イーロン・マスクが「SXSW」で語ったこと “テクノロジーと人間性”に関する哲学を読む
SpaceXとTeslaの共同ファウンダー、イーロン・マスクは3月10日(現地時間)、テキサス州オースティンで開催中のテクノロジーと音楽の祭典「SXSW 2018」で、SFスリラー・ドラマ『ウエストワールド』のパネルディスカッションにサプライズで登壇。日本時間2月7日午前5時45分に打ち上げに成功した大型ロケット「Falcon Heavy」のショートムービー「Falcon Heavy & Starman」を披露し、TechCrunch やITmediaなどのメディアが大きく報じた。
このサプライズ登壇の意義と、イーロン・マスクが示した人類とテクノロジーのあるべき関係について、テクノロジー分野に詳しいデジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏にコメントしてもらった。(編集部)
ジェイ・コウガミ氏コメント
イーロン・マスクの登場は、SXSWで主要パネルの1つとして注目されていたドラマ『ウエストワールド』のパネルセッションでのこと。その理由は、週末にYouTubeで公開されたSpaceXのロケット打ち上げドキュメンタリー映像を同ドラマのクリエイターのジョナサン・ノーランとリサ・ジョイが製作した、というつながりがあったからです。
一番感動した点は、彼がこれまでの功績をプレゼンしにきたわけではなく「宇宙開発を行うことは、人類に必要不可欠なんだ」というビジョンを語ったことです。テクノロジー業界のトップがいるSXSWでこの発言をしたということが、非常に大きい。
彼の野望は火星に行く・火星を住める場所にすることで、惑星間を行き来するために、打ち上げるだけでなく再利用できるロケットを開発しようとしています。宇宙開発というのはテクノロジーの分野で最も難しく、正解がない。それを従来のように国や軍ではなく、民間企業が行なっているというのは、とても民主的で現代的な構造だと思います。
冒頭にも紹介したように、今回の登壇でイーロン・マスクは、宇宙開発事業を行なっている理由について、「人類のため」としており、これは『ウエストワールド』の「人類とロボットがどうしたら共存できるか」というテーマにも関わってくるものだと思いました。
今の世の中は、テクノロジー先行で物事が動いているなかで、「人間性を取り戻そう」ということがテーマになっていると思います。しかし、まだ日本の中のテクノロジーの業界は、「人間性」というワードを聞くと「身体の拡張」や「身体とシンクロ」するテクノロジーやバーチャル空間を作ることに目が行きがちです。それがVRが注目される理由のひとつだと思いますが、イーロン・マスクが語ったことは、文化的・社会的な思想も含めた広義の概念でしょう。
先端テクノロジーの祭典として知られるSXSWで、カリスマ起業家・実業家のイメージが強かった彼から哲学的な話が出てきたのはテクノロジーに対する大きな問題提起のように感じました。だからこそ現地の多くのメディアが取り上げたのだと思います。
人間性のように、数字で測れないものを、0と1でできたテクノロジーで作ること難しい。しかし、そこにチャレンジすること自体がテクノロジーの次のフェーズではないかという気がしますし、それが今、アルゴリズムとか、AIとか、パーソナリゼーションと言われているものなのだと思います。テクノロジーが向かう先について、今回のイーロン・マスクの登壇は、ひとつの示唆を与えてくれました。