『ハン・ソロ』で『スター・ウォーズ』シリーズの世界観はどう構築された? 娯楽大作映画における回帰的な潮流

『ハン・ソロ』の世界観はどう構築された?

 そのような環境下で、本作の様々な種族やクリーチャーを創造したのは、視覚効果・メイクアップ・アーティストのニール・スキャンランである。彼は『ベイブ』(1995年)に登場する動物たちを、アニマトロニクス(造形物をロボットで動かす仕組み)によって生き生きと演技させた仕事で、アカデミー賞を獲得したことで知られており、いままでのディズニーによる『スター・ウォーズ』シリーズ全てで、様々なキャラクターを、造形物として生み出している。そして本作では、スキャンランは一作だけで500体ものデザインを手がけたのだという。彼は『ジュラシック・ワールド/炎の王国』でも、アニマトロニクスを使った造形物を手がけるなど、いま映画界で最も忙しいクリエイターの一人だといえるだろう。

 スティーヴン・スピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』(1993年)は、当時まだ、劇場作品に使うためには未発達なレベルだったCGを、高いレベルで実写に合成した映像を作り上げ、その出来を見たジョージ・ルーカス監督が、『スター・ウォーズ』新3部作の制作を決めたという話は有名だ。しかし『ジュラシック・パーク』は実際には、CG以外にもアニマトロニクスなど、従来の技術をいろいろな場面に使用するというハイブリッドな作風だった。それに対し『スター・ウォーズ』新3部作は、CG合成を多用することによって、自由自在な映像表現を確立し、ハリウッド大作映画の製作事情を様変わりさせることになる、より革命的な作品となった。

 『ジュラシック・ワールド』(2015年)では、さらなるCGの技術の進歩から、映画に登場する恐竜たちの多くがCGに置き換わっている。さらに『ジャングル・ブック』(2016年)のように、主人公の少年以外、全てをリアルなCGアニメーションによって表現するような映画まで現れている。

 しかし、これらCGアニメーションに頼るような作品の弱点を、あえて一つ指摘するなら、それは従来の、現実世界に存在するものを写した実写作品が本来持っている“実在感”や自然な表現には、現状で追いついておらず、そこには手法的な限界が見えてきたという部分である。

 実写で撮れるところは実写に、というのが現在の娯楽大作映画に現れた価値観である。『ジュラシック・ワールド/炎の王国』では、ふたたびアニマトロニクス技術が復活し、ニール・スキャンランのような造形物を作ることができる才能が必要とされるようになってきている。

 これは近年の映画制作における、アナログ的な撮影への揺り戻し現象といえるだろう。例えばクリストファー・ノーラン監督のように、できる限り実写で撮影することを好みリッチな映像を作り上げる、ある意味極端ともいえる「本物志向」を良しとする態度は、ジョージ・ルーカス監督が切り拓き、多くのクリエイターを導いた道を無視するか、または逆行しようという試みである。そこまで行かなくとも、部分的に従来の映画づくりに戻ろうとする映画は、今後増えていくのではないかと思われる。

 『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』をはじめ、ディズニーの『スター・ウォーズ』シリーズが、ルーカスの新3部作よりも、古い作品のような印象が与えられるのは、観客に旧3部作への郷愁を与えようとする意図はもちろんだが、そういう表現に至った背景には、ここで述べてきたような事情も横たわっているはずだ。本作はまさに、いまの娯楽大作映画における、回帰的な潮流に乗っているといえよう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』
6月29日(金)全国公開
監督:ロン・ハワード
製作:キャスリーン・ケネディ
出演:オールデン・エアエンライク、ウディ・ハレルソン、エミリア・クラーク、ドナルド・グローヴァー、ヨーナス・スオタモ、ポール・ベタニー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2018 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
公式サイト:https://starwars.disney.co.jp/movie/hansolo.html

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