スーファミ版『幽☆遊☆白書』と“放課後暗黒武術会”に学んだ、「面白ければ支持される」という忘れがちなこと
『幽遊白書』には“暗黒武術会”というイベントが出てくる。幾つかのチームがトーナメント形式で命を賭して競い合う、ジャンプ伝統芸のトーナメントだ。ゲーム版も、この暗黒武術会がメインになっているのだが、アニメや原作では主人公らのチームは完全なアウェイ扱いを受ける。会場を埋め尽くす観客たちは「コ・ロ・セ! コ・ロ・セ!」とコールを送るわけで、この物騒な言葉遣いも私たちの心を掴んでいたのだ。当然、放課後の暗黒武術会は、誰かの家で小学生男子たちが「コ・ロ・セ! コ・ロ・セ!」と騒ぐ狂気の空間と化した。みんな『幽白』が大好きで、純粋に「コ・ロ・セ!」コールで盛り上がりたかった、それだけだったのだ。しかしピュアな小学生に対し、毎日毎日「コ・ロ・セ!」と猛り狂う子どもを見た親たちが、「大丈夫かよ」と心配するのは当然だった。しょせんは小学生である。親の命令と圧力は絶対だ。「うちはダメだよ」「〇〇の家も無理だって」放課後暗黒武術会は開催場所を失い、誰もが保護者への不満を口にしたが、やがて自然消滅してしまった。今でも思い出すと少し悲しい気持ちになる。
今になって思えば、子どもが10人くらい集まって「コ・ロ・セ! コ・ロ・セ!」と拳を突き上げながら騒いでいるのを目撃したら、親が心配するのはわかる。同じく暗黒武術会に影響され、劇中に登場する“ナイフエッジ・デスマッチ”を実際にやった同級生もいたので(開始10秒で両選手の「痛い」という申し出でノーコンテスト)、子を守る“保護者”としてやるべきことをやったともいえるだろう。しかし、もう少し許してほしかったなと思うのも事実だ。きっとこの問題に正解は出ないだろう。ただ、ゲーム『幽☆遊☆白書』が複雑で独特なシステムをしていたにも関わらず、私を含めた子どもたちの心をガッチリ掴んだこと。面白ければ支持されるということだけは間違いない。
■加藤よしき
ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。
『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。