非凡なる『ミトラスフィア -MITRASPHERE-』の堅実さーー“守り”に特化した作品の魅力

 3カ月かけて指示通りの仕事をして、さらに顧客からも好評を得たのに、上層部内での政治的な理由で、その成果物を全破棄されてしまったら……あなたはどうしますか? 私は何も出来ませんでした。正確に言うと何も出来る気がしなくなり、いわゆる心が折れた状態になってしまったのです。

 とは言え人生は続くわけでして、何とか楽しみを見つけないといけない。映画をポツポツ見つつも、ゲーム機を立ち上げる気力もなくなったので、主に『ねこあつめ』で猫を集めていました。それで猫を集め続けていたわけですが、そうすると「やっぱゲームって面白いな」と思えてきて――これは本当に『ねこあつめ』に感謝なのですが――「よし、何か一本ゲームをやろう」と思い立ったわけです。そんな感じでアレコレ手を出した中、今回ご紹介する作品『ミトラスフィア -MITRASPHERE-』に辿り着きました。(参考:今になって気づいた『ねこあつめ』の本当の優しさーー加藤よしきが感謝の気持ちを込めて)

『ミトラスフィア -MITRASPHERE-』公式サイト

 『ミトラスフィア』は、あらゆる意味において堅実な作品です。ジャンルはRPGで、世界観は『聖剣伝説』や『グランブルーファンタジー』的な、いわゆる剣と魔法のファンタジー系。ゲーム・サイクルは自分のキャラのレベル上げが中心になっており、ガチャ課金制で、もちろん他人との共闘システムもあります(私はソロが好きなので、出来る限り使わないようにしていますが)。

 全体的な難易度としては「無課金でも緩やかに遊べる」という感じでしょうか。戦闘は画面上のアイコンをタップして、設定されたスキルを発動して戦うスタイル。以前ご紹介した『メギド72』のような、個性的なものではありません――と、こう書いてしまうと、「これってつまり凡作なんじゃないか?」と思われることでしょう。たしかに、ある意味で本作は平凡と言えます。しかし、この場合は「平凡」ではなく「堅実」と表現するのが適切でしょう。と言うのは、本作の中心となっている部分、先ほど挙げた「自キャラを成長させること」を魅力的に見せるよう、世界観やキャラクター、アートワークが丁寧に作り込まれているからです。

 まずは自身の分身となるプレイヤーキャラの着せ替え機能、そしてプレイヤーが触れるゲームの世界――絵・音楽・シナリオ――これらが非常に充実しています(一例を挙げると、アバター機能では自キャラの「声」が選べるのですが、いわゆる若手・中堅の声優さんに混ざって、『ドラゴンボール』の悟空こと野沢雅子さんが)。衣装の数も多く、自分の性癖に突き刺さるキャラ……もとい、理想のキャラクターを作り上げることができます。しかも完全な主観ですが、絵が可愛いんです。ゲーム全体に漂う、往年の名作『聖剣伝説 LEGEND OF MANA』を思い出すような、ノスタルジックかつリッチな雰囲気が非常に心地よい。この世界の中で冒険したいと思わせるには、十分な完成度と言えるでしょう。

 私は「自キャラを成長させること」をゲームのメインに据えたとき、プレイヤーのモチベーションは二つに分かれると思うのです。一つは「周りと競い合うこと」、もう一つは「自己満足」。後者の場合、まずは「このゲーム世界で楽しくやっていきたい」とプレイヤーに思わせることが大事だとも思います。せっかくプレイするなら、粗雑な世界よりも、リッチな世界の方がいいと思うのは当然です。ですが、この「リッチ」というのがクセ者です。映画でもそうなのですが、リッチと言うのは、リッチに見えなければ意味がありません。100億円かけた映画でも、100億円かかっているように見えなければ意味がないのです。逆に10円で作った映画でも、100億円かかっているように見えれば、そっちの方が客は「リッチ」だと思うもの。この点で、本作は間違いなくリッチと言えます。もちろん10円ではなく相応の予算を突っ込んだのだろうと思いますが、そのお金を使うべき所で適切に使っている。この堅実さが本作を非凡なものにしています。

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