KDDI、なぜクリエイティブチームを発足? 水田修氏に聞く“未来へ向けた5つのテーマと社会貢献”

KDDI“クリエイティブチーム”発足の理由

「物理的な距離をなくすというより、心理的な距離をなくす」

ーー3つ目のテーマ「ゼロ・ディスタンスな世界」で掲げている"ゼロ・ディスタンス"とは、どのようなことを意味するのでしょうか?

水田:「ゼロ・ディスタンス」というのは言葉通り距離の壁を無くすことを指していて、考えられるゴールとしては"テレプレゼンス"をイメージしています。これはVRでその場に行ける体験だけでなく、遠隔で操作する人とロボットがまるで同じように動くことができたり、遠隔でも触覚が伝わるなど、まさに五感が距離の壁を超えて伝わるというもので、現在、そういったテクノロジーの研究が行われています。

 5Gの特性のひとつである「低遅延」は、遠隔でコミュニケーションするときに役に立つものです。去年の『バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス』では、5Gを使って、相方が遠隔で登場する漫才が披露されましたが、このように離れた場所にいても一緒にいるような感覚でやりとりができるようになれば、それは本質的には距離の壁がないと言えるはずです。その意味では“ゼロ・ディスタンス”とは、技術的なところでは低遅延という5Gの特性を活かしながら、その場にいるようなコミュニケーションを誘発できるようなことを目指していくものだと捉えて考えてます。

 例えば、ライブに行きたい人は、本来であれば現地に行かないと楽しむことができませんが、何らかの事情で現地に行けない人に対して、テクノロジーができることは沢山あるはずです。去年1月の須田景凪さんのライブではファンが5G通信と対応デバイスを使って遠隔からライブ演出に参加できるということに取り組みましたが、離れた距離からファンの熱量を届けるために5Gを活用することも、「ゼロ・ディスタンス」というテーマにおいてはコロナ禍においてますます重要になっていくと思います。

 その意味では物理的な距離をなくすというより「人と一緒にいたような気になれるものをどのようにして作るか」という、心理的な距離をなくすものに限りなく近いと言えます。そういったところはコミュニケーションを活性化したいというKDDIが社会に果たす役割にもハマる部分だと思っています。

ーー4つ目の「人と地球にやさしいショッピング」では、サスティナブルな社会実現を掲げていますが、どんな取り組みがあるのでしょうか?

水田:アパレルに関しては、チームの中にアパレルにおけるエシカルな取り組みを目指しているメンバーがいまして、彼の話を聞いてると僕自身も「なるほどな」と思うところがたくさんありテーマとして掲げました。服って、企画して最終製品を制作するまでのプロセスや商品在庫にすごく沢山の布を消費しているのですが、それをデジタルの工程や体験に置き換えることで不要な布も使われずに新しいショッピングの形が生まれるのではないかと、具体的に我々としてできることを考えていこうかなと思ったのがこのテーマを掲げたきっかけです。

 その具体的な取り組みのひとつが日本科学未来館の展示「HYPER LANDSCAPE」でバーチャルヒューマン「coh」が着てた服なんです。実はその服は実際にスタイリストさんに作ってもらったデザインをデジタルの型紙で起こしたもので、そのままデジタル上で服にすることができます。なので、バーチャルヒューマンに商品となる服を着てもらうことができれば、そのままファッションショーのようなこともできるし、ECで売ることもできてしまう。そうすると服が売れるまで糸を1本も使わない商品の開発や販売、流通ができるんじゃないかということも考えていますし、そういったことにもバーチャルヒューマンは活用できるはずだと感じています。

ーーなるほど。ECサイトで販売される服の型紙もデジタルで賄えるというのはすごいですね。これによって、二酸化炭素の排出量も抑えられるということでしょうか?

水田:そうですね。服がデジタルの型紙から作られて、バーチャルヒューマンがフィッティングして、それを高精細な映像でお届けすることで購買の促進に繋がるのであれば、実際の商品を制作しなくても販売ができるので二酸化炭素の排出量を抑えることができます。さらに販売ごとにオンデマンドで生産するスタイルになれば在庫がなくなる分エコロジーになるのではないかと思います。

ーー5番目には「アンリミテッドな鑑賞体験」をテーマに掲げています。先ほどもエンタメやスポーツの鑑賞体験の話がありましたが、これは具体的にはどういった取り組みなのでしょうか?

水田:この1年の間にすごく沢山の場数を踏ませていただき、興行主の方やスタジアムの方の課題ややりたいことをヒアリングしながら取り組みをしてきました。

 ちょうど1年ぐらい前に1回目の緊急事態宣言が出たことで、音楽の現場ではアーティストの活動どころか、外出すら規制されました。でも、それが解除された時期あたりから何としても音楽を届けたいということで配信ライブを行う判断をされたアーティストも沢山おられたと思います。一方で現地に行くことが最大の体験であるという価値観は当然変わらずにあり続けるのですが、オンラインであれば家でゆっくり見る楽しみや、これまで以上に沢山のライブを楽しむことができることに気がつかれたお客様も、一定数おられたのではないかと思っています。

 そういった人たちにとって、もっと面白い映像体験をお届けすることも我々としてはやってきており、配信ライブで「どんな新しいことができるのか」や「今までリアルではできなかったを演出をしたい」という現場サイドのニーズに応えてきました。

 この取り組みの中で、配信でコンテンツを届けるというスタイルになった時に、今までと違うことをやるべきと考えているアーティストに対して、道具としてのテクノロジーを提供することで何ができるかを一緒に考えさせてもらいました。具体的にはARで演出を加えたり、ステージをデジタルで拡張したり、視聴者同士の会話を繋げるためのチャット、リアルフェスのように複数のステージを設けて幕間は別のステージが見られるような多チャンネル配信だったりするのですが、それらはお客様に少しでも「本当は現地に見に行きたかったのに配信を見るしかない」ではなく、「配信も面白いよね」と思ってもらうための工夫として、興行主の方々やアーティストさんと一緒に考えて作りあげたものです。

 コロナ禍を機に配信ライブも面白いと思ってくれるお客様もいるはずですし、今後徐々にリアルなライブは戻ってくると思いますが、そうなった時にそれらをバラバラに走らせるのではなく、両方あったらもっと面白いという「かけ算」を考えていくチャンスが生まれたと思います。ビジネスの観点でも、リアルでは500人が入るライブハウスだけど、本当に良い体験ができるコンテンツを配信して1万人が見てくれるというなら、それが新しいビジネスの形になっていきます。また、アーティストも場所に限定されることがないのであれば、海外進出を狙うことができるなど、夢も広がっていきます。そういった下支えの部分を一緒に考えていくことが次のテーマになってくると考えています。

ーー去年の「SPACE SHOWER SWEET LOVE SHARE supported by au 5G LIVE」では、ARで照明を作ることで舞台装置のコスト削減を図りつつも演出の可能性を拡張するような試みもありましたね。

水田:あの時はARの照明がリアルのものなのか、バーチャルのものかが映像上で区別がつかないことがすごいと現場ではコメントを頂きました。トラスを組む必要があるような天井釣りのライトや、現実では実現できないバーライトを下から上に飛ばすような表現も行いましたが、こういったことは現実に行うとコストも人手もものすごくかかります。ARを使うことでそのコストをカットするようなアプローチをしながら、ライブ演出自体は強化していくということも、アンリミテッドな体験のひとつだと言えます。そういったARでライブ演出ができる機能はパッケージ化を進めているので、今後は広くライブハウスなどに展開していきたいと考えています。

ーー 本当に色々なジャンルや形で"アンリミテッドな鑑賞体験"に取り組んでいるのですね。

水田:この1、2年の間に、すごく多くのパートナーさんとさまざまなことに取り組ませてもらえたことで、我々としてもさまざまな分野で横断的に知見を蓄積することができました。ただ、すぐにビジネスとして定着するものばかりではなく、長い時間をかけて育てながらやっていく必要がある取り組みが多いので、単発で進めていくだけでは定着していかないと考えています。だから、「将来どんな未来を作りたいのか」というビジョン自体をきちんと定義して取り組んでいく必要があったことも、今回、「au VISION STUDIO」という枠組みを作らせていただいた背景になります。今後は色々な取り組みを持続的に行いながら、クリエイターやアーティストとコラボレーションして、新しい体験が沢山生まれるような展開を予定しています。また、こういった取り組みを通じて、5Gをどのように活用すれば社会に役立つのかということを、ものづくりや体験を通じて理解いただける機会になればと考えています。

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