非凡なる『ミトラスフィア -MITRASPHERE-』の堅実さーー“守り”に特化した作品の魅力
ここまで本作について書いてきたわけですが、何目線なんだよと思われるかもしれません。何目線かと言いますと、戦争ドラマに出てくる老人目線、つまり「昔こんな大変なことがあったんじゃ」と言う人の目線です。と言うのも、最近のスマートフォンの作品は、ビジュアル的な意味でリッチ化が進んでいます。ですが、このビジュアル面でのリッチ化競争って、家庭用ゲーム機が辿った道であり、この道は~いつか来た道~♪ と、私の頭の中で童謡「この道」が鳴り始めているわけで……。
私は見ました。ゲーム機のスペック限界ギリギリまでビジュアルを追及しているのに、肝心のゲーム部分がカラっきしだったり、俗にいう“ムービーゲー”だったり……。遊ぶ側は勿論のこと、作る側も不幸だったであろう作品は数え切れません。そして現在のスマートフォン・ゲーム界隈も、あの頃の家庭用ゲーム機と同じ状況に陥りつつあります。3Dなのに3Dである意味が無かったり、美しいヴィジュアルを出しつつ「クオリティアップのため」という遺言を残して、消えてしまったり……。こうした例は数え切れません。ゲームのコア部分に対して、適切なアートワークを用意し、さらにリッチだと「伝わる」ように仕上げる。言葉にすれば簡単ですが、実際にやるのは難しい。しかし本作は、その部分をクリアしています。本作のリッチ「感」の出し方は特筆すべきレベルでしょう。
以前ご紹介した『メギド72』を斬新なシステムで勝負をするタイプの、いわば“攻め”を重視した作品だとすれば、本作はその真逆。既にあるものを研ぎ澄ました、“守り”に特化した作品だと言えます。手軽に始められる、遊び慣れたシステムのゲームで、洗練されたものがやりたい――そんなスマホRPGの入門、あるいはリハビリ向けの作品として、『ミトラスフィア -MITRASPHERE-』は間違いなくオススメできる一本です。(参考:1ターンごとにガチャを回しているようなワクワク! 『メギド72』の斬新な戦闘システム)
■加藤よしき
ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。
『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。