『ポケモンGO』開発の裏側をNiantic日本法人・村井説人に聞く 「『人が動いて遊ぶ』を原則に」

ナイアンティック日本法人代表インタビュー

――『Ingress』は『Pokémon GO』と比較してテクニカルな部分が強く、当初は万人受けはしないゲームに見える部分もありました。ユーザーコミュニティの広がりには、どんな違いがあるでしょうか。

村井:『Ingress』はゲームデザインが複雑なこともあり、攻略するのに他のユーザーとの協力が欠かせません。その結果世界中に場所ごとの濃密なコミュニティが形成されており、イベントに一緒にでかけたりするユーザーも多いです。一方で、『Pokémon GO』に関してはライトユーザーが多く、ルールがわからなくてもポケモンを集めて歩くだけで楽しい、という設計になっているので、レベルを上げて、ジムでバトルをするなどさまざまな機能で遊ぶなかで、徐々にライトなコミュニティができていくという形になっています。

――新作として『Harry Potter : Wizards Unite』の開発が明かされていますが、タイトルの大きさからも、ライトなユーザーが楽しみながら歩ける、というゲームになることを期待してもいいのでしょうか。

村井:そうですね。『Pokémon GO』には『Ingress』で体験・経験できたことを反映してきましたが、今度は『Pokémon GO』で培ったものも投入していくことになりますので、非常に楽しいゲームになると確信しています。変わらないのは、申し上げたようにユーザーの歩行距離がわれわれのKPIになりますので、やはり多くの方に外に出かけて楽しんで歩いていただいて、またより他の人と遊んでいて楽しくなるようなプラットフォームを提供することが第一ですね。リリース日についてはまだお話できないのですが、ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。

――ARによって実現する世界のリーディングカンパニーに、というお話もありましたが、ARとVRの違いについては、どう捉えていますか。

村井:VRはいろいろなものをシャットダウンし、自分の世界に没入していくもので、ARはいま生きているこの世界に対して、より意味や価値を持たせていくテクノロジーだと考えています。われわれがARに力を入れているのは、基本的にその場で終わるものではなく、自分が目にする現実のさまざまなものが、ARがもたらす情報のレイヤーによって革新的に変わり、その場所やモノについてより深く知ることができるようになったり、新しい見方ができるようになったり、という仕掛けができるからです。

ベンチマークは「スポーツ」

――今後さまざまなメディアで、情報をARも含めたどの空間で扱うか、という話になっていくと思いますが、人の「情報に接したい」という意欲は、さらに高まっていくと思われますか?

村井:人は歩いているときも電車に乗っているときも、あるいは寝ているときも、脳が活動していればいつもさまざまな情報を取り続けています。人間が情報に接するということは未来永劫なくならず、行動する限りは情報に触れたいと考えているんです。必ずしもメディアを通してではなく、情報に触れたい、触れなければならない、という環境に、どう寄り添って情報を提供していくことができるのか。近い未来、そういうことがテーマになってくると思いますし、Magic Leap(マジックリープ)やHoloLens(ホロレンズ)のように、みなさんのメガネや衣類に、必ずARデバイスが入ってくると予測しています。視覚だけでなく、嗅覚、聴覚も含めて、さまざまな情報の得方がありますから、今後どういうデバイスが出てくるのか、楽しみにしているところです。

――リアルワールドゲームをリリースして、ユーザーの反応を分析していくなかで、ナイアンティック社に人間の行動に対する知見が蓄積されているのではないか、と想像しています。そのなかで、「人が本能的に何を楽しいと思うのか」のようなことは、社内で議論されていますか?

村井:そうですね。やはり「歩いて冒険する」ということの楽しさは実感しており、”Adventures on foot with others”」(みんなでともに歩き、冒険しよう)という言葉が社是になっているんです。新しい場所に行って、新しい体験をする、ということに楽しさを感じていただけているというのは、われわれの見立てが間違っていなかったところで、さらにそういう部分を強める仕掛けを作ることができれば、多くの人たちは椅子から立ち上がり、歩き始めるのではないかと。

――なるほど。最後にあらためて、ナイアンティック社が目指すものについて聞かせてください。

村井:ひとつのベンチマークとして、スポーツというものを見ています。子どもにスポーツが推奨されているのは、それによって心が鍛えられるかもしれないし、先輩/後輩という関係も含めたコミュニケーションによって社会性を育てることができるし、さらにゲーム性があるから楽しく、没入することができるからだと考えています。そういうところで、スポーツは理想的に、人の生活のなかに組み込まれているんです。

 われわれが扱っているのはゲームですが、プレイすることでいつの間にか、「普段なら一日500mしか歩かないのに、今日は5km歩いた。それが楽しい」という世界を作ることができれば、スポーツと同じような観点で楽しめると思います。重要なのは、スポーツが楽しいのは「勝ち負け」があることももちろんですが、本質的には他者と時間、感情を共有することだと思います。そういった要素をわれわれのプロダクトでも増やしていき、、「あなたの趣味は何ですか?」という問いに対して、「テニスです!」というのと同じ感覚で、普通に「『Pokémon GO』です」「『Ingress』です」と言ってもらえるようにしたいし、それに対して「歩くのが好きなんですね」と言われるような世界をつくりたい。われわれがなぜ、リアルワールドゲームを開発しているのか、本質的な部分をもっとうまくお伝えしつつ、ご理解いただけるようにさらにがんばっていきたいですね。

(取材=ジェイ・コウガミ/構成=編集部/撮影=三橋優美子)

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる