『ゆるキャン△』の世界を体験できるVRゲームはどう作られた? ファンへのホスピタリティが垣間見える開発秘話
「なでしこ、リンとキャンプがしたい!」そんなファン待望の夢がついに実現した。
キャンプブームの火付け役となったアニメ『ゆるキャン△』の世界をVRゲームで体験できる『ゆるキャン△ VIRTUAL CAMP』の「本栖湖編」が3月4日に発売、もう一つの物語「麓キャンプ場編」が4月に発売予定だ。フル3Dのキャラクターとともに『ゆるキャン△』世界のキャンプ気分を味わえる。そして、本作はVRゲームタイトルとして世界初の6プラットフォーム(iOS・Android・PlayStation®4・Nintendo Switch™・Steam・Oculus Quest)同時リリースとなる。
今回は『ゆるキャン△』の世界を見事VRゲームとして再現した『ゆるキャン△ VIRTUAL CAMP』の制作・開発陣にインタビューを実施。『狼と香辛料VR』『Kizuna AI – Touch the Beat!』などの開発実績があるジェムドロップ株式会社 代表取締役兼本作のプロデュース・制作統括などを担当した北尾雄一郎氏、同社のアーティスト・須田正広氏と山田恒輝氏から、企画・制作における創意工夫・苦労について話しを伺った。(阿部裕華)
『ゆるキャン△』ファン層に合わせた6プラットフォーム展開
ーー 『ゆるキャン△ VIRTUAL CAMP』はVRゲームでは初の6プラットフォーム世界同時リリースとなります。なぜ、マルチプラットフォームでの開発に踏み切ったのでしょうか。
北尾雄一郎(以下、北尾):『ゆるキャン△』はユーザー層が分かれているため、いろんな選択肢の中で多くのユーザーさんに体験をしていただきたいと6プラットフォームで展開を決めました。
『ゆるキャン△』の主なファン層は20~30代の男性ですが、女性ファンも多くいらっしゃいます。『ゆるキャン△』とVRコンテンツが非常に相性が良いという考えから本作の企画・開発をさせていただきましたが、VRデバイスを持たれているのは男性の方が多いという現状があり、女性ファンや、VRデバイスを持っていない方にもぜひ遊んでいただきたいという思いで、スマートフォンやSwitchへも対応させました。
ーー 先ほどOculus QuestとiPhoneで「本栖湖編」を体験させていただきましたが、VRデバイスとスマホでは見え方が異なるため、違う楽しみ方ができそうですね。
北尾:VRデバイスの場合は没入感が強いため、「目の前にリンちゃんが!」という衝撃が大きいです。『ゆるキャン△』の作品世界に深く入り込めるので、没入感のあるリッチな体験をしたい方にはぜひVRで体験していただきたいなと。
スマホの場合は、縦持ち・横持ちどちらも対応していますが、縦持ちだと普段写真を撮っている感覚で目の前にいるリンちゃんや風景をスクリーンショットで撮影ができます。普段の生活と『ゆるキャン△』の世界がリンクしているような感覚になれるため、手軽に『ゆるキャン△』の世界を感じられるのがスマホの良さだと思いますね。
ーー なでしこ視点でリンちゃんと一緒にキャンプ体験できるのが新鮮でした。第三者の視点やほかキャラクターの視点などでなく、最初からなでしこ視点というのは決まっていたのでしょうか?
北尾:新しいキャラクターまたはユーザー自身が自分として『ゆるキャン△』の世界に入るというアイデアもありました。ただ、果たしてなでしことリンの間に新しいキャラクターや自分が入ることをユーザーは求めているのだろうかと。であれば、なでしことリンの空気感を楽しめるような形にした方がいいのではと思い現在の形になりました。
ほかにも、ちくわ視点や松ぼっくり視点という面白いアイデアも出ていたのですが(笑)現在のグラフィックのクオリティでキャラクターを2体出すと、その分スマホへの負荷が倍に増えるので少し古いスマホが対応しきれないんです。もちろん、2体出すならそれを前提につくることはできます。しかし、今よりグラフィックリソースを半分に減らす必要があるためグラフィックが少し残念な感じになってしまうのです。それよりも一人のキャラクターに100%の力を注いで、良いグラフィックを提供できた方がベターかなと考えました。
ちなみに「麓キャンプ場編」では、リンちゃん視点でなでしことキャンプ体験ができます。
ーー 「本栖湖編」「麓キャンプ場編」では視点が異なるのですね。
北尾:視点だけでなく、なでしことリンの着ている服や登場する料理も変わります。「本栖湖」は湖と森に囲まれた比較的コンパクトな場所ですが、「麓キャンプ場」は広々とした敷地が特徴です。それぞれのキャンプ場で違う雰囲気を楽しめると思います。
アニメを再現したキャラクター・背景の表現
ーー アニメのキャラクターを3Dのキャラクターとして落とし込んでいく際、特に意識した点を教えてください。
須田正広(以下、須田):2Dのキャラクターを3Dに落とし込むとどうしても違和感を覚えてしまいます。というのも、3Dの場合はリアルな人間と同じような陰が入ります。目の下・唇の下・頬の下など骨格の通りに陰が入りますが、アニメのキャラクターはそういった陰が入らないですよね。
なので、3Dではキャラクターのモデルとは別に陰の入り方を指定するモデルを用意して、のっぺりした顔をつくっていきます。その上に色を塗っていき、アニメのような平面の顔にします。
ーー 立体的なのに3D特有のリアルさは感じず、しっかりアニメのリンちゃんに見えました。
須田:時間帯によって陰の色や肌の色も変わってくるので、アニメを見ながら最も近い色を取ってきています。また、VRだとプレイヤーの視覚の範囲や視点の角度によって顔・身体の造形の見え方が微妙に異なります。誰が見てもなでしことリンちゃんの顔だと思えるよう、色んな人にデバッグで見てもらいながらつくり込みました。
ーー キャラクターはアニメのような表現だと感じる一方、背景はかなりリアルに感じました。
山田恒輝(以下、山田):そこについては二つ理由があります。一つは、人間は思っている以上に本物を知っているので、VR空間に入り込んだとき、本物とかけ離れてしまうと違和感を覚える可能性があること。もう一つは、『ゆるキャン△』のアニメそのものの背景描写がものすごく精密であること。そのため、本作でも精密にリアルに寄せても遜色ないだろうと判断しました。
ーー あの背景はどのようにつくり込まれているのでしょうか?
山田:実際にキャンプ場へ足を運び、RICOH THETA (360度カメラ)で写真を撮影し、アニメ『ゆるキャン△』の背景描写と見比べつつ写真のテクスチャを再現した背景絵を描きました。
写真をそのまま使うのはただの実写になってしまうこと、写真撮影した時期が春だったのですが本作の季節の設定が秋から冬であることなどが理由です。空を少し曇らせたり、山を禿させたり、生えている草木を変えたり、写真に写り込んでいるほかのキャンパーさんを消したり、逆に本作で登場させたい要素を追加したり、『ゆるキャン△』の世界とリアルな「本栖湖」「麓キャンプ場」が組み合わさった背景になっていると思います。