VRゲーム初出演の花守ゆみりに聞く、『ALTDEUS: Beyond Chronos』の声音に込めた創意工夫

花守ゆみりに聞く“VRゲームの演技論”

 VRゲーム『ALTDEUS: Beyond Chronos(通称:アルトデウス: BC)』に迫る特集企画。第一回目は本作の制作を手掛けるMyDearest代表取締役兼総合プロデューサーの岸上健人氏に、第二回目は制作・開発に携わるディレクターの柏倉晴樹氏、アニメーター兼演出の田村直彬氏、プログラマーの中地功貴氏、3名のクリエイター陣に、第三回目はサウンドを手掛けるサウンドプロデューサーの郡陽介氏と作曲家の高橋邦幸(MONACA)氏へ取材を実施した。

 そして、最終回となる今回は『アルトデウス: BC』のキーパーソンであるキャラクター・ノアを演じた花守ゆみりを直撃。VRゲームならではの声音のつくり方や演じる上での難しさに迫っていくと、花守の仕事に対する実直な姿勢が垣間見えてきた。(阿部裕華)

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物語もキャラクターも尊い『アルトデウス: BC』

ーー 『アルトデウス: BC』のシナリオを読んだとき、物語にどのような印象を抱きましたか?

花守ゆみり(以下、花守):物語が終わってからの余韻がすごい作品になっているな……と感じました。この子たち(登場人物たち)にとっての幸せと世界にとっての幸せにギャップがあるので、それがつらくもあり、尊くもあって。世界が望まなくても自分で選択した道を進んでいく、難しいことを成し遂げていく姿を見ていると、もっと物語の先を見てみたいと気持ちが盛り上がってくるんです。

 マルチルートになっているのも魅力だと思います。どのルートも誰かが選択して進んだ先の物語だから、一概にハッピーエンドともバッドエンドとも言えない。それが、とてもいいなって。プレイヤーに課題を与えてくれるゲームだと感じますね。

ーー 『アルトデウス: BC』の物語において、花守さんが演じられたノアはとても重要なキャラクターです。主人公クロエの親友コーコの外見を模した電脳の歌姫で、クロエが搭乗する機体の戦闘サポートをするなど、多くの要素が詰め込まれています。演じられる前はノアをどのようなキャラクターだと感じましたか?

花守:最初に設定を聞いたときは、「電脳の歌姫」という設定から人の心を理解できないキャラクターなのかな?とイメージが先行していました。でも物語を読み進めていくと、実は誰よりも人間らしく、愛を考えて動いている子なんです。

 電脳と聞くと機械的に見えてしまうかもしれませんが、機械だから思考プロセスが純粋で真っすぐで。電脳だからこそ、生きていく上で考え続けなければならないという使命がある。複雑な人間関係に対しても真っすぐに挑んでいきます。どんなに拒絶されても寄り添う方法を考え続ける姿へ、健気さを感じると同時に知れば知るほどつらくなってくるキャラクターだな……と感じましたね。

長時間聞いても不快にならない声音へのこだわり

ーー VRゲーム作品の声のお仕事は初めてとのこと。加えてかなり難しい役どころだったと思うのですが、ボイス収録はいかがでしたか?

花守:VRゲームなのでユーザーのみなさんの近くにいると感じていただくために、音に対するこだわりがとても強いという印象がありました。長時間聞いていても不快にならない音をつくることを、音響監督の郡(陽介)さんがテーマに置かれていて。ただ演じるだけではなく、綺麗な音の上に自分の芝居をどう乗せるかを考えなければなりません。演じる前から「音については厳しめなので、一緒に向き合っていきましょう!」とお話をいただいていたのですが、自分でもどうすればいいのか分からず(笑)。最初は戸惑いながら演じていました。自分の今までのやり方が通用しなかったので、自分の声の音を見直す機会をもらったなと思っています。

ーー 声の音はどのように調整されるのでしょうか?

花守:自分の中で綺麗な音を考えながら思ったように演じてみて、そこから音響監督とすり合わせつつ形を整えていたのですが、初めのうちは打ちのめされました……。私の声の波形を見せてもらいながら、その波形をどう直していくと綺麗に聴こえるか、と授業をしてもらって。歯のあたる音やかすれ具合、唾液量、喉のコンディションでも音が左右されます。とても勉強になりました……!

 自分の使っている声の音の何が綺麗で汚いのかを考えるのは初めての経験だったので、どう直せばいいんだろうと。とはいえ、音に捉われ過ぎてキャラクターのイメージを失わないようにしたいという思いも音響監督と私の中にあったから、理想的な音に持っていくためにかなりお話ししましたね。

 

ーー ノアは通常のボイスパートだけではなく、歌姫としての「ライブパート」とバトル中の「ナビゲーションパート」がありますよね。それぞれの声に変化を加えることも?

花守:電脳という機械であるからこその音の綺麗さを軸に持ちつつ、パートごとにそれぞれ違う音の出し方をしています。「ライブパート」では、聞いている人が思わず耳を傾けて陶酔してしまうような、心と体を預けてしまいたくなるような、魔性性のある声を意識しています。収録の際には、「もっと人を掌握する感じ! だけど音は綺麗に!」とディレクションをしていただいて(笑)。歌姫というよりも偶像性を強く感じてもらえたらと声をつくりました。

 「ナビゲーションパート」では、機械感を強めに出して感情は出さないように気を付けながら、導き手として信頼してもらえるように真っすぐで安心感のある声に。けれども、メテオラとの戦いの中で悩む場面やクロエに気が急く場面では、心の揺れを感じてもらう必要もあります。機械であってもクロエがちゃんと意見をぶつけられるようなキャラクターである。バランスを考えながら演じました。

衝撃を受けた音響監督からの一言

ーー ノイズの調整、パートごとの演じ分けなど、大変だったポイントはたくさんあると思いますが、花守さんの中で特に難しかった点・苦労した点を教えてください。

花守:ノアちゃんはクロエに対して怒りや悲しみなど感情をあらわにするシーンが多くて、そういうときにどうしても呼吸音が残ってしまいます。でも呼吸音がノイズになるんですよ。特にノアちゃんは人間じゃないから、人間味を感じる呼吸は必要がなくて(笑)。

 私は日頃から芝居をつくる上で呼吸を組み込んでしまうので、意識して外す、呼吸をマイナスにする作業が難しかったです。すごいリテイクしてしまって悩みましたね。自分のやりたい音と出てくる音のギャップに苦しみながら、ここでも音響監督と話し合って演じさせていただいたなと。

ーー 心に残っている音響監督からのアドバイスはありますか?

花守:とても衝撃的だったのが、「どんなにいい芝居をしても音にノイズが入っていたら、それは美味しいご飯に虫が乗っているのと同じようなもの」と言われたことですね。雷に打たれたような衝撃の名言でした(笑)。衝撃を受けたと同時に、おもしろい!やろう!と思いました。今まで自分の声のノイズに気づかずに生きてきたからすぐに治るものではないかもしれないけど、意識して切り替えができるような人間にならないとって。

 ノイズも味だよねと言われる現場ももちろんあります。でも、『アルトデウス: BC』の世界では違うから、「これは自分の味!」と決めつけたらダメなんだって。私は永遠に課題を与えられ続けたい人間なので、伸びしろを与えてもらえる貴重な現場でした。

ーー そこでプラスに考えられるのが、純粋にすごいなと感じます。

花守:自分のやりたいお芝居だけをやるのは、やっぱり違うと思っていて。キャラクターを生み出してくださった親の存在があってこそ、私たちの仕事だから。預けてもらったお子様に、ちゃんと命を吹き込んであげたい。もっと言えば、綺麗なお洋服を着させてあげたいですからね。それに答えたいと思って、ノアちゃんを演じていましたね。

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