『PUI PUI モルカー』ヒットの今だからこそ見たいコマ撮り作品 ナイキ創業者のスタジオやYOASOBIのMVも

『モルカー』とあわせて見たいコマ撮り作品

立体でも多彩な事例 近未来はロボットアームで制作?

『パカリアン』

 ここからは立体を中心に紹介する。本作は、もともと監督の秦俊子が制作した同名の短編があり、それを元にして新規にショートシリーズ化した作品。元の短編もこのショートシリーズも、俳優の斎藤工が声優を務めていることでも注目されている。今年は春にWOWOWオンデマンドにて、企画とプロデュースを斎藤、原案を女優の片岡礼子が担当した『オイラはビル群』が配信される。

『コタツネコ』

 監督の青木純が大学時代に制作した作品のうちの1つ。在学中に2Dを含め、多くの作品を残している。当時、各地の映画祭やコンテストで、何らかの作品が見られるほど存在感を示していた。近年は『ポプテピピック』のシリーズディレクターを務めたことで、アニメファンからも関心を集めることに。ちなみに『ポプテピピック』内でコマ撮りを担当していたユニット・UchuPepoleから、小野ハナが『モルカー』の制作に参加している。

『故障中』

 Mozuが高校時代に制作。本作がYouTubeにアップされる前、先に『自分の部屋』と題したジオラマのスゴさからTwitterで話題になった。その後は長編『犬ヶ島』の監督(ウェス・アンダーソン)に誘われ、制作に参加するという経験も。現在もミニチュアで『クレヨンしんちゃん』のオープニング用に野原家を制作したり、二足歩行のロボットを開発したように見えるコマ撮りを制作するなど、様々な活動を行っている。

【コマ撮り】カービィの「ストーン」の威力を実写で再現してみた

 Twitterのツイートランキングの上位で、よく見かけるようになった篠原健太の作品群から。

 本編に続くメイキングでは、Dragonframeを使用している様子も窺える。また平面はともかく、立体ではタンク(人形を支えるアーム)を、撮影後に消去しなければならない。Photoshopの「コンテンツに応じた塗りつぶし」を使う方法もあるが、2019年にAfter Effectsにも実装された。今後どこまで使い勝手が良くなるか期待されている。

『ハイキュー!!』

 監督の村田朋泰がコミックス42巻の特典DVD用として制作。ショート集とはいえ全10作品ということで、コミックスと同等のボリュームと言ってもいいかもしれない(価格にも注目)。村田はMr. ChildrenのMV『HERO』や短編『朱の路』で人気を集めた。近年ではEテレで放送された『森のレシオ』を制作、現在は東映アニメーションと長編『陸にあがった人魚のはなし』を制作している。

『ごん』

 監督の八代健志は『ノーマン・ザ・スノーマン』など、プラネタリウム用の全天周映像もコマ撮りで制作している。本作は昨年、アカデミー賞の短編アニメーション部門にエントリーしていた。エントリー資格を得る条件としては、アカデミー賞の公認映画祭でグランプリを受賞すること、ロサンゼルスやニューヨークで興行することなどがある。『ごん』は後者の手順を踏んだ。

 ちなみに同年の日本に関する作品で、エントリーしていたのは計5作品。なかには見里の『マイリトルゴート』もあった。公認映画祭であるショートショートフィルムフェスティバル&アジア2019にてジャパン部門の優秀賞となっており、この受賞でも資格を得られたためである。最終的には『ごん』も『マイリトルゴート』もノミネートには至らなかったものの、エントリー後にノミネート候補として推挙されるまでの道のりも険しい。

ストップモーションロボティクス

 Holoeyesの谷口直嗣とKUKAの小林剛が『Autodesk University Japan 2016』で披露。メイキングを見た方が分かりやすい。3DCGソフトのMayaでロボットアームを制御して、右で立体、左でカメラを動かしている。なおこのメイキングは、ピクシレーションではなくタイムラプス(低速度撮影)。ピクシレーションは倍速や早送りに似てくるところがあるが、画像の秒間枚数を増やせば増やすほど、タイムラプスとも区別がつきにくくなる。

 柔らかい素材では難しくても、硬い素材であれば将来的には、ロボットアームでコマ撮りを自動化できそうな予感がしなくもない。しかし何年後に実現するのかは不明である。冒頭でヨーロッパの話にも触れたかと思うが、チェコの戯曲『ロボット』(カレル・チャペック)を制作できたら、その事実だけで皮肉の効いた作品になりそうだ。

 ここまで見てくると、改めてコマ撮りは普段アニメと聞いて思い浮かべるもの以上に多彩で、対象が広くなる作品が多いことが分かっただろう。それはアニメーションを漠然と商業なのか、アートなのかで語ることが難しくなったということである。作品としてなのか、技術としてなのか。どうにか説明しやすい方法を探っていくしかない。

■真狩祐志
東京国際アニメフェア2010シンポジウム「個人発アニメーションの15年史/相互越境による新たな視点」(企画:竹内泰人も登壇)、「激変!アニメーション環境 平成30年史+1」(著書:セルアニメーションはコマ撮りから概念に、カットアウトアニメーションで見えてくる認識の変遷、山村浩二インタビューほか掲載)など。

Dragonframe

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる