実写映画『ブルーロック』はなぜ成功作と感じるのか 役者の演技と作りに宿る“怪物”を紐解く

“怪物”たちが集結

そして本作における“怪物”は、高橋だけではない。凪誠士郎役のK(&TEAM)は、9人組グローバルグループのメンバーとして初のソロ映画出演でこの人気キャラクターに挑んだ。本人は役作りについて、原作通りの凪を表現するためにどこまで自分を作り込むべきかを相当に考え抜いた末、結局のところ自分は自分でしかいられないため、まずは自分自身と凪が結びつく部分を探すところから始めたと明かしている。単純な模倣ではなく、自分自身との接点を起点に凪という浮世離れしたキャラクターを構築していったことがわかる。小学生時代に5年間サッカーに打ち込んだ経験や、オーディション番組『I-LAND』で味わった、外界から閉ざされた空間で己の才能と向き合う日々が、無自覚のうちに凪という役との親和性を生んだという述懐も興味深い。

蜂楽廻役の櫻井海音もすごかった。特に彼のようなキャラクターがより漫画的であればあるほど声の出し方や表情の作り方も難しく、一歩間違えたらやり過ぎになってしまう。彼は演技の中でそういう綱渡りをずっとしているのだが、しかしそれはハラハラさせるものではなく、むしろその上で大道芸でも見せつけられているかのような自然さもあって圧巻だった。櫻井は幼少期から10年以上サッカーを続け、一時はプロを目指していたという経歴の持ち主。本人もドリブルやパスなど蜂楽の細かい技をできる限り再現しようと現場で意識し続けていたと語るように、原作の再現度への強いこだわりを持って撮影に臨んでいる。

國神錬介役の野村康太も良い存在感を発揮している。強靭なフィジカルと左足のミドルシュートを武器とする、スポーツマンシップと漢気にあふれた好青年という原作の設定を、まっすぐで誠実な佇まいのままスクリーンに立ち上げており、チームメイトからの信頼の厚さが芝居の端々から自然と伝わってきた。

絵心甚八役の窪田正孝はもう規格外すぎる。完璧な演技を語る前に、シルエットで登場した瞬間から、痩せ型だが元アスリートだったことがわかる体作り、特徴的な頬の痩せ方まで完全再現してきているのだから、もう凄い。実際、松橋プロデューサーによれば、この肉体改造は制作側から頼んだものではなく、窪田自身がかなり身体を絞り込み、自分なりの絵心像を突き詰めた上で現場入りしたのだという。その再現度の高さに、原作者の金城・ノ村の両氏も、「絵心が本当にそこにいた」と大いに喜んだというエピソードが伝えられている。窪田はこれまでも『DEATH NOTE』の夜神月や『東京喰種』の金木研など、漫画原作の実写化で内面の狂気や葛藤を演じ切ってきた実績を持つ俳優であり、その蓄積が、聞く者を引きつけずにはおかない絵心という難役の説得力に直結していた。

そして個人的にMVPは、雷市陣吾役の石川雷蔵。ビジュアルは本来のキャラがもう少し痩せ型なのに対しガッツリしていて、いわゆるビジュアル完コピではない配役と思いきや、彼の叫ぶ時のくしゃっとする顔に雷市を見た。石川自身、役作りについて、雷市の持つ執念という要素を体幹から作り込んでいったことを明かしており、単なる筋肉量ではなく、雷市というキャラクターが持つ執念深さを体の芯から立ち上げていたことがわかる。
さらに彼自身、サッカー経験者でポジションはセンターバック。フィールド全体を見渡す役割を長年担ってきた経験から、監督からもフィールドプレイヤーとして一番見えている立場である以上、声をかけ続けるべきだと助言を受け、試合シーンではアドリブでの声かけも任されていたという。これほどまでにサッカーをやってきて良かったと思えたことはないと本人が振り返るように、自身の競技経験がそのまま雷市というキャラクターの実在感に転化されている。演技、役作り、キャラへの理解、立ち振る舞い、それら全てで雷市を体現。他の主要キャストと比べるとキャリアの盛り上がりもこれからという立ち位置の中で堂々と演じきり、物語を推進していった姿を讃えたい。
実写化の意義とは何か
もちろん、すべての演者の演技やシークエンスが完璧だった、なんてことはない。それでも実写版『ブルーロック』を通して改めて感じたのは、実写化という営みの本当の意義だった。同じ物語、同じキャラクター、同じ展開をなぞっているにもかかわらず、漫画ともアニメとも異なる質感で、また新たに楽しめる作品として完成されている。それは、監督・スタッフが生身の人間ができるギリギリのスーパープレーという一線を守りながら映像的な説得力を積み上げ、役者陣がそれぞれ自分自身とキャラクターの接点を探りながら、時に1年半にも及ぶ練習や肉体改造という形で役に人生を懸けていった、その積み重ねの結果に他ならない。

原作という強固な土台がありながらも、そこに寄りかかるだけでなく、実写という表現形式だからこそ可能な説得力とリアリズムを積み上げていく。そして観客は、その積み上げの果てに、役者がキャラクターを超えて“覚醒”する瞬間に立ち会うことになる。また、本作を観るまでその存在をあまり意識していなかった俳優が、一本の作品を通して忘れがたい存在として刻まれる……そんな出会いを運んでくれることもまた、実写化という営みの持つ価値のひとつだろう。そんなふうに想像を超えるものを見せられたときの高揚感――実写化というものの可能性を、これほどまでに前向きに信じさせてくれた作品は久しぶりかもしれない。
■公開情報
『ブルーロック』
全国公開中
出演:高橋文哉、櫻井海音、高橋恭平、綱啓永、野村康太、K(&TEAM)、青木柚、西垣匠、富本惣昭、倉悠貴、東啓介、畑芽育、窪田正孝
監督:瀧悠輔
脚本:鎌田哲生
原作:金城宗幸・ノ村優介『ブルーロック』(講談社『週刊少年マガジン』連載)
主題歌:Ado「モンストロ」(Capitol Records/ユニバーサル ミュージック)
制作:CREDEUS
製作:CK WORKS
配給:東宝
©金城宗幸・ノ村優介/講談社 ©CK WORKS
公式サイト:BLUELOCK-MOVIE.JP
公式X(旧Twitter):BLUELOCK_MOVIE





















