『映画ちいかわ』原作ファンが絶賛の理由 “伏線”際立つアニメならではの演出

また終盤の焚き火シーンも、かなり見応えのある演出だった。セイレーンが復讐を諦めて一件落着……という浮かれたムードが漂うなか、事件の真相を悟ってしまったちいかわは落ち着かない様子。犯人のもとに近づいて声をかけようとするが、2人が震えながら手を握っているのを見ると、言葉を飲み込むことに決める。とくにちいかわが自分のポシェットをぎゅっと握りしめるカットは印象深く、内面的な逡巡がひしひしと伝わってくる演出となっていた。この場面があるからこそ、同作は深い余韻を残す映画になっているのではないだろうか。
また原作にはない要素として、キャラクターたちの声や歌の使い方にも言及しておきたい。たとえば回想シーンにおいて、犯人が人魚を撲殺する場面ではあまりにも鈍く生々しい効果音が劇場に響き渡り、作品の世界観を一気に上書きするような効果を生んでいた。

キャラクターの声でいえば、セイレーン役の鈴木みのりは間違いなくMVPだろう。かわいらしくも恐ろしいというセイレーンの二重性を絶妙な演技で表現しており、その歌声はどこか神々しさすら感じさせるところがあった。
その一方で劇中歌「今日の日はさようなら」の使い方も鮮烈だ。ちいかわたちの友情を歌った微笑ましい歌のように聞こえるが、事件の真相がわかるとその歌詞がグロテスクな意味に変貌する……という仕掛けになっている。

さらにナガノが作詞を手掛けたオープニング曲、エンディング曲の対比的な構成も見逃せない。まずハチワレ役・田中誠人が歌うオープニング曲「くつずれ」では、旅に出ることへの不安と勇気が表現されている印象。その一方でちいかわ役・青木遥が歌うエンディング曲「机さする」では、島民たちの罪を胸に秘め、自分の家に帰ってきたちいかわの心情が表現されているように感じられる。
「セイレーン編」の肝は、“永遠を誓い合った友達”という犯人の島民たちの姿が、ちいかわやハチワレの関係に重ね合わされることにある。オープニング曲とエンディング曲の歌詞は、そうしたテーマを通奏低音として響かせる名曲と言えるだろう。
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— ちいかわ💫アニメ火金 (@ngnchiikawa) July 23, 2026
ちいかわ💫アニメ火金 公式Xより
島合宿を通して、お互いの友情を確かめ合ったちいかわたち。だが原作ではとくにハチワレをめぐって、“いつか来る友情の綻び”を思わせるような不穏な展開もしばしば描かれている。
最高の完成度で制作された映画版を踏まえて、原作がこの先どんな展開を描いていくのか要注目だ。
■公開情報
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』
全国公開中
キャスト:青木遥(ちいかわ)、田中誠人(ハチワレ)、小澤亜李(うさぎ)、井口裕香(モモンガ)、内田雄馬(ラッコ)、淺井孝行(くりまんじゅう)、島袋美由利(シーサー)、春海百乃(古本屋)、最上嗣生(島二郎)、鈴木みのり(セイレーン)
原作・脚本:ナガノ
監督:及川啓
キャラクターデザイン:辻智子
コンセプトアート:橋本真樹
プロップデザイン:高妻匠
色彩設計:長井彩香
美術監督:眞﨑萌
CG監督:中野祥典
撮影監督:岡﨑正春
編集:高橋歩
音響監督:土屋雅紀
音響効果:倉橋裕宗(オトナリウム)
音楽:トクマルシューゴ/上水樽力
アニメーションプロデューサー:溝口侃
アニメーション制作:サイピク
製作:川上洋一、古澤佳寛
エグゼグティブプロデューサー:松崎容子
プロデュース:今福太郎
プロデューサー:小峯雅隆、障子直登
宣伝プロデューサー:林原祥一、斎藤愛子、狩野裕明
製作幹事:QTORY inc.
配給:東宝
©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会
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