コナミ音ゲーが家庭に“戻ってきた”意義 『pop'n music Lively』リリースの背景とポスト・コロナの音ゲーを考える

コナミ音ゲーが家庭に“戻ってきた”意義

『pop'n music Lively』リリースの意味と今後

 今回の騒動で浮き彫りとなったのは、ACゲーム事業ひいては音ゲー文化そのものがゲームセンターという場に依存することのリスクと、それに対するリスクマネジメントの必要性だ。競合となるセガ・ナムコ・カプコン・タイトーと異なり自社ブランドのゲームセンターを持たないことも、コナミの抱えるリスクに拍車をかける。

 では、当該リスク対応のために講じるべきマネジメント策は何か? 営利企業としてのコナミが、「beatmania」から20年以上にわたり続いてきた音楽ゲーム事業を、外乱に動じることなく今後20年を生きることのできる強靭な事業とするために必要な施策は?

 直截の、そして究極的な回答は、ゲームセンターという場に依存しない新たな事業体質の構築だ。

 前述の通り、コナミホールディングス社の各事業は今回の時勢に大小のダメージを受けた。しかし唯一、家庭用コンソールやモバイル向け作品、カードゲーム等を管轄するデジタルエンタテインメント事業の4~6月度四半期決算は、売上高ベースで前年同期比+36.0%と過去最高の業績を記録。日本野球機構と連携してプロ野球選手によるeスポーツイベント「eBASEBALLプロリーグ」を開催するなど、自社IP資源を活用しつつ社外とも連携、オンラインを基調とした新展開すら見せている。

 これはいわゆる巣ごもり需要を期待できる家庭用ゲーム事業が、パンデミックあるいはそれに類似した社会的リスクに対する一種のバッファとして機能し得ることが、経理上の数字として可視化されたと捉えることができる。ACゲームの家庭版というプラットフォームを維持することは、営利企業としての巨視的な観点においてもリスクマネジメント策として十分な大義名分を有し、株主や従業員はじめステークホルダーの理解も得やすいだろう。

 そしていま令和の時代にAC音ゲーをPCプラットフォームでリリースすることをひとたび構想すれば、副次的な利点はいくつも浮上する。

 例えばユーザのライフステージ移行への対応である。すなわち頻繁にAC音楽ゲームをプレイしていたとしても、結婚や出産、就職、転居、子育て、介護といったライフイベント、およびそれに伴う所属コミュニティの変遷により、ゲームセンターへの物理的・心理的な障壁は容易に形成され得る。最新のゲーム内アップデート状況への追随にある程度のプレイ頻度を要求するよう設計されている、近代的なAC音楽ゲームにおいてはなおさらである。汎用のPCでプレイ可能な家庭版は、愛好するゲームへのアクセスをAC作品よりはるかに広範な状況で提供し、その関係性を繋ぎ止めることができる。

 第2の利点は海外対応である。AC音ゲーは主には日本国内市場にリリースされているが、一例として「pop'n music」と並ぶ古株の音楽ゲームである「DanceDanceRevolution(DDR)」はとりわけ高い海外人気を誇り、eスポーツイベント「Konami Arcade Championship(KAC)」2020年大会のファイナリスト6人が構成する国籍は日本、米国、台湾、韓国、シンガポールと5カ国にも上る。またピアノ演奏モチーフの音楽ゲーム「ノスタルジア」は韓国での支持が厚く、「KAC」大会の3年間述べ5部門のうち2部門では、韓国籍の凄腕プレイヤーが優勝を遂げている。

 にもかかわらず、国産AC音ゲーの海外進出は十分に進められているとは言い難い。例えば非公式のデータベースサイト「DDR Navi」によれば、「DDR」の設置店舗は日本国内に約400店が存在するが、海外は日本以外の全てを合わせても130店前後に過ぎない。人類皆スマホ時代、10億人オーダーの顧客候補を抱えるスマホアプリと比較すれば、接触機会の差は歴然だ。PC向け音楽ゲームは、(スマホには及ばないまでも)世界中に広くAC音ゲーへの窓口を提供し、より積極的な海外展開への道筋を拓く契機となり得る。

 伴って強調すべき点は、この施策がゲームセンターの顧客を一方的に奪うものではないことだ。かつての家庭用プラットフォームがそうであったのと同様に、ゲームセンターを訪れたことのない潜在ユーザへも音楽ゲームそのものの間口を広げ、未来のゲームセンター顧客候補へと誘導する役割をも本作は担うことができる。また離反顧客に対しても、ゲームセンターと同等の体験を気軽に享受でき、ACゲームという存在への撞着を取り戻す場として機能し得る。前述の通りコロナ以前にはゲームセンターの市場は回復基調を見せていたが、ゲームセンターの店舗数そのものは減少の一途を辿っている。逆説的な話だが、ゲームセンター外でACゲーム文化の魅力を味わうことのできる場は、機会創出という面でゲームセンター文化にとっても重要となりつつあるのだ。すなわちゲームセンターと家庭用ゲームが固定数のパイを食い合う二律背反ではなく、むしろ相乗効果により両者の市場拡大へと貢献する機能を、AC音ゲーのPC版が有する第3の利点として挙げることができる。

 一言で『pop'n music Lively』という存在を表現するならば、いわゆるニューノーマル時代におけるACゲームのありかたを問う、一つの重要な試金石だ。コナミは2020年5月に「DDR」、2020年8月にはギターとドラムの音楽ゲーム「GITADORA」についても、本作と同様にAC作品の仕様を再現したPC版のテストリリースを行っている。ACゲームと家庭用ゲームの相互作用も含め、令和における音楽ゲーム業界内での新たな立ち位置をコナミが確立してゆく挑戦の過渡期に、我々が立つ現在は位置しているのかもしれない。

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