ボカロシーンは加速し続ける 圧倒的熱量で駆け抜けた『ボカコレライブ -2021 spring- 』レポート

『ボカコレライブ -2021 spring- 』レポ

 YOASOBI、Adoをはじめ、ボカロシーンで育ち、現役で活動するクリエイターによる楽曲が、メディアを通じてスポットライトを浴びる時代へと突入したのここ数年。彼らが独自のセンスで生み出した作品をアップデートし続けることができるのは、フレキシブルな作品を表現可能とするニコニコ動画をホームとしたボカロ文化が常に横にあってこそのことだろう。

 そんななか、昨年ドワンゴが立ち上げた『The VOCALOID Collection』(通称:ボカコレ)は、ボカロ文化のさらなる発展を目指すための大型イベント。昨年は12月11日~13日に、初の『The VOCALOID Collection -2020 Winter-』をネット会場とリアル会場から届けた。そして今年、企画内容をパワーアップさせたうえで、ニコニコネット超会議の一環として4月24日~25日に開催したのが、『The VOCALOID Collection ~2021 Spring~』だ。

 賞金付きのボカロ作品投稿企画「ボカコレランキング」の結果が発表予定の25日、ボカコレの目玉イベント『The VOCALOID Collection LIVE』の会場になっている幕張メッセ・ホール4には、厳重な感染予防対策のもと、約500人のユーザーが来場した。

 この日のトップバッターは、ボーカロイド・初音ミクが生まれて間もない2007年9月に「Packaged」でデビュー、2012年にはGoogle Chromeとのタイアップ曲「Tell Your World」を書き下ろし、世界へ向けてボカロ文化を発信したことで有名なkz(livetune)と八王子PによるDJプレイ。「gimme×gimme」(八王子P×giga/2019年)、「Sweet Devil」(八王子P/2010年)から、「Tell Your World」のフレーズを散りばめた「Hand in Hand(八王子P remix)」(八王子P/2016年)などの派手なリズムパターンの楽曲をシームレスに繋いでいく。ダンサンブルなクラブミュージックに合わせて自由自在にジャンプするkzが表現するのは、とにかくひとつになって楽しもうというそんな心意気。常にクリエイターの遊び心ありきで成長を遂げてきたニコニコ発のボカロ文化に通じるスタンスだ。

 黎明期からボカロ文化を盛り上げてきたふたりの心の振動は瞬時に伝染し、リアルタイムでステージの様子が映し出されたステージ中央のムービーには〈日本に生まれてきて良かった〉〈最高!〉〈ボカロの文化、築き上げてくれてありがとう〉〈ボカロの力すごいなー〉と心から楽しんでいるネットユーザーの声が流れ出した。〈プロセカ〉(初音ミクを中心としたスマホ向けリズムゲーム)と反応しているコメントを見つけた「Tell Your World」(kz/2011年)では、ボカロを知る入口もアップデートされていることに気付かされ、序盤からクライマックスのような展開に。

 いりぽん先生、仮面ライアー217、愛川こずえ、SLH、アナタシア、ATY、残念ながらリモート出演となった足太ぺんた、りりりの人気踊り手から+α/あるふぁきゅん、Capital Rhythmの歌い手に共通するのは、“ボカロが好き”という気持ち。それぞれのボカロ愛があふれたパフォーマンスが集結することで、空間に一体感が生まれた。前々日の緊急事態宣言の発令を受けて、急遽シアーミュージック合唱チームの出演が中止となったことから共演予定だったしらスタが進行役の百花繚乱に「千本桜」のボーカルレッスンをおこなったパート、米4人組ハードロックバンド・KISSをイメージしたヘヴィメタ衣装でバンドとともに降臨した小林幸子、悲鳴にも似た甲高い音色を「威風堂々」(梅とら/2012年)、「ロストワンの号哭」(Neru/2013年)でセンセーショナルに響かせたヴァイオリン奏者・Ayasa、透過型スクリーンを用い、バーチャル出演でDJプレイした霜降り明星・粗品の演出を通して、ボカロが幅広い層まで波及していることを強く実感せずにはいられなかった。



 〈Hey〉とポップに掛け声を送った「セカイはまだ始まってすらいない -remix-」や「ラヴィット」、「二ナ-Jumping remix-」、「すろぉもぉしょん」をポジティブオーラ全開にパフォーマンスしたピノキオPのDJステージ。なかでも「すきなことだけでいいです」は自分の好きなことを突き詰めた人たちが活躍するボカロシーンの輝きそのものを歌っているようでもある。あくまで初音ミクの歌声を主役としながらも自身の声でミクを支えるところに表れているのは、いわずもがな、ミク愛、ボカロ愛。

 「ビターチョコデコレーション」(syudou/2019年)、「ボッカデラベリタ」(柊キライ/2020年)など最近のボカロヒット曲の顔になっているイラストレーター・ヤスタツ、WOOMAのふたりが、お面をつけた格好でステージへ上がり、百花繚乱のインタビューを受ける場面もあった。MVありきのボカロシーンの魅力のひとつは、歌い手のみならず、楽曲の作り手であるボカロPにもファンがつくことだが、いつの間にか、イラストレーターにまでその流れが浸透したように思う。誰にでもチャンスを用意するボカロシーンの発展ぶりが絵に描いたようにステージに現れた時間だった。

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