人気ポッドキャスターに100億円払う時代ーー音声コンテンツ新時代の未来とは?
ローガンとの契約から1カ月後、Spotifyは世界的なインフルエンサーのキム・カーダシアンと、そしてハリウッドの映画スタジオ大手、ワーナー・ブラザースと独占配信契約を結んだ。
キム・カーダシアンが新たにポッドキャストを開始へ、テーマは「刑事司法改革」|ハーパーズ バザー
キム・カーダシアンが手掛けるポッドキャストは、アメリカの刑事司法制度の問題に迫った、報道調査の番組だ。カーダシアン自身が共同製作者と番組の司会を担当する。日本ではセレブ・インフルエンサーというイメージが強いキム・カーダシアンだが、近年はセレブ活動家的なイメージが高まっている。彼女は、アメリカで長年問題視されてきた刑事司法制度や刑務所問題の改革推進支持者だ。最近は、冤罪で刑務所に送られた人々の容疑を晴らす活動を行うNPO「イノセンス・プロジェクト」と協力しているだけに、社会問題を問うポッドキャスト番組に仕上がる予定だ。
ワーナー・ブラザースとの番組では、アメコミ業界のDCコミックス(ワーナー・ブラザース子会社)のキャラクターIP(知的財産)を使った、オリジナル・ポッドキャスト番組を独占配信する。DCコミックスは、バットマンやジョーカー、ワンダーウーマン、ジャスティス・リーグなど、世界的なメガヒット映画を産んだ、多数のキャラクターを抱えているが、これまでの展開先は、主に映画や映像配信サービスだっただけに、ポッドキャストは新たな領域になる。Spotifyは、ポッドキャストの独占配信権を獲得したことに加えて、マーケティングや製作に携わっていく。
この他にも、Spotifyは、オバマ前米大統領とミシェル・オバマ夫人が主催するコンテンツ制作会社とも、ポッドキャスト番組の独占配信契約を結んでいる。
Spotify、なぜポッドキャストに注力? アメリカ市場の分析から“音声コンテンツの可能性”を示す|Real Sound|リアルサウンド テック
Spotifyはわずか2年の間に、ポッドキャストのスタジオやプロデューサーにも、積極的な投資を行ってきた。将来性ある音声コンテンツの制作するクリエイターやプロフェッショナルに対して幅広く種をまいている。
2019年初め、ポッドキャスト専門の制作プロダクションのギムレット・メディアとパーキャスト、そして一般ユーザー向けの配信ツールのAnchorを買収した。
特にギムレット・メディアは、ポッドキャスト業界で人気の番組を数多く制作する、実績の高いスタジオだった。3社に対してSpotifyは約4億ドル(約430億円)という巨額の資金を投じた。
Spotifyの第4四半期は黒字転換--ポッドキャストのGimletとAnchor買収を発表 - CNET Japan
今年2月には、米国のスポーツとカルチャー専門のポッドキャスト番組を製作するメディア、The Ringerを、約2億5000ドル(約270億円)で買収した。
Spotifyの第4四半期は黒字転換--ポッドキャストのGimletとAnchor買収を発表 - CNET Japan
The Ringerは2016年創業だが、2018年にはポッドキャストの広告売上だけで1500万ドル(約16億円)を得るほど成長したメディアスタートアップだった。同社が注目された背景には、米国スポーツチャンネルESPN(ディズニー傘下)でデジタルメディアやオリジナル動画を成功させた、ビル・シモンズという、敏腕スポーツ・ジャーナリスト兼人気ポッドキャスターの存在が大きい。
こうした投資は、Spotifyの情熱と戦略を、より鮮明にしている。そして、コンテンツ・クリエイターや、ポッドキャスト・スタートアップにとってみると、Spotifyは、資金提供や支援先を探す、有力な投資会社でもあると云える。ポッドキャスト業界内において、圧倒的なコンテンツ流通と、投資、人材獲得で、現在の地位を確立していることは興味深い。
ポッドキャスト専門の中規模なビジネスであれば、大きな投資で何らかの失敗をしてしまえば、業績に傷を残してしまう。しかし、Spotifyのような資金的に余裕がある大企業であれば、他企業やスタートアップを買収したり、クリエイターを金銭的に支援し続けることは、可能なはずだ。
2019年に、Spotifyは、ポッドキャストを中心としたオーディオ・ファーストな戦略への転換を発表した。今後のさらなる成長を見据えて、Spotifyは今後、取り扱う作品やコンテンツを音楽に制限せず、オーディオコンテンツのプラットフォームとして価値を高めるとする。そしてクリエイターには、レコメンデーションや再生データ、収益化のツールをさらに提供し続けるという。
これまで、音楽ストリーミングとして、音楽業界で確固たる地位を築いてきたSpotifyの戦略転換は、賛否両論を生み、特に海外の音楽業界関係者からは、今後の同社の方向性を危惧する声もあがったほどだ。そんな議論が起こる中でも続く、Spotifyのポッドキャスト熱は、一時的な方向転換ではない。
ポッドキャストの未来と可能性に対する期待感は大きい。それは日本でも同じだろう。人々の生活で、ポッドキャスト利用の頻度を高め、市場を広げていくためのアテンションとスケールの競争は今後も続いていくが、ポッドキャスト市場では、プラットフォーム企業がオーディオ消費の中心的役割を担っていくようになるはずだ。