『ハン・ソロ』で『スター・ウォーズ』シリーズの世界観はどう構築された? 娯楽大作映画における回帰的な潮流
『スター・ウォーズ』シリーズが、世代を超え幅広い層を巻き込んで多くのファンを生み出し続けている理由は、そこに様々な種類の魅力が混在しているからだ。オペラ悲劇のような荘厳さや、時代劇映画の剣戟を思い起こさせる要素、西部劇のように無法者たちが跳梁跋扈している世界観、さらには異常なほど凝ったディテールの数々など、多くの人々がそれぞれに「自分のための作品」だと思えるような面白さを作品内に発見することができるのだ。
シリーズ中で最も人気のあるキャラクターの一人、 ハン・ソロの若かりし頃を描くスピンオフ映画、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は、密輸業を営むアウトローの活躍を描く。そのため、銀河にいる様々な種族やクリーチャー、ジャンクな機械や宇宙船に焦点が当てられる作品となっている。
ここではそんな世界観をかたち作るために、本作がどのような手法を使って様々な表現を達成したのか、その主要な一部を紹介しながら、それらを通して分かる、いまのシリーズの傾向や、娯楽大作のメインストリームがたどっている“現在地”について考察していきたい。
まず本作で目を奪われるのが、劇中で最初の舞台となる「惑星コレリア」だ。宇宙船の製造業が盛んで、ハン・ソロや、旧3部作で活躍したウェッジなど、優れたパイロットを輩出した星としても知られる。その光景には、産業によって自然が汚されているイメージと、工場特有の機械的な装置が並ぶ楽しさが、ない交ぜになっている。
また、超スピードで宇宙を駆け巡る、改造された軽貨物船ミレニアム・ファルコンが登場する感慨深いシーンを撮影するため、3カ月に渡って、まだハン・ソロのものになっていない、より新しいミレニアム・ファルコンの、これまでで最大となる内部セットを写したシーンは、大きな見どころのひとつとなっている。
本作において、このような豊富なディテールによって構築される世界を実際に表現する役割を担うのは、美術監督を含めた大勢の美術スタッフだ。彼らを全体的に統括するのは映画監督だが、本作において、スタッフたちと監督の間に入り、監督の意図や作品自身が求めるイメージをより具体的なヴィジョンに変換するのが「プロダクション・デザイナー」という役回りである。その権限は大きく、セット作りなどを中心に、さまざまな指示を美術監督や美術スタッフに与えることができる場合が多い。
本作でその任を与えられたのが、ピアース・ブロスナン主演の007シリーズや、『ハリー・ポッター』シリーズなどで美術監督として活躍し、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』で、すでにプロダクション・デザインを経験しているニール・ラモントだ。彼はいったい、何を基にして本作の世界を構築したのだろうか。
その答えは、新3部作(エピソード1~3)の一部でコンセプト・デザインなどを務め、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』ではニール・ラモントとともにプロダクション・デザイナーを務めたダグ・チャンが語っている。彼によると、ジョージ・ルーカス監督が全体にまたがる絶対者としてシリーズを統括していた頃と比較すると、いまは美術スタッフの負担が大きくなっているのだという。彼らは絶対者のいない環境下で「スター・ウォーズらしさ」を念頭に置いて作業しなければならない。そのためには、プロダクション・デザイナーやアート・ディレクターは、それぞれ独自に『スター・ウォーズ』への哲学を持って作業することが必要となってくる。彼らの集合的な考えによって支えられているのが、いまの『スター・ウォーズ』シリーズなのである。