『Tell Me Why』の無料配信を機に考える、プライド月間にプレイしたいゲームたち

プライド月間にやるべきゲーム

 2021年6月1日(現地時間)、『Life is Strange』などの作品で知られるDONTNOD Entertainmentは、同社が手掛ける『Tell Me Why』(2020年)の期間限定での無料配信を開始した。配信期間の6月30日まで、同作を遊ぶことの出来る全てのプラットフォーム(PC / Xbox One)で手に入れることができる。

 本施策は6月のプライド月間に向けて実施されているものであり、『Tell Me Why』のウェブサイトには配信に併せて次のテキストが掲載された。

 6月のプライド月間は、LGBTQIA+コミュニティが自分たちの存在を祝う時期です。今年において、プライド月間は世界各地でトランスジェンダー、ノンバイナリー、ジェンダー・ノンコンフォーミングの人々に対する偏見や有害な法規制が激しくなっている時期にあたります。今年のプライド月間では、Xboxコンソール、Windows 10、Steamなど、利用可能なすべてのプラットフォームで「Tell Me Why」を無料にします。(Tell Me Why free during Pride Month 2021! | Tell Me Why)(冒頭のみ抜粋)

 『Tell Me Why』はアラスカ州の美しい小さな街を舞台に、10年ぶりに再会した双子のタイラー、アリソン・ローナンが二人だけが使える特殊な能力を使いながら、かつて幼少期に経験した、二人の人生を変えた“ある出来事”の謎を解き明かしていくアドベンチャー・ゲームである。

『Tell Me Why』 第 1 章 ローンチ トレーラー

 本作の主人公の一人であるタイラーはトランス男性であり、その描写に関してはGLAAD(LGBTQが公正に扱われるようにメディアのモニタリング活動を行なう世界最大規模の団体)と連携し、DONTNOD及びXboxのLGBTQの同僚、友人、家族、研究者からのフィードバックも踏まえながら制作が進められた。また、タイラー役の声優にはトランス男性であるAugust Black氏を起用し、彼自身の意見についてもキャラクターや物語の制作に取り入れると共に、もし台本の内容に本人が違和感を感じた場合は内容を再考するなど、一貫して当事者による意見が取り入れられている(本作での取り組みや、デッドネームやミスジェンダリングなどの懸念事項についてはウェブサイトのQ&Aにも掲載されている)*1。

 こうして丁寧に作り上げられた本作は、徐々に浮かび上がってくる真実と、それに関わった様々な登場人物が抱えていた葛藤、血縁やセクシャリティやメンタルヘルスや宗教や先住民族の文化などが複雑に絡み合う状況、それらの一つひとつに向き合い、ショックと受容を繰り返しながら、それでも前に進むための選択をしていくことで運命を切り開いていく体験を味わうことができる重厚な作品だ。何よりタイラーとアリソンを筆頭に、深く、そして多面的に創り上げられた登場人物のキャラクターの豊かさが、本作での体験をよりリアルで特別なものへと引き上げている。是非、今回の施策を機に手に取って頂きたい作品だ。

 また、『Tell Me Why』を筆頭に、現代のビデオゲームではLGBTQのキャラクターが深く物語に関わる作品が多く存在している。本稿で紹介するのはそのわずか一部分にすぎないが、是非興味を抱いていただければと思う。

『The Last of Us Left Behind –残されたもの-』(2014年)

(対応プラットフォーム : PlayStation 3, PlayStation 4)

The Last of Us: Left Behind Launch Trailer

 謎の寄生菌の感染爆発によって崩壊した世界でのサバイバル劇を描く『The Last of Us』シリーズ。2013年の初作『The Last of Us』の追加コンテンツとして制作された本作は、同作において主人公を務めたジョエルと共に行動する少女・エリーの内面を深く掘り下げた作品である(本作のみを単体の作品としてプレイすることも可能)。プレイヤーはエリーを操作しながら、一つのショッピング・モールを舞台に、瀕死の危機に陥ったジョエルを救うために孤独な闘いに挑む現代編と、親友である少女・ライリーと二人だけの楽しい時間を過ごす過去編を交互に進めていき、エリーがこの世界の生存者として成長していく過程を知ることになる。常に感染者に襲われるリスクに怯えることになる現代編に対して、2人の少女が共有する無邪気な愛情と、徐々に特別な感情を露わにしていく様子が描かれる過去編の内容には安らぎすら感じられる。だが、物語は劇的な結末を迎え、ここでのエリーの経験が『The Last of Us』、そして昨年発売された『The Last of Us Part II』へと繋がっていく。

『ボーダーランズ3/愛と銃と触手をぶっ放せ!ウェインライトとハマーロックの結婚式』(2020年)

(対応プラットフォーム : PC, PlayStation 4, Xbox One)

『ボーダーランズ3』愛と銃と触手をぶっ放せ!ウェインライトとハマーロックの結婚式 日本語トレーラー

 銀河中を冒険し、未だ見ぬ財宝を求めて銃を撃ちまくるシューティングRPGの金字塔として名高い『ボーダーランズ』シリーズ。コミック調のアートスタイルやぶっ飛んだユーモアに溢れた世界観で知られる本シリーズだが、このゲームの世界では異性愛と同程度に同性愛が一般化しており、それを隠したり、あるいは揶揄されることは無い。

 2019年に発売された『ボーダーランズ3』の追加コンテンツとして登場した本作では、本編でも登場したサー・ハマーロックとウェインライト・ジェイコブスの結婚式をメインテーマに据え、二人の新郎を襲う脅威と対峙し、無事に式をハッピーエンドで終わらせるための戦いに挑むことになる。どういうわけかラブクラフト作品的ホラーに満ちた舞台・惑星ザイロウルゴスの異様な雰囲気や、宇宙的恐怖に翻弄されるお馴染みのキャラクターのユーモラスな姿も本作の魅力だが、それ以上に本作を特別なものにしているのは、ハマーロックとウェインライトが「結婚」という大きな区切りを目の前に抱く、喜びと不安が入り混じったそれぞれの感情を優しく丁寧に描いている点だ。本作は表面こそ『ボーダーランズ』らしい痛快なユーモアで賑やかにコーティングされているものの、その芯にあるのは極めて普遍的かつ幸福感に満ちた純粋なラブストーリーである。

『The Outer Worlds』(2019年)

(対応プラットフォーム : PC, PlayStation 4, Xbox One, Nintendo Switch)

『The Outer Worlds』 プロモーションビデオ

 『Fallout : New Vegas』などの名作を世に送り出してきたObsidian社によるスペース・オペラRPG。自分の選択が世界全体に大きな影響を及ぼすロールプレイの比重の高さや、大量のテキストによって構築された濃密な世界観が魅力の本作だが、特に素晴らしいのが主人公と常に同行することになる一癖も二癖もあるコンパニオンの存在だ。戦闘に協力してくれるだけではなく、NPCとの会話にも常に参加して意見を述べ、時には悩み事を相談してくれるこの仲間たちの存在によって冒険は終始賑やかで楽しいものになっている。

 中でも人気が高いのが、元々は地元の仕事熱心で優秀なエンジニアとして活動していながら、好奇心を抑えきれずに宇宙の旅へ飛び出したパールヴァティーだ。引っ込み思案でありながらも正義感が強く、思慮深い彼女のパーソナリティには、多くのプレイヤーが親しみを感じることができるだろう。特に印象的なのは、彼女にとって憧れのエンジニアであるジュンレイが登場する一連のクエストだ。憧れの女性と対面することが出来ただけではなく、更に相手から好意を寄せられていることに気付いたパールヴァティーの動揺と喜び、そして自分自身が性的欲求を持っていないが故に関係がうまくいかなくなってしまうのではないかという不安を吐露する彼女を前に、プレイヤーは「良き相談相手」として自信を取り戻してもらい、デートを成功させるために銀河中を駆け回ることになる。本筋とは関係ないサイドクエストではあるものの、この小さな物語が迎える結末もまた格別だ。ちなみにパールヴァティーのキャラクター作りに関しては、本作のナラティブ・デザイナーを務めた、バイロマンティックでアセクシャルであるKate Dollarhyde氏自身の経験も反映されているとのことである*2。

『If found...』(2020年)

(対応プラットフォーム : PC, iOS, Nintendo Switch)

IF FOUND... | Release Date Trailer

 アイルランドに拠点を構えるスタジオ・Dreamfeelによって開発された本作は、Llaura McGee氏が率いる、スタッフのほぼ全員がクィア、トランスジェンダー、ノンバイナリーの開発者というチームで制作された作品である。大学を退学したカシオが故郷であるアイルランドのアチル島へと帰郷した時の出来事を、手書きによる極めて美しいビジュアルと2 Melloなどのアイスランドのミュージシャン達が手掛けた切なくも優しいサウンドトラックによって鮮烈に描いており、プレイヤーは、彼女が書いた日記帳を一つひとつ丁寧に消しゴムで消しながら、その出来事を追体験していくことになる。

 1993年という時代設定、そして人口の大半がカトリック教徒で占められる地域において、カシオは自分が女性であることを家族から受け入れられないことに悩み、自分を受け入れてくれる友人たちが集まって住んでいる廃墟へと逃げ込む。場所こそ朽ち果ててはいるものの、自分らしく生きられる環境の中で、カシオは少しずつ豊かな人生を取り戻していく。だが、友人たちを含め、ずっと幸せな日々が続くわけではなく、徐々に緊張感が高まっていき、やがて物語は「何故日記帳を消しゴムで消しているのか」というこのゲームそのものの根本へと迫っていく。カシオが友人達と過ごした美しく豊かな日々を追体験することはとても楽しく、一方で「それらを全て消していく」という行為への抵抗感が、ただ物語を味わうだけではない、ゲームならではのリアルな体験となってプレイヤーを物語へとより深く引き込んでいく。

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