『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』徹底考察 神話性と人間性の葛藤

さて、本作『ワルプルギスの廻天』である。13年前の前作『叛逆の物語』が、まどかとほむらを神と悪魔の対立のようなところまで押し広げ、ひとつの神話を生み出してしまったことで、そこから先の物語づくりは、さらに難度を増していたように見える。なにしろ、今回は最初から神話的な設定が成立している。その状態を前提にして、もう一度物語を始めなければならないのだ。
そこで投入されるのが、紫丁香、セルマ・テレーゼ、そして「ワス」こと“名前のない上級生”という新たなキャラクターたちである。彼女たちは、いわば絶対者となったほむらを、その座から引きずり下ろすために現れる。目的は、「円環の理」からまどかの人格を取り戻すこと。つまり、神話のなかに組み込まれてしまったまどかを、もう一度ひとりの人格として引き戻そうとする。
そう考えると、彼女たちの神話的な位置づけは、「天使」に近いのかもしれない。すでに神と悪魔のような関係が成立してしまった世界に、新たな第三者として彼女たちが入り込むことで、物語は再び動き始めるのである。
すでに明かされているように、今回の物語の流れは、脚本を手がけた虚淵玄だけでなく、劇団イヌカレーによるところも大きいのだという。ここで面白いのは、その劇団イヌカレーが、アングラ演劇団「天井桟敷」や、そこから派生した「演劇実験室◎万有引力」の大きな影響下にあるということだ。
そうなると、同じくこれらの演劇から影響を受け、音楽に「演劇実験室◎万有引力」の主宰であるJ・A・シーザーを招聘したアニメ作品『少女革命ウテナ』を思い出さずにはいられない。本作『ワルプルギスの廻天』が、どことなく映画『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』(1999年)を思わせることも、単なる偶然ではないのだろう。
しかも『少女革命ウテナ』自体、これまで見てきた『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』と重なる部分が多い。こうして辿っていくと、ひとつの作品から別の作品へ、さらに別の作品へと影響が受け渡されていることが見えてくる。『ワルプルギスの廻天』をめぐっては、過去の作品や表現がそれぞれ独立して存在しているというより、まるでぐるぐると回りながら、互いの影響が渦巻いているように見えるのである。
そして圧倒的なのが、全編を彩るイメージの奔流である。動画やCG、ストップモーション・アニメーションなど、さまざまな映像表現が入り乱れ、ややうるさく感じられるほどの情報量で画面が埋め尽くされていく。それは、TVシリーズから映画版へと作品が積み重ねられていくなかで、高度に複雑化していった『魔法少女まどか☆マギカ』の世界そのものといえる。めまぐるしく変化する画面を追い続けるうちに、多くの観客は心地よさだけでなく、ある種の疲労感をおぼえるほどに翻弄されるはずだ。だが、それこそが、ここまで複雑化してしまった作品世界を体感させるための、本作ならではの映像表現なのではないだろうか。
そして、ついに暁美ほむらが見逃していたものが、物語の終盤で明かされることになる。ほむらは円環の理のなかからまどかを救い出し、まどかを一人の人間として生きられるようにした。しかし、その結果として、まどかの人格を失った円環の理は、魂を失ったかのように形骸化してしまっていたのだ。
つまり、ほむらがまどかを救い出すことで初めて明らかになったのは、まどかの人格が単なる一人の少女のものではなく、システムそのものにとっても必要なものだったという残酷な真実だった。神話的な世界を成立させるためにも、そこには一人の人間としてのまどかが必要だった。この部分は、作品論や社会学に話を広げることも可能である。
キャラクターたちの最終的な顛末や、ついに明かされる「ワルプルギスの夜」という存在の真相までは、ここでは言及しないが、人間性こそが重要だという観念は、“人間を描く”ことが創作の大きな力であるという、基本的な地点へとシリーズ全体を立ち返らせる。表面的には、ただ円環の理と悪魔の時間の罠の間を行ったりきたりしているようにも見えるが、背後で走っている哲学は、しっかりと前進しているのである。
これによって、本作『ワルプルギスの廻天』は、『ファウスト』の要素を用いたと考えられる世界観で描かれたシリーズ全体を、神話に着地させつつも、作品が追求する価値観そのものは、最終的に人間の側へと強く引き戻したのだ。われわれ観客が無意識的におぼえる鑑賞後の感動は、きっとそこに由来したものなのではないだろうか。
■公開情報
『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』
全国公開中
キャスト:悠木碧、斎藤千和、喜多村英梨、野中藍、水橋かおり、阿澄佳奈、若山詩音、黒沢ともよ、加藤英美里
原作:Magica Quartet
総監督:新房昭之
脚本:虚淵玄(ニトロプラス)
キャラクター原案:蒼樹うめ
監督:宮本幸裕
キャラクターデザイン/総作画監督:谷口淳一郎
総作画監督:山村洋貴
異空間設計:劇団イヌカレー(泥犬)
絵コンテ/ビジュアル・コンセプトデザイン:古川知宏
ビジュアル・コンセプトデザイン:川田和樹
色彩設計:日比野仁
美術:内藤健/草森秀一
美術設定:大原盛仁
撮影監督:会津孝幸
編集:松原理恵
音楽:梶浦由記
音響監督:鶴岡陽太
アニメーション制作:シャフト
配給:ANIMEC
主題歌:FictionJunction「彼方」
©Magica Quartet/Aniplex,Madoka Project
公式サイト:https://www.madoka-magica.com/wr/
公式X(旧Twitter):https://x.com/madoka_magica
























