個性と多様性を認め合い、2次元と現実体験が交差する「刀剣乱舞」の魅力

 これだけバラエティに富んだ物語が生まれるのも、「プレイヤーの数だけ本丸がある」という原作ゲームの原則に基づいている。

 ゲーム内の設定やセリフ、「回想」と呼ばれるミニストーリー、実際の刀剣の来歴・元の持ち主の歩んだ人生、刀工の縁など、断片的な要素は提示されている。だが、そこで起こる出来事やキャラクターたちのドラマは、プレイヤーに委ねられているのだ。

 史実にロマンを求めるもよし、個性的なキャラクターたちの化学反応を楽しむもよし。お気に入りのキャラクターをとことん突き詰めて考察し、強く育てるのもいい。

 このような自由度がファン層を厚くし、様々なメディアミックスやコラボレーションを可能としている。キャラやストーリーに解釈の齟齬があろうと、それは各本丸の個性。プレイヤーの数だけ生まれていく物語なのである。

 新型コロナウィルス感染拡大による自粛期間中には、公式イラストレーターによる「本丸視察」と称した新規イラストがTwitterで連日公開され、ファンの心を癒した。この本丸視察は、公式からファンにハッシュタグへの参加も呼びかけられ、たくさんの本丸の様々な姿が描かれた。これも「プレイヤーの数だけ本丸がある」というゲームの特性から生まれたもので、個性や多様性を認め合える楽しい取り組みであった。

 2018年からは「特命調査」というストーリーイベントも数回行われ、好評を博している。また新たな刀剣男士が発表されると即座にトレンド入りするなど、ゲーム内に新要素が追加されるたびに大きなニュースなっているのは、よく知られているところだ。

 日々数多くのコンテンツが生まれ、ファンの視線をひとつ所に留めるのは難しい時代である。だが、このゲームが現実の体験とともにクリエイティビティやイマジネーションを刺激し続け、「自分だけの本丸」がプレイヤーの心にある限り、刀剣乱舞の世界は広がり続けていくだろう。

 今後10年・15年と刀剣乱舞がどのような歴史を刻み、新しい体験をもたらしてくれるのか——。いち審神者としては、未来への期待とともに、この刀剣乱舞の歴史を守りたいと思わずにはいられない。

■草野英絵
ライター。アニメ、ゲームなどのエンタメ記事を中心に雑誌・WEBで活動中
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