『風、薫る』原田泰造が体現してきた“見守る父”の愛 大河ドラマや『サ道』で培った演技力

『風、薫る』原田泰造の“見守る父”の愛

 中でも吉江役と重なるのが、『花燃ゆ』で演じた杉民治だ。吉田松陰の兄であり、杉家の長男でもある民治は、志のままに突き進む松陰とは対照的に、家族の暮らしを守りながら弟や妹たちを支えてきた。穏やかで常識的に見えるが、決して迷いがないわけではない。家族への思いと自らの立場の間で揺れる姿に、原田は優しさだけでは片づけられない人間味を与えていた。物語の中心に立たなくても、その人がいることで周囲の人物がより魅力的に映る。吉江にも通じる、原田ならではの“支える芝居”が光った役だった。

 朝ドラで父親役を演じるのは、『ごちそうさん』以来となる。同作で演じた卯野大五は、ヒロイン・め以子の結婚に猛反対する、豪快で頑固な父親だった。娘を思う気持ちが強いあまり、怒りも寂しさも隠すことができず、感情を真正面からぶつけてしまう。どちらも娘への愛情は深いが、その伝え方は対照的だ。大五のような熱量の高い父親を演じてきた原田だからこそ、吉江の抑えた声や、言葉を挟まずに相手を見つめる時間からも、胸の内にある思いが伝わってくる。

 2018年公開の主演映画『ミッドナイト・バス』では、離れて暮らす家族との関係に悩む深夜バスの運転士・高宮利一を演じた。家族を愛していながら、その思いをうまく言葉にできない中年男性を、わずかな表情の揺れや佇まいで表現。2019年に始まった主演ドラマ『サ道』(テレビ東京系)では、サウナで“ととのう”時間を楽しむナカタアツロウ役として、力の抜けた自然体の芝居を見せている。何も起きていないように見える時間にも、人物の感情を流し続けられること。それも原田の大きな魅力だ。

 また、上坂とは2023年放送の『生理のおじさんとその娘』(NHK総合)でも父娘役で共演している。同作で演じたのは、娘を思うあまり、その気持ちを置き去りにしてしまう父親だった。それから3年を経て、『風、薫る』では、直美の思いを決めつけず、彼女が話し始めるまで待つ吉江を演じている。すれ違う実の親子から、血のつながりを越えて信頼を築いた親子へ。2度目の父娘役だからこそ、説明を必要としない安心感が2人の間に流れているのだろう。

 直美は今、誰かに守られていた少女から、自分の力で人生を選び、今度は誰かの暮らしを支える側へ進もうとしている。吉江にとっては誇らしくもあり、少し寂しくもあるに違いない。進むべき道を示すのではなく、いつでも帰ってこられる場所をつくる。原田が演じる吉江は、“見守ること”もまた大きな愛なのだと教えてくれている。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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