3DCGアニメはいかにして生まれるか 『GODZILLA 怪獣惑星』のプリプロダクションを公開

『GODZILLA 怪獣惑星』のプリプロを公開

 最先端の3DCGアニメーションは、いかにして生まれるのか。今回はポリゴン・ピクチュアズの瀬下寛之監督をガイドに、アニメーション映画『GODZILLA 怪獣惑星』のプリプロダクションのフローを追体験させてもらった。世界観の構築から、キャラクターや構造物の具体的なデザインまで、最新テクノロジーを駆使しながら、クリエイターのこだわりが随所に反映される制作過程を見ていこう。(編集部)

瀬下監督による“ワールドビルディング”

『GODZILLA 怪獣惑星』は「ゴジラ」を題材にしつつも、ストーリーもビジュアルも、完全なオリジナルだ。瀬下寛之監督は、オリジナル作品を制作する際に「年表や地図からスタートする」と語る。

「まずは“その世界に何が起こったか/起こるのか”という年表を書き始め、実際に映画で描かれる以外のことも考えます。そして、その舞台となる地域の地図をラフに描いていく。『ワールドビルディング』と呼んでいる工程ですが、まずは没入したい/させたい世界の時間と空間を綿密に設定する、ということですね。映画本編と連続した前後の時間軸、舞台設定を構築することで、物語を豊かに、かつスタッフ間で共有して描きやすくします」(瀬下氏)


 当然、物語自体はフィクションであるが、そこで起こることは、その世界の中での理由がある。そうしたルールや歴史を規定することで、細やかな分業が行われている中でも、イメージがブレずに一貫した作品ができあがっていく。映画では描かれないが、その裏側では、主人公の少年時代のエピソードなども話し合われており、つまり無限のスピオンオフが可能な世界が、作品の背景に広がっているのだ。

 瀬下監督のチームでは、まず「シノプシス=あらすじ」を作り、物語の牽引する重要な出来事/場面を「映画」や「テレビアニメ」というフォーマットに合わせて振り分けた「プロット」を仕上げる。その段階で「エレメントブレイクダウン」ーーつまり、「物語」の「もの」と「かたり」を構成する要素に分解し、「かたり」は脚本作成へ、並行して「もの」はデザインチームが大小道具のビジュアルを設計していくことになる。

作品世界の基盤となる“プロダクションデザイン”


 続いて瀬下監督に、綿密に練られた世界観や舞台背景を軸に、「もの」の設計を行う「プロダクションデザイン」チームを案内してもらった。

 アニメーション映画『GODZILLA』シリーズ(以下、『GODZILLA』)でプロダクションデザインを手がけるのが、田中直哉氏だ。シノプシス以前の段階から、瀬下監督と作品の世界観について話し合い、試行錯誤を重ねて作品世界の基盤となるビジュアルを作り上げていく。瀬下監督は「最も初期のプロダクションデザインが豊かだと作品が豊かになり、ここで手を抜くと、結局、途中で迷い始めることになる」と、その重要性を語る。

「プロダクションデザインというのは、監督がイメージする世界観を具体的なビジュアルにしていく仕事です。まずは監督が作った年表や地図、スケッチなどを元に、とにかく話し合います。『森』の描写についても、どのような経緯で生まれ、どんな植物が自生しているか、という前提を共有した上で、イメージに近い、遠い、というやり取りを重ねるんです」(田中氏)


 『GODZILLA』に関しては、「ストラクチャーを相当、重厚なものにしなければファンに納得してもらえない」(田中氏)ということも考え、デザインを進めていったという。このプロダクションデザインをもとに、物語の舞台やキャラクター、衣装、乗り物や細かな構造物など、それぞれのデザインが進められていく。

考え抜かれたゴジラの造形


 続いて、ゴジラや登場人物のコスチューム、宇宙船などのデザインを手がけた、造形監督・片塰満則氏の仕事について。「これまで『ゴジラ』は様々な形で制作されており、個性を出して差別化するのが大変だった」と瀬下監督。作品のコンセプトと直結した造形にするため、デザイン画を仕上げて、それを立体化すればいい、という流れではなかったという。

「ゴジラに関しては、瀬下監督から『威厳があり、神々しいものにしたい』という話があり、金剛力士像のような東洋的な造形で、かつ植物のようにツルが絡んだようなデザインになっていきました。でもこのコンセプトに基づき、ゴジラ全身のデザイン画を描き、検討して修整を加えていく、という進め方をすると、高コストになってしまう。なので、粘土を細工するように3Dデータ上でボリュームや細部のデザインの試作を行い、イメージを固めていきました。巨大な木が進化して、金属元素を取り込み、発電するようになって……と、その成り立ちや機能の設定を固めていくなかで、尻尾はケーブルを編み込んだようなデザインになっていきました」(片塰氏)

 本作のゴジラは、「凶暴な爬虫類」ではない。そのため、目も落ち着いた雰囲気にするため、まつ毛をつけるなど、細やかな調整が行われている。瀬下監督は「イメージの具現化という意味でも、片塰さんには本当に助けられている」という。また「本作はアニメーションなので、ゴジラもある意味で“美形”でなくてはならない、という考えもあった」とも。


「アニメーションというのは、理想化されたものを描く、という一面があると思うんです。コザキさんによるキャラクターデザインは、まさに理想的な美形として描かれていて、ゴジラの造形もそれに寄り添う必要がある、と考えました。単なるクリーチャーとしてデザインしてしまうと、アニメーションの世界に実写をはめ込んだような違和感が生じて、作品の世界観がくずれてしまうんです」(片塰氏)

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる