「今こそエンターテインメントの底力を」ライブの新しい形『ABEMA PPV ONLINE LIVE』の可能性

『ABEMA PPV』インタビュー

 音楽シーンに多大な影響をもたらした新型コロナウイルス。軒並みライブやフェスなどのイベントが中止となり、アーティスト、そしてファンが嘆き悲しんだことだろう。この状況を打破すべく、テレビ&ビデオエンターテインメント『ABEMA』は“新しいライブの形”を実現した。「PayPerView(通称:PPV)」を活用した有料でオンラインライブが視聴できるサービス『ABEMA PPV ONLINE LIVE』だ。7月から本格的に運用を開始し、LDHグループやももいろクローバーZ、浜崎あゆみ、サザンオールスターズなど多くのアーティストがオンラインライブ配信を実施している。

 コロナ禍で本機能の実現に踏み切った「ABEMA」の覚悟はいかなるものかーー。本稿では、株式会社サイバーエージェント宣伝本部長 野村智寿氏のインタビューをお届けする。『ABEMA PPV ONLINE LIVE』リリースの経緯やオンラインライブならではの集客方法、9月に控える4人組ピアノポップバンド・Official髭男dismの自身初となる無観客オンラインライブ『Official髭男dism ONLINE LIVE 2020 - Arena Travelers -』の意気込みなど、これからのオンラインライブ配信について語ってもらった。(阿部 裕華)

フルリモートの環境下で開発に臨んだ『ABEMA PPV ONLINE LIVE』 

株式会社サイバーエージェント宣伝本部長 野村智寿氏

ーー6月に『ABEMA PPV ONLINE LIVE』のリリースを発表されていましたが、機能の実装を正式に決めたのはいつ頃ですか?

野村智寿(以下、野村):4月に入ってから正式に開発が決まり、6月中旬にはリリースにこぎつけました。

 これまで「ABEMA」は、無料のインターネットテレビ局として開局し、有料会員向けの『ABEMAプレミアム』やオンデマンドサービス『ABEMAビデオ』の強化に加え、少しずつ新しい機能を実装してきました。その中で、いずれはPPVを活用した機能も実装したいと考えていたんです。

 ところが新型コロナウイルスが流行し、ライブや公演など多くの興行が中止を余儀なくされ、エンターテインメント産業は大きな打撃を受けた。「エンターテインメントのど真ん中で事業をしているからこそ、エンターテインメントが活力を失わないように貢献したい」という思いを持ち、このタイミングで何とか実装しようと進めました。

ーー正式決定からリリースの発表まで約2ヵ月半とかなり短期間で実装されていますね。かなり大変だったのではないでしょうか。

野村:フルリモートの中で何とかリリースまでこぎつけたという感じですね。

 グローバルな視点で見てもPPVを活用しているサービスは多く、すでに機能的に進んでいるサービスはあります。「ABEMA」もPPVを活用したオンラインライブで、アーティストが表現したいことを実現したいし、ユーザーや視聴者の方に楽しんでもらえるコンテンツをつくりたい。オンラインライブだからできることをもっと目指したい。やりたいことはたくさんありました。

 しかし、完璧な形で出そうとすると、どうしても時間がかかります。なのでまずは、PPVでオンラインライブができる状態を最速でつくり上げることに注力しました。「ABEMA」の開発メンバーが、「このタイミングだからこそ全力でやるべきだ」と熱量と使命感を持ち、みんなで一気に進めてくれた。「ABEMA」の開発チームだけではなく、サイバーエージェントグループ全体の力を結集し、エンターテインメント産業に貢献すべく、プロダクト開発や機能開発に注力しました。

ーーサイバーエージェントグループのCyberHuman Productionsが提供した、リアルタイムに人物と3DCG空間を合成・撮影できる「バーチャル撮影システム」は、まさにグループシナジーの一つですよね。

野村:「バーチャル撮影システム」は、サイバーエージェントの子会社でCGクリエイティブ制作をしている株式会社CyberHuman Productionsが提供しています。日本国内に数台しかないシステムを搭載したカメラでリアルタイムCG合成撮影をしているのですが、日本で一番最初に導入しました。このシステムを使いこなせるエンジニアも日本ではまだ数少ないという特殊な領域です。オンラインライブで3DCGの世界観を実現できれば、ほかのオンラインライブとの差別化を図れるのではないかと考え、グループリソースをフル活用しました。

ーーまずはスピード重視でリリースに踏み切ったと思うのですが、現段階で実装されている機能の中で工夫・注力したポイントを教えてください。

野村:機能そのものではないのですが、企画演出的な部分は工夫しています。アーティストやパートナーの方と一緒に構成を考えたり、ユーザーから得たフィードバックをライブの構成に組み込んだりしています。

 オンラインライブを実施されるアーティストの方の思いを一番いい形で視聴者のみなさんに届けることが第一なので、ご意向に合わせて柔軟にサポートしています。7月の初週に配信された『7夜連続 夏のアベマLDH祭り LIVEスペシャル』は、年内のリアルライブ公演が全てキャンセルになってしまったLDHさんの不本意な思いを昇華すべく、話し合いながらつくり上げました。

『7夜連続 夏のアベマLDH祭り LIVEスペシャル』
『7夜連続 夏のアベマLDH祭り LIVEスペシャル』

 また、ライブの演出構成以外に、どのようにオンラインライブを話題化していくかという部分も一緒に考えながら実施しています。

「オンラインライブでもファンの熱量をアーティストに届けられる」

ーーこれまでも複数のSNSやオウンドメディア『ABEMA TIMES』などを活用した宣伝をされています。オンラインライブの有料配信では、どのように話題づくりを実施したのでしょうか?

野村:ライブを盛り上げるための事前特番、YouTube・Twitter・Instagramなどのプラットフォームに適した情報発信などですね。ファンのみなさんあってのライブなので、まずはファンのみなさんへ適切に情報を届けることを最優先に、かつ世の中的にも話題になるように複数のタッチポイントをプランニングして進めています。

 私たち宣伝本部では「ABEMA」の番組を各SNSプラットフォームやオウンドメディアを活用してプロモーションする専任の部隊があります。日々ユーザーのみなさんがどういった反応をしているのかデータを分析しつつ、番組制作のチームと連携した番組の品質向上から宣伝における適切な文章やクリエイティブの研磨に努めている。「ABEMA」内部で番組制作から宣伝まで一気通貫でプランニングできる土壌があるため、我々独自でできるオンラインライブの盛り上げ方があると思っています。

ーーこれまで実施したオンラインライブ配信を振り返り、宣伝の効果はいかがでしたか?

野村:アイドルグループ・ももいろクローバーZによるオンラインライブを独占生配信した『ももクロ夏のバカ騒ぎ2020 配信先からこんにちは』では、放送中に関連するハッシュタグがTwitterに7個トレンド入り。そのうち「#ももクロと最高の夏」は日本トレンド1位、「#ももクロしか勝たん」は世界トレンド3位を獲得。独占生配信されたLDHの有料配信ライブ『LIVE×ONLINE』も期間中に本ライブに関するハッシュタグがTwitterに合計15個も日本トレンド入りするなど、SNS上でも大きな盛り上がりを生み、オンラインライブでもファンの熱量をアーティストへ届けられることが分かりました。

『ももクロ夏のバカ騒ぎ2020 配信先からこんにちは』
『ももクロ夏のバカ騒ぎ2020 配信先からこんにちは』

ーーオンラインライブに限らず、ABEMAの特番が放送されているときは、番組のハッシュタグや関連ワードがTwitterにトレンド入りしているのをよく見かけます。これは「話題化するためのノウハウが蓄積されている結果」なのでしょうか?

野村:これまで積み上げてきた現在の「ABEMA」の各種オウンドメディアのフォロワー数や拡散力が結びついている部分と、そこに至るまでに培ってきた“話題にする”ためのコツとノウハウがあります。これによって、かなりの確率で話題化がうまく創出できているのではないでしょうか。

 オンラインライブでもソーシャルで話題化する番組制作のノウハウを活かしながら、「とにかくアーティストさんの思いを届けるため、ファンやユーザーのみなさんがライブ楽しんでもらうため」という目線でプロモーションを実施している。ライブとセットで楽しんでもらえるようなキャンペーンを考えた結果が数字として表れています。

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