稿を読み上げている間に、画面の中のどこに視点を定めていいのかがわからずニュースの内容がしっかり頭に入ってこないこともある。だが、シネマカメラの映像なら人物にフォーカスして視点が定まるため、ニュースの内容により注意を向けられると実感した。
報道番組はニュースを伝えるのがその役割だ。どんなニュースを伝えるのかも重要だが、時代にあった「届け方」の工夫も大切だ。見せ方の工夫ひとつで一人でも多くの人にニュースが伝わりやすくなるなら、映像の質にこだわるのは充分に価値あることだろう。
ちなみに、シネマカメラの画質の良さを味わうためには、ABEMAアプリの画質設定を最高画質にする必要がある。ただ、高画質で見ていると通信量を多く消費してしまうため、気になる人はWi-Fi環境での視聴をおすすめする。是非とも元の映像と見比べて違いを味わっていただきたいとのことだ。
シンプルとスタイリッシュなスマホ向けの映像デザインを追求
映像作りにおいては、カメラが変われば照明(ライティング)も変わるのが基本だ。ABEMA NEWSは、シネマカメラに合わせて、ライティングにも手を入れ、スマホ時代の映像デザインを追求しているという、
デザインを担当したテレビ朝日アートディレクター兼ABEMA NEWSクリエイティブ統括の横井勝氏は、「シンプル&スタイリッシュ」の2つを意識したそうだ。
「僕は地上波の番組も担当しているのですが、テレビとスマホは映像との身体的距離が圧倒的に異なると感じていて、ABEMA NEWSは、スマホで見て心地よい番組にしたいと思いました。身体的距離が近いので、地上波の映像の情報量をそのままスマホに反映すると多すぎることから、シネマカメラでフォーカスをしぼって背景をぼかせるのは、すごく狙いに合ってますね」(横井)
テレビモニタとスマホの身体的距離の違いは興味深い観点だ。ABEMAは10代・20代の若年層の視聴者が多いそうだが、その層はスマホネイティブの世代だ。そうなると、地上波テレビの映像はテロップや背景が全て映されることも含めて、情報量が多すぎるのだという。そうした世代に見てもらうためには、地上波とは異なるデザインが必要になる。そこでポイントとなるのが「シンプル&スタイリッシュ」で、何を映像に盛り込むかの取捨選択が重要になってくるのだ。
「シンプルさは重要ですが、シンプルにしすぎると『寂しい』と思われかねませんので、バランスを常に考える必要があります。ABEMA NEWSのスタジオは屋外も見えるオープンな作りになっていますが、それを全て見せると情報量が多すぎます。なので、フォーカスで背景をボカせば、ほどよく奥行きを意識させつつシンプルな映像にできるわけです」(横井)
さらに、ABEMA NEWSがシンプルさを追求できるのは、24時間トータルで番組編成やデザインを考えられるからだという。
「通常の番組プロデュースでは、この時間だからこの層狙いだとか、裏番組に対してこうだとかと意識しますが、ABEMAは個々の番組だけでなく、1日を通していかに手に取って心地よいかを考えています。地上波番組のように裏番組がこうだから、などの理屈で考えてしまうと、どうしても画面の主張を強くして惹きつけたくなるんですが、ABEMAはそこを割り切ることで思い切ってシンプルにできるんです」(横井)
そして、ライティングにも気を配り、明るく「映える」映像を意識しているという。
「シネマカメラは明るすぎると白飛びするので、繊細に設計する必要があります。セットがオープンなので日中は外光も入ってきますから、日中と夕方でも異なった設計をしなくてはなりません。それがある種のライブ感を作っているんですが、ライティングのコントロールが難しいですね。
それから、雨が降っている時でもスタジオ内はしっかり明るく見せないといけないので、スタジオ内の白い電飾や光る面も重要で、それらも環境光として利用して、やわらかい印象を出すようにしています。結果として、全体的に人がきれいに映せるようになったので、出演者の方にも気持ちよく出ていただけるのではと思います。“インスタ映え”という言葉もありますが、被写体がいかに映えるかというのは、一般的にも当たり前のように考える時代になっていますよね」(横井)