プロデューサー・今井了介が国内外にスタジオを展開する理由 「時代はもう一度立ち戻っている」

プロデューサー・今井了介が国内外にスタジオを展開する理由 「時代はもう一度立ち戻っている」

 音楽家の経歴やターニングポイントなどを使用機材や制作した楽曲とともに振り返る連載「音楽機材とテクノロジー」。第三回には、安室奈美恵、DOUBLE、Folder、w-inds.、三浦大知、TEE、Little Glee Monsterなどのアーティストに楽曲提供・プロデュースを手がけるほか、東京に3つ、シンガポールとアメリカにもスタジオをそれぞれ構えるプロデューサー・今井了介が登場。著書『さよなら、ヒット曲』の話を起点にしたスタジオ論や、ベテランプロデューサーとしては意外ともいえる“モバイルセットの削ぎ落とし”を追求する理由、国内外のスタジオに持たせた役割などについて、じっくりと話を聞いた。(編集部)

「Macのスペック以外は、そこいらの学生がひと夏アルバイトして揃う機材」

ーー今井さんの著書『さよなら、ヒット曲』は、音楽的な話もしつつ、ビジネス論でもありながら、かなり読みやすい本ですね。改めて、これまでのキャリアを本にしようと思ったきっかけは?

今井:僕自身、最初の10年くらいはスケジュール調整やギャラ、権利関係の交渉をずっと1人でやってきて。途中からアシスタントやマネージャーも入ってきたんですけど、2004年にスタジオを作ってから15年が経って、後に続く人たちに何かを残したいと思ったのが大きいです。

ーーそれはスタジオ設立以降、ずっと考えていたことだったりするんですか?

今井:徐々に考えるようになりましたね。外のスタジオだと1日20万くらいかけて、制限時間もある状況ですが、自分のスタジオだとアイドルタイム(空き時間)もできるので、若手プロデューサーにプロレベルの環境を与えて、成長を手助けしたり、自分自身も新しい感性を受け取れるんです。書籍にも出てきた第ー号契約作家・UTAなどには、そうやって自分が直接ノウハウを教える機会も多かったですが、「もっと若い子たちには何ができるんだろう?」と考えたり。10~20代って、大いなる勘違いや熱意の元に、色んなものを否定ーー「自分の方が正しいはず」と強く自身を鼓舞しながら突き進んでるはずなんですよ。

ーー今井さんもそういう人だったと。

今井:僕の場合は、「この人みたいになりたい」みたいなメンターもいませんでしたし、世の中に流れている売れ線の音楽のほとんどが格好悪いと思いながら、「自分にはもうちょっと何か違うものが作れるんじゃないか?」と突き進んできましたね。10代~20代前半で、燻っているときって「自分がやりたい音楽を曲げてでも、仕事を取ってくるべきなのか?」と悩んだりするじゃないですか。そういう子たちに、いま売れてるマーケットに歩み寄ってくのも良いと思うけど、僕のように曲げずに突き進むのもありなんだということを伝えられる内容になっていると思います。逆に、いまの子たちのほうが機材も詳しいし、SNSでの自己発信能力にも長けていて、トップラインや詞の情緒観みたいな年齢や人生経験に比例して熟成していくようなポイントはアドバイスできるかもしれませんが、テクニック的な部分で教えられることは少ないですよ。かつての僕みたいに、「俺の方がやっぱイケてる!」と信じた人には突き進んでいってほしいですから。

ーーそういう人のほうが、作っているものの純度が上がったりする。

今井:そうです。音楽を通して伝えるのもアリなんですけど、文字にすると同じ内容をー気にいろんな人へ伝えられるな、と思ったんです。

ーーこうやってお話を伺っていても、多くの実績のあるプロデューサーでありながら、時代観のアップデートを欠かさない方だなと感じました。

今井:基本的に、ガジェットやアプリ、IT・Webサービスなど、新しいものが好きなんですよ。本国のUberやAirbnbににも、誰よりも早く手を出して、使ってみたと思いますし、全般的に新しい生き方、新しいライフスタイル、新しい音楽と生活の在り方には常に興味を持っているんです。あと、音楽的にもはじめから洋楽が好きで、J-POP〜歌謡曲的なものにあまり触れる機会が無かったからこそ、日本のマーケットだけを見るという考えにはなりませんでした。せっかく音楽なんだから、いっぱい聴いたり聴かれたりするポテンシャルのものを常に生み出せてた方が楽しいだろうな、という感覚だったというか。

ーー先進的でありながら大衆的、という表現のベースはその感覚にあるんでしょうね。機材の話を聞いていきたいのですが、かなり少なくなっていっているそうで。

今井:本気でスタジオを作るのって、家ー軒建つぐらいのお金を使いますし、誰しも音楽家にとっては ーつの夢なんですよ。でも、そこに居続けるだけじゃなくて、様々な場所でインスピレーションを自由に得られることも大事だなと思っていて。とはいえ“とりあえず”のモバイルセットを持って行って、スタジオに戻ってからデータをバウンスして……と作業するのも嫌だし、荷物が重いのも辛いんです。そうなってくると、最大限削ぎ落としたフルセットを持ち運びたいなと。

ーーあからさまなモバイルセットで環境が違うくらいなら、やらない方がいいという。

今井:クラウドに依存するのも嫌で、国や場所によってはネット環境が不安定なところも多いので、頑丈かつ省電力の外付けハードディスクを買ってきて、4TB×2のSSDに換装して使っています。電力的に色々制約があるのも嫌なので、機材もMacの電源ー個で賄えるようにしているんです。海外にコンセント分の変圧器を持っていくのも嫌ですし、Macは220Vでも100Vでも使えるので、コンセントー個あれば全部立ち上がる環境が理想だということで。マイクもオーディオテクニカのUSBマイクを使っているんです。インターフェース代わりにもなって、歌う人用にマイク本体にダイレクトアウトも付いていますし、ゼロレーテンシーで歌えるので。だから、ー番お金を掛けるのはMac本体とプラグインでしかないという(笑)。

ーーバスパワーで動くもの、電力を食わないもの前提のチョイスでもある、というのは面白いですし、今井さんの口からそういう話が出てくるとは思いませんでした。

今井:Macのスペック以外は、そこいらの学生がひと夏アルバイトして揃う機材か、それ以下ですからね。それでヒット曲を出すというのもまあ痛快じゃないですか。それに、しっかりしたスタジオもあることで、最終的な音の調整やエンジニアリングはしっかりできるので、品質面での不安はまったくありませんから。

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