連載:2020’s Virtual to Real 第一回:Virtual Being
『紅白』AI美空ひばり、輝夜月、池袋harevutai制作者が考える、2020年の“バーチャル・ビーイング論”
「作ったものをオープンソース化して共有しないと、文化として広まらない」
ーー話を戻すと、それらの経験がどのようにharevutaiに繋がったんですか?。
渡辺:この施設はもともと豊島区の再開発事業の一環で、「池袋東口一帯を新しいカルチャーの聖地にしよう」というコンセプトで作られた”未来型劇場”で。プロジェクトには途中から参加したんですが、当初は“未来型”が何かはあまり定義されていなくて、プロジェクターや透過スクリーンが入っていること、というふわっとした定義だったんです。個人的に「それは未来でもなんでもないだろう」ということで、コンセプト作りから再定義していったんですが、そこで重要だと思ったのは「表現への柔軟さがあるシステム」でした。ライブ産業や劇場産業の現状は、ハードウェアベースで物事が成立しているんですが、未来的な何かをやりたいとなると、「それをやるには、1000万円するメディアサーバーが必要」など、先ほど僕が話したような予算の問題になることが多くて。
ーーその環境をあらかじめ持っておくことで、“未来的”な興行を打つ障壁を低くしたと。
渡辺:そうです。必要最低限のハードがあって、あとの使い方はユーザー側が自由度をもって設定できることが重要だろうと。4Kの高精細で映るLEDを背面に入れていたり、前面のレイヤーには動きがきちんと出せるプロジェクターを置いていたりと、僕らみたいな若手の会社や、先鋭的な技術を持った会社が演出を担当するとなったときに、選んでもらえる箱になりましょう、という理念があるんです。
今村:最近、僕と渡辺でいくつかのキャラクターのライブを見に行ったりもするのですが、「これだけ技術が進歩しているのに、やっていることの根本は大きく変わらないな」と話していたのを思い出しました。
渡辺:そう考えると、僕らのモチベーションや考え方の源泉として、「昔からの慣習への疑問」が大きいのかもしれません。
ーーすごくロック的な考え方で面白いです。
渡辺:何となく導入して運用して……というサービスが多い中で、「それって無駄じゃないですか?」とか「それよりいい方法はありませんか?」と順序立てて提案したり、アップデートして届けるのが、僕らの役目だと思っています。とはいえ、そういう人たちのなかでも説明すればわかってくれる人には誠意を持って話していて、最終的には協力いただけることも多いんです。
ーー話をそもそも聞いてもらえる、対等に話せる土台までに持っていっているからこそでしょうね。
渡辺:自分自身、そうやって表現や技術で対等な立場に持っていくことができたからこそ、今のようなポジションに居ることができると思うので。そういう風に相手にまずは理解してもらうことを重要視しているからこそ、Unityのイベント(『Unite Tokyo』)でシンクシステムの機能についてほぼ全部を話したりもしていて(参考:https://madewithunity.jp/info/stu/)。
ーー内容は読ませてもらいましたが、ここまで手の内を明かすのかと驚きました。
渡辺:広報としての側面もあるんですが、作ったものをオープンソース化してきちんと共有していかないと、文化として広まっていかないんじゃないかという危機感があるんです。それに、僕らはそこを隠そうが隠さなかろうが、これだけのメンバーがいて、同じくらいのことを簡単に真似できるわけがないという自負があるのも大きいですね。
ーーこれを参考にして何かを作っている間に、自分たちはもう次に行ってるよ、という余裕の現れもあると。こうやって話を聞いていて、今村さん・渡辺さん・高尾さんで世代も少しずつ違うのに、フラットに話しているのが印象的なんですが、チーム内の関係性はどのように構築されているのでしょうか。
今村:僕の感覚としては、大きい会社にありがちな「部門があって、部署があって、チームがあって」という考え方ではないことが大きいです。この会社にもチームはあるんですが、1つのプロジェクトが立ち上がれば、「この技術が必要だからこの人を入れたい」など、案件によって編成が変わったりするんです。
高尾:あるプロジェクトでは自分が上に行って、あるプロジェクトでは下に行って、ということが多いですね。
今村:そうそう。あと、チームが流動的だからこそ、誰がどこにいるのかもあまりわかっていないという(笑)。
渡辺:でも、編成が決まって進み出してからはかなりの速さで一つのプロジェクトが完成へ向かうんです。
今村:紅白で使った『シンクシステム』も、harevutai用に作ったリアルタイムモーションキャプチャーも、実質1ヶ月~2ヶ月ぐらいしか掛かってないですから。あと、うちで扱ってる技術はかなり幅が広いことも大きいかもしれません。CGもあればネットワークもあれば、照明や電飾なども専門家がいるんです。そこをトータルでできる会社はなかなかないですし、各分野の担当に対してそれぞれのクリエイターが尊敬しあえる状況なので、上下のいざこざみたいなものは生まれないんだと思います。