スター作家が登場すれば、日本のインディーゲームシーンは一気に変わるーー『Back in 199564』開発者・一條貴彰インタビュー

『Back in 199564』開発者 一條貴彰インタビュー

日本から世界を席巻するインディーゲームは生まれるか

――クリエイターのサポートもされているなかで、世界を席巻するようなタイトルが日本のインディーシーンから出てくる可能性は感じますか?

一條:日本はそういう土壌がやっと整いつつある、という状況だと思います。日本にはインディーゲームに対する「投資」がまったくなかったのですが、最近はパブリッシャーがインディーゲームクリエイターにお金を出すケースも出てきたので、「いいアイデアはあっても、世界に向けてスケールしにくい」という日本のインディーゲームシーン最大の問題が、少しずつ解消されつつあるのではと。クリエイターが投資を受けられるチャンスがもっと増えるといいなと思います。

 また、以前はゲーム開発会社の寡占状態だった家庭用ゲーム機へのゲームリリースについても、個人事業主や小規模な会社でも参入しやすくなってきています。これらの潮流から、個人や2~3人のチームが世界に向けて継続的に作品を発表し続け、その上で「作家にファンがつく」というサイクルを形成してほしいですね。ミュージシャンだったら、アルバムごとにテーマが変わったり、メンバーが変わったりしながらも人にファンがつくじゃないですか。作品にその人の味が出ている、というのが豊かなシーンの形成につながると思うので、「この人の作品だったら、ホラーゲームでも、格闘ゲームでもやってみたい」と思えるクリエイターが出てくる状況ができれば面白いなと。そういうスターが出てくれば、状況が一気に変わるかもしれないですね。

――それでは、日本のインディーシーンに課題があるとすると?

一條:一番大きな課題は先ほど述べた通り、クリエイターが資金面の援助を受けるチャンスが海外と比べて圧倒的に少ないことです。一因としては、日本社会が「ゲーム」に対して寛容でなく、文化的価値がまだまだ認められていないことにあると考えています。

 そして、日本のクリエイターさんが作品を世界に向けてアピールしにくいことも課題です。例えば2017年にSteamで配信されたゲームは7672本との報告があり、つまり1日20本以上のタイトルがリリースされている。そのなかで、クリエイターさんが思う「こういう層に遊んでほしい」というターゲットにリーチできず、埋もれていってしまうタイトルが多いという問題あります。海外にはインディーゲームマーケティング専門の会社がありますが、日本では言語の壁もあり広報手段が限られますので、「ゲーマーに発見してもらえるのを待つしかない」というクリエイターも多いのではと思っています。

――多くの人の知るところになればヒットする可能性のある、いいゲームもまだまだあるということですね。

一條:そうです。私はたまたま、メディアにニュースリリースを送るといったプロモーション活動を「楽しい」と思えるタイプだからよかったですが、ゲームを作り、配信し始めたはいいものの、その後何をすればいいかわからない、分からないので手を打てない……というクリエイターは少なくないと思っています。そういう人たちに向けて、「ニュースリリースはこうやって書きましょう」「ゲームサイトにメールを送ってもいいんですよ」と、伝えるセミナーもあります。才能あるクリエイターが埋もれないように、きちんと広報活動を支援できる会社なり仕組みがあれば、より多様なタイトルが盛り上がるようになると思うんです。

 その点で期待しているのは、ソニー・ミュージックエンタテインメントさんが立ち上げた、インディーゲームパブリッシングのレーベル「UNTIES(アンティーズ)」です。ソニー・ミュージックという大きな広報の基盤があり、現場のご担当も、日本国内の同人ゲームを熟知していらっしゃる方、インディーゲームのイベントを手がけてこられた方、また海外のインディーシーンに深くかかわっている方、というエキスパート揃いです。彼らなら、面白いタイトルを発掘して広報する力――日本のインディーゲームを海外に売り出すためのマーケティング力も、非常に強いと思います。

――日進月歩で変化するゲーム業界ですが、未来にはどんなコンテンツが出てくると思いますか。

一條:ゲームに限らない話かもしれませんが、ユーザーひとりひとりの趣味嗜好に合わせてカスタマイズされたエンタメが出てくるだろうと思います。趣味や行動の傾向から、AIがその人に最適なゲームを提案し、ゲーム自体を生成するところまでいくかもしれません。

 ただ、それは遠い未来の話で、当面、人間のアイデアがゲームの面白さを決めていくことは変わりません。今後、ゲームリリースのハードルがさらに緩和されていくなかで、これまでだったら「こんなゲームがあったらいいな」と空想するまでだった人たちのアイデアが、形になりやすくなっていくのではないでしょうか。ソフトウェア、プラットフォーム、資金の問題やゲームに対する社会の寛容性なども含めて、日本でも独立系のゲームクリエイターを取り巻く環境は徐々によくなっていると思いますので、私自身も、素晴らしいゲームがどんどん登場することに期待しています。

(構成=編集部)

■『Back in 199564』概要
ジャンル:レトロ3Dアドベンチャー
プレイ人数:1人
価格:980円(税込)
販売形式:ダウンロード専用ソフト
開発:Throw the warped code out (株式会社ヘッドハイ)
販売: Play,Doujin!(メディアスケープ株式会社)
対応機種:Newニンテンドー3DS、Newニンテンドー3DS LL、New ニンテンドー2DS LL
※立体視には対応しておりません。
作品紹介サイト:http://playdoujin.mediascape.co.jp/product/twc-9564/

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