加藤よしきの“ゲームのいけにえ”
PS4『スパイダーマン』に漂う“親愛なる隣人”感! オープンワールドと地域密着型キャラクターの相性
スパイダーマンのゲームを遊ぶと、いつもズルいと思う。だって移動するだけで面白いのだから。クモの能力を持つスーパーヒーロー、スパイダーマン。もはや詳しい説明は不要だろう。アメリカン・コミックを代表するヒーローであり、マンガは勿論、アニメや映画、MCU以前から日本でも知名度が高い。今回ご紹介する『Marvel's Spider-Man(スパイダーマン)』でもオープニング&チュートリアルでキャラクターや設定の説明は特にない。「みんなスパイダーマンの設定は説明しなくても知っているでしょ?」という意識に裏打ちされた強者のチュートリアルである。問答無用でゲームは始まり、「とにかくヤベェことが起きたから現場に来て!」的なテンションで、すぐさまスパイダーマンらしいアクロバットなアクションを楽しませてくれるのが嬉しい。
思えば2002年に公開された映画『スパイダーマン』は本当に衝撃的な作品だった。高層ビル群を自由自在に跳び回るスパイダーマンの爽快感は唯一無二、「こんなものは初めて見た」当時本気でそう感動したものだ。監督のサム・ライミは過去に『ダークマン』(1990年)でその雛形となるアクションを撮っていたが、潤沢な予算と当時の最先端技術による映像体験は、唯一無二の手触りがあった。その後、ライミ版のシリーズは3まで続き、リブート作『アメイジング・スパイダーマン』(2012年~)2部作を経て、アベンジャーズと会社の壁を超えて共演した『スパイダーマン・ホームカミング』(2017年)へと繋がっていくわけだが、作品のトーンやディティールに違いはあれど、アクションに関しては1作目を踏襲している。すなわちビルの間をビュンビュン跳び回ること、これこそスパイダーマンの醍醐味だ。ゲームでも勿論、このアクションをしっかり楽しませてくれるわけだが……ところで、スパイダーマンには、もう一つの大きな魅力がある。そして、それは映画ではなかなか表現し辛い。それは何か? “親愛なる隣人”感である。
スパイダーマンには“親愛なる隣人”という異名がある。怪しい宗教の勧誘感を覚えるかもしれないが、これはスパイダーマンの地域密着型のキャラクター性、そして愛され具合から来ている異名だ。ライミ版でもエレベーターで普通の人とコスチューム姿で乗り合わせて変な空気になってしまったり、バイトの関係で必死にピザを届けると言った、スーパーヒーローでありながら妙に生活感を見せてくるシーンを覚えている人も多いだろう。『アメイジング~』や『ホームカミング』も同様の要素は必ず入っている。ユーモアを忘れず、親しみやすい性格を持ち、地域の皆さんに愛される“親愛なる隣人”。これもスパイダーマンの大切な魅力だ。
ゲームでも勿論、この“親愛なる隣人”感を存分に堪能できる。本作はいわゆるオープンワールド・ゲームだ。ニューヨークを舞台にスパイダーマンを操って有名なヴィラン(悪役キャラクター)たちと戦う。ゲームの進行は提示されるストーリーミッションをクリアしていけば良いわけだが、オープンワールド・ゲーム名物のサイドミッションも存在する。もちろん街中を特に目的もなくウロウロすることも出来るし、たまたま遭遇した犯罪を止めに入ることもできる(無視もできる)。この典型的なオープンワールド・ゲームの形式が、“親愛なる隣人”というキャラクター性と非常に相性がいい。今まで発売されたスパイダーマンのゲームも同様のオープンワールド系のゲームだったが、もちろん技術は日進月歩しているわけで、本作ではグラフィックや演出面が大いに進歩しており、ゲームへの没入感は高い。本当に“親愛なる隣人”になった気がすると言っても過言ではない。