マニアックなデータと面白企画でバズを起こすAbemaTVのプロ野球中継 裏側をプロデューサーに聞く

AbemaTVプロ野球中継Pインタビュー

 AbemaTVのプロ野球中継が面白いと評判だ。他メディアでの放送ではお目にかかれない、マニアックとも言える細かなデータを取り上げ、また時には俊足選手と「犬」の50m走タイム比較や、似ていると有名な動物とのデータ比較など、視聴者を笑わせる企画を行ない、ネット上でバズを起こしている。

 AbemaTVといえば、カードゲーム風の演出を加えた大相撲中継でも話題になったが、いま、スポーツの分野で新たなファン層を獲得しようとしているようだ。今回は、同社のスポーツ局プロデューサーとして、プロ野球中継を取り仕切る押目隆之介氏を直撃。企画が立ち上がる経緯や、放送の反響について聞いた。(編集部)

ライト層にも面白がってもらいたい

ーーAbemaTVといえばカードゲーム風に演出された大相撲中継も話題を呼びましたが、プロ野球中継においても企画性のある内容でファンの注目を集めています。制作にあたって、どんな点にフォーカスしているのでしょうか。

押目隆之介氏(以下、押目):制作にあたって、まず2つのことを考えました。ひとつは「AbemaTVならではの視聴者価値の追求」、もうひとつは「ネット上でいかに話題化するか」ということです。

 前者については「番組への参加化=視聴者コメントのタイムリーな反映」、「いつでもどこでも横浜DeNAベイスターズの試合が楽しめること」、「マニアックなデータも含んだ、AbemaTVでしか得られない情報の提供」、という3点に集約されました。後者の「ネット上での話題化」については、拡散されやすいポイントを意識して、データなどのテロップもので攻めたり、試合中継のなかで起こった面白いシーンを意識的に取り上げたり、という取り組みが大きなところですね。

ーー試合中の面白いシーンとは、具体的にはどういうものでしょうか?

押目:例えば、筒香(嘉智)選手がスライディングした際に、ズボンが裂けてしまったことがありました。AbemaTVでは横浜スタジアムに定点カメラを置かせてもらっているので、試合の中で筒香選手のお尻を追いかけて、コメントがとても盛り上がりました(笑)。

ーー緊張感のある試合の中で、選手のチャーミングな部分も伝えられると。地上波、インターネット放送や配信サービスと、野球中継は多くの人に親しまれたコンテンツですが、AbemaTVのような「面白さ」を重視した中継においては、それほど野球を観てこなかった層にもアプローチできていますね。

押目:そうですね、そこは意識しています。例えばマニアックなデータを出すと、野球のコアファンには刺さるのですが、一方で、選手関連の面白いエピソードだったり、ネタっぽいことだと、ライト層にも面白がってもらえる。野球だけのデータだけだとどうしても堅苦しくなってしまうため、俊足の神里(和毅)選手と各犬種の50m走タイム比較とか、広島カープ・大瀬良大地投手と、ファンの間でも似ていると評判のカピバラのデータ比較ですとか、そういうこともやっています。



ーーそうした面白ネタについては、どのように検討しているのでしょうか?

押目:いろんな媒体を見てネタを探しますし、球団付の記者の方たちとも仲良くさせていただいているので、そこでエピソードをいただいたり。また、AbemaTVでは選手インタビューもさせていただいていて、そこで直接聞いたりもします。ちなみに神里選手のネタは、選手インタビューの前後で、「昔から足が速くて、保育園の頃に犬に勝ったことがあるんですよ」と、ご本人に伺ったのがきっかけでした。

ーーこれまで反響があったネタには、どんなものがありますか。

押目:神里選手、大瀬良選手のデータもそうですが、時事的なネタにも大きな反響をいただきます。例えば、サッカーJリーグのヴィッセル神戸に、世界的なスーパースター=アンドレス・イニエスタ選手が加入したという話題。これに絡めて、イニエスタ選手ひとりの年俸を、各球団の推定年俸ランキングに入れてみたら、33億円で4位に入っていましたね。


 また、各選手の生年月日をもとに、勝手にその日の運勢を出してみる、という企画も多くの方に楽しんでいただけました。野球とは関係ない恋愛運や金運まで出してみたり。「ラッキーアイテム・ボルシチって、絶対飲んでないだろ!」みたいなコメントがあったりして(笑)。

“面白ネタ”はタイミングとバランスが重要

ーーそうして競技外のネタで楽しめるのは、インターバルがあり、見所が明確な野球というスポーツならでは、という気もします。野球観戦においては、プレイが切れている時間が多くて退屈してしまう、という声もあるところで。それをネタで解消しているのも素晴らしいと思いました。

押目:確かに、そこは大きな価値だと考えています。もっとも、多くの方が、面白データよりも真剣に試合に集中したいと思う場面もありますし、野球中継の本質的な面白さの邪魔にならないように、タイミングを計りながら、ということが大事になってきますが。

ーー確かに、ネットでバズを起こすような面白さばかりを追求すると、コアな野球ファンは楽しめないかもしれません。

押目:僕自身、野球のコアなファンなので、そのあたりのバランスは慎重に考えますし、独りよがりにならないように注意しつつ、「コアファンである自分が見たい放送になっているか」ということは常に頭に置いています。面白いネタは、時々入れていくくらいがちょうどいいかなと。

ーー各選手が打点を挙げた際の勝率や、自打球のランキングなど、マニアックなデータも野球ファンを喜ばせています。大谷翔平選手の活躍で、メジャーリーグが提供する細かなデータを楽しむファンも増えていると思いますが、そのあたりの潮流も意識していたり?

押目:そうですね。僕自身、選手名鑑でデータを憶えるようなタイプなんです(笑)。だから、野球がより面白くなるデータをタイムリーに提供する、ということにはこだわっていて。もっとも、出す場面を当て込んでいる、笑えるネタとは違い、プレイに関するデータは出せるシーンが限られているので、裏側で準備していても、使わないものが大量にあるのですが。

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