スター作家が登場すれば、日本のインディーゲームシーンは一気に変わるーー『Back in 199564』開発者・一條貴彰インタビュー

『Back in 199564』開発者 一條貴彰インタビュー

 初代PlayStation風のレトロなポリゴンアドベンチャーとして、2015年から世界的話題になったインディーゲーム『Back in 1995』。好評に応え、3月14日にニンテンドー3DS専用ソフト『Back in 199564』としてリリースされた。その制作者であり、インディーゲーム開発者のコンサルティングも行うのが、株式会社ヘッドハイの代表を務める一條貴彰氏だ。本作の制作に至った経緯から、インディーゲームシーンの隆盛と今後の課題まで、じっくり話を聞いた。(編集部)

やりたいゲームが出ないなら、自分で作ってしまえばいい

――『Back in 1995』は初代PlayStation風のレトロなポリゴンアドベンチャーで、2015年の発表から、国内外で注目を集めてきました。3月14日にはニンテンドー3DS専用ソフト『Back in 199564』としてリリースされましたが、あらためて、制作の経緯を教えてください。

一條貴彰(以下、一條):ずばり、私がポリゴン黎明期のゲームで育ったからです! 国内外問わず、インディーゲームクリエイターの多くはファミコン~スーパーファミコンの世代をリスペクトしたドット絵テイストの作品を制作しています。私もドット絵が好きで、Steamなどでピクセルアート系のインディーゲームをよく遊んでいました。ただ、自分自身のゲーム体験を振り返ると、スーファミより初代PlayStationで遊んでいた期間が長かったので、ローポリゴンゲームの方がより郷愁を感じるんですよね。インディーゲームを遊ぶようになってからしばらくして、そういえばレトロポリゴン描写って見ないな、いずれそういう表現に注目したインディーゲームが出てくるだろうな、と思っていたら、2年くらい経っても「出ねえ!」と(笑)。

――それならば、自分で作ってしまおうと。

一條:そうなんです。実は『Back in 1995』以前に一本、PlayStation Vita向けに『CardBorad Cat EP』(2014年)というゲームを出していて、ちょうどゲームづくりを本格的に勉強し始めていた時期でした。次のゲームのテーマはどうしようかなと試行錯誤していたなかで、Unityというゲームエンジンの上で、初代PlayStationっぽい映像が作れそうだとわかったんです。それでYouTubeにトレイラー映像を出してみたのが、2015年4月。すると海外から想像以上の反響があったので、本腰を入れて開発を始めた、という経緯です。ゲームデザイン、プログラム、サウンドは全て一人作り、ポリゴンデータもメインビジュアルは自分で、一部のポリゴンデータやアートアセットは知人に依頼して作ってもらっています。

"Back in 1995" Tester trailer

――もどかしい操作感も含めて、当時のアドベンチャーゲームのテイストが見事に再現されていると思います。

一條:見た目、サウンド、操作体系、ストーリーの不明瞭さなど、当時のテイストを汲み取り、再構成しようと。遊んでくれた方からは、『バイオハザード』や、『サイレントヒル』を思い出すとよく言われますね。ゲームパッド(コントローラー)で遊べるのですが、「アナログスティックなんて使わないぜ」というスタイルで、十字ボタンでいわゆる“ラジコン操作”をいまやらせるという、かなり変なゲームになっていて、アートプロジェクトっぽい作品かなと考えています。資金面は手弁当なので、大手ゲームメーカーや海外のインディーゲームスタジオほど、クオリティやボリュームが出せなかったのが心残りですが。

――インディペンデントでフットワークが軽く制作できるからこその作品、という気もします。

一條:それはありますね。大きい会社だったら、絶対にこの企画は通らないと思いますので(笑)。このゲームについて「狂気を感じる」と言われたことが、何よりの褒め言葉だと思うんですよね。インディーゲームクリエイターは、大手メーカーができないところを攻めることができるのが何よりのメリットです。クリエイター自身が好きなことを突き詰めることができるのが強みですから、もっと「狂気を」出していくべきだと考えています。私はゲームを作るだけでなく、他のインディーゲームクリエイターのサポートを事業として行っているので、なおさらそう思います。

――アート的なものは、メーカーの論理では難しい部分もあるかもしれませんね。

一條:大手のプロジェクトになると、やはりゲームとしてのトータルなクオリティが優先されますから。『Back in 1995』については、インタラクティブアートを見るような感じで、触ったときに感情が揺さぶれる、ということに重きを置いているんです。その反面、ボリュームやストーリー性という部分にあまり工数を割くことができなくて、厳しい意見をいただくこともありました。あと、このタイトルの面白さは、おそらく30歳以上の人にしか伝わらない……という、ターゲットの狭さもありますね。もっと言うと、コアなゲームファンであっても、40代、50代の人にとっては楽しめないかもしれない。というのも、ファミコン世代からゲームを楽しんできた人にとっては、初代PlayStationはあくまで通過点であって、そのプレイフィールを再現しても特別な価値があると思ってくれないかもしれないので。

 ですから、当初は「世界規模で見たら1万人くらいの人がこのゲームに興味を持ってくれて、そのうち1000人くらいが買ってくれるはずだ」と思っていました。実際にリリースしてみると、ありがたいことにそれ以上の広がりがありましたし、もっとこの世代に特化したゲームがあってもいいなと思いました。もっとも、次回作はもう少し、幅広い層の人が触れやすいゲームを作りたいな、と考えていますが(笑)。

――なるほど。クリエイターとしてだけではなく、コンサルタント的な立場でもインディーゲームというシーンを眺めているなかで、今後トレンドになりそうなことはありますか?

一條:やはりNintendo Switchでインディーゲームが好調なのが大きく、このハード特性に合わせて、テレビ画面をシェアして2~4人で遊ぶタイトルは多く出てきそうですね。毎月行われているインディーゲームクリエイターの交流イベント『Tokyo Indies』でも、対戦型ゲームをよく見ます。ひとつの画面をみんなでシェアして、大騒ぎしながら協力対戦するのはやっぱり楽しい、ということが再発見されているのではないかと思っています。私は同人・インディーゲームを家庭用ゲーム機に配信する「Play,Doujin!」というプロジェクトにディレクターとして協力していますが、こちらでもNintendo Switchへの参入を発表したところです。

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