特集「コロナ以降のカルチャー テクノロジーはエンタメを救えるか」(Vol.3)
LINEエンタメCEO・舛田淳が語る“アフターコロナのエンタメ事業” 「日本の社会をアップデートさせるため尽力する」
ニューノーマルに向けて、社会をアップデートさせるために
ーーオフラインの再現からデジタルならではの強みを活かし、そしてリアルとの相乗効果で新しいものを。その流れのなかで、今後生まれていくサービスについて教えてください。
舛田:先日発表した、有料オンラインライブプラットフォーム「LINE LIVE-VIEWING」が大きいですね。これまで、いくつも無観客ライブのお手伝いをさせていただきましたが、無観客/無料のライブはサステナブルではない。当然、無観客ライブはこの状況でファンのために行われたことで、私たちもそれをサポートしたいと思いましたし、ファンの皆さんにも喜んでいただけましたが、アーティストはものを作り、感動や楽しさを届けて、それがビジネスにならないと、活動を続けていくことができません。こちらも、単にオフラインでできないことの代替ではなく、これまではライブに行きたくても行けなかった人が、日本全国どこにいてもアクセスできるようになるし、チケットの価格自体も手軽に、いろいろと変化させることができます。また、日本のアーティストが海外のユーザーに対してコンテンツを出していく、ということに対するハードルも下がる。無料で配信することもできるし、ギフティングや応援グッズの販売でマネタイズすることもできるし、チケットを販売することもできる。そういう新しい時代のライブの提供をサポートすることができると考えており、準備を進めているところです。
ーーオンライン上で好きなアーティストやアイドルと1対1で話せるライブサービス「LINE Face2Face」も発表になりました。
舛田:オンライン握手会のようなものですね。変わろうとしているアイドルビジネスのデジタルトランスフォーメーション(DX)も進めるべきだと考えていますし、これはチケット購入だけでなく、例えばCDに付属するコードでアンロックできるようにするのもいいだろうと。時間制限により、いわゆる“剥がし”も簡単ですし、スムーズかつ平等に、アーティストやアイドルとの会話の機会を提供できるようになります。
ーー今回のコロナ禍で、DXの速度が上がったというお話もありました。LINEの事業においても、早まったり、逆に予定通りできなくなったりしたこともあると思いますが、社内の意識やバランスを整える上で、どんな取り組みがあったでしょうか。
舛田:ビジョン自体に変更はないのですが、インパクトが大きかったのは、我々も問題の渦中にいたということです。当然、家から出られず、みなさんと同じようにZoomで会議をしたり。そのなかで、上からの意識統一というより、ボトムアップで「これをやったほうがいい」という声が上がってくることが多く、例えば今後さらに需要が高まるだろう遠隔教育の分野など、アフターコロナに向けて注力すべきところは明確にしていきました。そこでリソースの配分は変わりましたし、働き方も当然、変わっています。我々全員が等しく、コロナ禍を体験していることは、我々自身がアップデートされるきかっけにもなっており、提供するサービスも、社会がこれから進むべき方向に寄り添ったものになっていっていると思います。
誤解を恐れずに言えば、LINEが生まれるきっかけになった、3.11と近い状況だと思うんです。いま自分にできること、しなければならないことが自ずと問われ、集中すべきポイントが明確になった。医療においても、フードデリバリーにおいても、我々が進めてきたDXをしなくてもいいなんてことはあり得ませんし、社会全体がニューノーマルに向けて進もうとしているなかで、今後振り返ったときに、「あそこがターニングポイントだった」と言われることに、間違いなくなると思います。
ーーあらためて、このコロナ禍を経て、中長期的に注力していくこと、その理念について聞かせてください。
舛田:我々は先ほど申し上げた「CLOSING THE DISTANCE」とともに、戦略として「Life on LINE」という言葉を掲げています。「ユーザーの生活すべてをサポートし、ライフスタイルを革新していく」ということですが、社会環境によってライフスタイルは変わり、10年前とはまったく違う状況になっています。そのなかで、2030年に向けて我々が目指すのは、どんなサービスであるべきか。やはり、これまでDXできていない領域をことごとくデジタル化すべきだと考えています。
コロナ禍のなか、これまでは障壁があった医療の遠隔化も進んでいますし、今後はヘルスケア全体が変わっていくでしょう。また医療だけでなく、さまざまなエキスパート、スペシャリストとのコミニケーションの幅が広がっており、「検索」よりはるかに信頼性の高いオピニオンを簡単に受けられるようになっていく。またローカルサービスにおいても、決済方法も含めたデジタル化で商圏が大きく広がり、新しい環境が生まれていきます。
またTo Government(対政府)という面も、今回のコロナ禍で大きく進みましたし、今後もさらに進展すると考えています。例えば「学生支援緊急給付金」について、LINEから申し込みできるようにするという英断をいただきました。行政機関と市民をつなぐインターフェイスがまだまだデジタル化し切れていないなかで、LINEとして、日本の社会をアップデートさせるために、尽力することを惜しみません。
ーー最後に、エンターテインメント領域におけるサービスの見通しも聞かせてください。
舛田:これはずっと言われていることですが、今後はより個人が力を持ち、活躍できる人が増えていくはずです。活躍する人が増えれば、コンテンツが増える。万人に愛されるコンテンツは素晴らしいですが、そうではなく、ユーザーとコンテンツ/クリエイター/アーティストのマッチングがより、重要になっていきます。その仕組みを作り、マネタイズするという、新しい経済圏を作っていくことが、この10年、LINEがエンターテインメントという領域でやるべきことだと考えています。その第一弾が、現在も展開しているLINEマンガであり、LINE MUSICであり、LINE LIVEというもので、そこからもう一歩進んだのがLINE LIVE-VIEWINGであり、LINE Face2Faceだということです。
もっとも、コロナ禍が収束したら人に会いたいし、ライブに行きたいですよね。DXというと無機質で冷たい、人の気持ちをわかっていない、というイメージもあると思います。ただ、日本人がライブイベントに行く回数は、平均すると年間一人当たり1.2とか1.4という数字なんです。そうであるなら、まずはハードルの低いデジタルの領域で、もっとリーチさせるべきではないかと。そこできちんとファンダムを作ることで、リアルの場に足を運びたくなる、つまりはリアルな場が、より価値を持つようになる。そういうエンターテイメントのエコシステムを回すことに、貢献していきたいと考えています。