加藤よしきの“ゲームのいけにえ”
“麻薬取締部”題材に、バトル漫画を彷彿とさせる恋愛ゲーム!? 『スタンド マイヒーローズ』の秀逸なシナリオに迫る
「メディアミックス」とは、ゲーム/アニメ/小説/マンガ業界において、魅力的かつ危険な言葉である。成功すればデカいが、メディアの垣根を超えての連携は至難の業。大々的に「メディアミックス展開します!」とブチ上げて、人気が追い付かなかったり、いつまで経っても出るはずのものが出なかったりして、グダグダになっていったタイトルが何本あっただろうか? 例えば――いや、ヤバい頃のマイク・タイソンじゃないので、無暗に角を立てるのはやめておこう。
ともかくメディアミックスは難しい試みであるが、チャレンジャーは絶えない。むしろドンドン増えており、世はまさに大メディアミックス時代と言った感じだ。今この時点でもメディアミックスありきの企画が乱立している。
そんな中で、驚くほど実直に段階を踏んで、メディアミックスに至ったタイトルが存在する。それこそが、今、私が最もシナリオの力を感じるタイトル『スタンド マイヒーローズ』である。通称『スタマイ』で知られる本作は、イケメンが次々と出てくる女性向け恋愛ゲーム、いわゆる乙女ゲーである。ここで男性読者の多くは、自分には無関係のゲームだと思ったかもしれない。しかし、公式サイトの「ストーリー」で表示される一文を読めば、ちょっと興味が湧いてくるはずだ。というわけで、そのまま抜粋させて頂く。
「(前略)薬物が効かないという特異体質を持ったアナタは、厚生労働省麻薬取締部で働くことに」
サラっと書いてあるが、主人公の設定が『ヤングジャンプ』で連載していた『嘘喰い』に出てくる人みたいである。この掴みの設定からも分かるように、本作の最大の特徴は題材がマトリ=麻薬取締部であること。そんなデンジャラスな世界観であるから、当然、登場するキャラクターもマトリの同僚や刑事、情報屋に謎の組織などなど、デンジャラスな方々である。メインシナリオはそんなデンジャラスなイケメンさん達を、主人公が仲間に勧誘していく物語だ。
このメインシナリオはキャラクター紹介的な側面、つまり「メインシナリオ中で気になったキャラがいたら、キャラと恋愛するシナリオを見てね。出来れば推してね」という位置づけであり、キャラに興味を惹く為のパンチが利いたシーンがバンバン出てくる。割と早い段階で、面白半分で暴力団同士を抗争させて楽しむ人、灰皿で人の頭をカチ割ろうとする人、「この人、国とケンカしてるから」と紹介される人など、気になる人がドンドン出てきて、そりゃ攻略……と言うか、詳しい話も聞きたくなるというもの。他にも「清々しいくらいチンピラなチンピラが出てくる」「主人公がヤクザに拉致された際、身分が知られるとマズいと判断、とっさに自分はヤクザ側だと演技をする強かさを併せ持っている」「オレ様キャラの塩梅が絶妙」など、見どころは多い。