「境遇を楽しむのは『ヤケクソにならない』ため」 空間演出ユニット・huezが振り返る2020年のライブ演出

「境遇を楽しむのは『ヤケクソにならない』ため」 空間演出ユニット・huezが振り返る2020年のライブ演出

――緊急事態宣言が開けた後には有観客ライブでなおかつ配信もある、という形式のライブが増えたように思います。こういったライブにおいて舞台上でも配信でも同時にライブを成立させることが必要になってきたわけですが、演出面で気をつけていたこと、苦労、トラブルなどはありましたか?

としくに:現状、たとえば有観客ライブのキャパシティが「通常の50%まで」というようなライブがたくさんあります。人数を絞らなければできなくて、マネタイズを考えても配信が必要になってくる。お客さんにも「外出できないけれど配信は観たい」というような方もいます。そうなると必然、「配信も生もどっちも成立させて欲しい」という依頼が来ます。……両方とも成立させるにはものすごくコストがかかるというのが、コロナ禍での僕のひとつの結論ではあって。たとえば照明ひとつとっても「配信で見えやすい照明」と「生で映える照明」はぜんぜん違う。配信で見えやすい照明って、顔に当てている光をめちゃくちゃ明るくして、変わりに後ろから出している明かりは暗くしないといけないんです。配信では逆光にすると顔が飛んでしまうので。でもそれって後ろから「バーン!」と当てる照明やムービングで出す青白い光ーーライブでよく見る派手なやつですけど、その光量を落とせということなんですよ。そのバランスを成立させるのは相当難しい。

YAVAO:たとえば今って半分以上の箱がLED照明になってるんですけど、青色の見え方が生と配信ではぜんぜん違うときがあります。カメラによってはアーティストに塗料をかけたような、のっぺりした画になってしまう。解決法としては良いカメラを使うこと。Blackmagic Designの最新のカメラだと、LEDの青でもきれいに撮れます。あとは、カラーコレクション(カラコレ)をリアルタイムで行う配信もあります。照明が緑色を出していても、配信上だと青色にしか見えない、みたいなこともあるので、画面と現場を見ながらリアルタイムで照明を作ったり。

 先ほど話したDUSTSELLのライブでは、舞台前面に透過LEDディスプレイを配置していたんですが、「アーティストさんの顔が写ってはいけない」っていうルールを配信でも舞台でも同時に成立させなきゃいけないのは大変でした。生で見てアーティストが隠れるくらいの光量でLEDディスプレイを点灯させると、カメラには明るすぎてうまく映らない。配信がうまくいかないんです。で、逆に配信の方に合わせるとLEDの光量が小さくて派手さがない。この日は配信で観ている方が多かったので、配信優先の光量を前提にしつつ、としくにが生の方を見て光量をリアルタイムで変えてました。

としくに:結局配信といっても生放送なので、目の前でさじ加減を見る、みたいな作業が絶対に必要になってきますね。舞台と配信のバランスの話でいうと、実際に舞台に立つ人の意識もまったく変わってしまうんですよね。生のお客さんがいて、「みんなありがとう、今日は配信も入れています」って言うのか、配信がメインで有観客はボーナスなのか、両方均等にお客さんがいるのか、それによって演者もどこにテンションを持っていけばいいのかで悩んでいたりする。

 あと、この間、でんぱ組.incのオンラインツアーファイナル『THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE FINAL!!〜ねぇ聞いて?宇宙を救うのはきっと……〜』のダイジェスト版がYouTubeに出たんですけど、公演当時は正解だと思って入れていた演出が、今見直すと……画面圧が強いんですよ。VJはバカスカ入れたし、画面もビカビカに光ってて。5月当時は演者にもお客さんにも「インスタライブやZoomの画角に飽きてきた」という空気が蔓延していて、それを覆すためにも相当派手に演出を入れていたけれど、もしいま僕が演出するとなったら、この画面圧ではやらない。演出を減らすと思います。そのくらい、この1年でお客さんのテンション感みたいなものが目まぐるしく変わっていました。

Dempagumi.inc「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE FINAL!! 」Digest Movie

――この半年でもユーザーの見たいものが変わってきているという印象を受けます。

としくに:今まで3年に1回くらいゆっくり移り変わっていたニーズが、半年とか3か月でどんどん変わっている。今はもう、配信はファン活動を補完するためのもので、あったらあったで嬉しい、それが派手で綺麗だったらなおうれしい、みたいなテンションになっている気がしますね。だから配信ライブはあくまでもアーカイブとしての価値だったり、画質の高さとか、スイッチングの技術なんかを重要視した映像としての価値を追求する世界観にだんだんと戻って行くかなと。もちろんアーティストさんによっては配信をベースにしている方がまだまだいるし、それはそれで正解だと思うんですけど。

 見せる側の知見でいうと、もともと僕らがライブ演出をするときには、わかりやすく作ることを心がけているんです。でも、配信ライブは繰り返し観ることができるのでたとえばちょっとわかりにくいこと、マニアックなことをやるとむしろ喜ばれたりします。1度しか観られないものと、繰り返し観られるもの、その違いは意識して作る必要があるな、と思います。

――作りこんでも理解されなかったら意味がないけれど、何度も観られる舞台ならその難解さはすこし上げていいと。

としくに:そうそう。謎解きの要素があったりしても面白い。それこそ自社のアーティストですけど、白羽がやっていた配信ライブでは、歌詞のテロップを架空言語にしてみたりしました。普通のライブでやったら絶対意味わかんないんですけど、配信だと画像が残るので、終わってお客さんが考察している姿を見ていると、これは配信ならではの盛り上がりだと思いましたね。

【20200723 白羽2ndワンマンZION0723】ライブ動画「熱帯域」

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる