『Tシャツが乾くまで』の答えは生方美久脚本にある? 『silent』から続く“名前のない感情”

『Tシャツが乾くまで』生方美久脚本の凄み

 このドラマは、私たちをどこに連れていってくれるのだろうか。

 金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』(TBS系)は、瀬尾咲子(蒼井優)の夫・充(松山ケンイチ)がバス事故をきっかけに行方不明になったことから始まる物語だ。最新話では、充が失踪した理由がついに明らかになった。

 振り返れば、本作は最初から予想を裏切り続けてきた。園田樹生(中島歩)の「あなたの夫、僕の妻と不倫してましたよ」という第1話ラストの衝撃的な言葉で、“夫の秘密”をめぐるミステリーへと変貌したかと思えば、第2話では配偶者を失った咲子と樹生の距離が縮まり、新たな恋の予感を漂わせた。ひとつのジャンルに収まりそうになるたび、するりと抜け出し、思ってもみなかった場所へと私たちを連れていく。

 そんな本作の脚本を手がけているのが、生方美久だ。これまで、『silent』(フジテレビ系)、『いちばんすきな花』(フジテレビ系)、『海のはじまり』(フジテレビ系)といった作品を世に送り出してきた。生方作品を観ていて感じるのは、日常の中に確かに存在しながら、私たちが意識することも、うまく言葉にすることもなかった感情や関係をすくい上げ、会話へと落とし込む巧みさだ。『Tシャツが乾くまで』にも、生方らしい言葉が随所に散りばめられている。

 たとえば咲子が口にした「いつまでかわいそうでいたら、幸せになっていいんですかね」という言葉。大切な人がいなくなったのだから悲しんでいるはず、悲しんでいるなら楽しそうにしているのはおかしい。誰が決めたわけでもないのに、私たちはいつの間にか、そんな“感情のルール”を共有している。

 こうした、私たちが普段は意識することすらない感情や人間関係の機微に目を向ける姿勢は、生方のキャリアを通して一貫している。その才能が広く知られるきっかけとなった『silent』で見つめたのは「人はどうやって他者に思いを伝えるのか」という、ごく当たり前の営みだった。

 想(目黒蓮)は学生時代、紬(川口春奈)に「好きな人がいる。別れたい」とメッセージを送る。紬は「自分以外に好きな人ができた」と受け取るが、想が言う「好きな人」とは紬自身のことだった。同じ言葉でも、伝える側と受け取る側では意味が変わる。声、手話、文字、そしてあえて伝えないという選択まで。聴者とろう者という設定を入り口に、『silent』は誰もが経験する「伝える」と「伝わる」の間にあるものを描いた。

 続く『いちばんすきな花』では、「2人組」にまつわる生きづらさを物語の主軸に据えた。唯一無二の男友達との関係を相手の結婚によって断たれたゆくえ(多部未華子)、男性と2人でいるだけで恋愛を求められる夜々(今田美桜)ら、4人が抱えていたのは「こんなことを気にするのは自分だけかもしれない」と言葉にできずにいた生きづらさだった。

 集まった4人が悩みを打ち明けた末、椿(松下洸平)は「こんな話したのも、もう会わないからです」と口にする。親しいから話せるとは限らない。むしろ他人だからこそ話せる本音もある。そんな人間関係の機微を、短い一言に凝縮してみせる。この感覚は、『Tシャツが乾くまで』の充とあずさの関係でも描かれた。

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