『口に関するアンケート』の“恐怖の本質”を読み解く 清水崇監督の長所が発揮された作品に

本作が原作小説と異なるのは、映画オリジナルの要素を導入することで、物語の構造そのものを広げている点だ。原作は大学生たちの証言で構成されていたが、映画版では、その証言の音声データをめぐる者たちが描かれていく。こうしたかたちでの拡張は、『近畿地方のある場所について』同様の試みである。本作は独自の展開として、大学生同士の恋愛感情が入り混じる人間関係で起こる、登場人物の存在にかかわる、あるサプライズへと繋がっていく。
そして映画は、あまりにも不気味な、悪夢のような集団首吊り描写へと収斂していくことになる。まるで、登場人物たちがあらかじめそうなることを予言されていたかのような、回避不能の不気味さだ。この呪いの伝播が収束していく過程、そしてそこに漂う運命論的な世界観もまた、清水監督の資質にあるものだ。
ここで、もともと原作小説が、サイズの小さい変則的な装丁による書籍の形でリリースされていたことを思い出そう。原作は、本という物理的な存在そのものが恐怖を媒介する、コンセプト込みでの作品であった。そこで生み出された価値に対して、映画版もまた自身の媒体に対して自覚的にコンセプチュアルな価値を生み出そうとした。それが、じつはこれまでの証言者たちがしゃべっていた場所に秘密があったという、映像的な叙述トリックだったのだろう。
そしてその後に続く、死体がしゃべり出し、観客をアンケートに参加させるという描写が重要なのだ。通常、こうした演出は、とくに映画においては、いままで鑑賞していたものが虚構だという事実を強調することになり、リアリティを減じさせしまう部分ではある。だが、虚構であることを、明確にここで意識させることで、映画自体を一種のイベントとして、観客自身の問題に転化させる効果を生み出す。これは、台湾のホラー『呪詛』(2022年)にも通じる、現代的なホラーの演出テクニックの一部であるといえよう。ちなみに天才的なホラー漫画家・楳図かずおの漫画作品では、こうした“第四の壁”を破る、読者参加型の試みがかなり前からあったことは言及しておきたい。
フォークロアが伝播していく上で、読者(観客)自体もその加担者になり得るという気づきを与えるという意味で、『近畿地方のある場所について』も同じコンセプトを共有している部分がある。本作で描かれる物語もそうだが、怪談や都市伝説の正体は、結局は創作だったり、噂に尾ひれをつけたもの、デマや思い込みに類するものだったりするのがほとんどだろう。
しかし、そういった現実には存在しないものについて、伝播される過程でさまざまな人々が語ることによって、社会のなかに本当にあるという認識が醸成されていくことは、実際にある。例えば、ある民族やコミュニティに属する人々が、ありもしない悪事の濡れ衣を着せられ、現実の差別に遭ったり、危害を加えられた事例は歴史的事実として無数にある。それだけでなく、いまもそんな状況が繰り返されている。
口述、あるいはネットでの気軽な書き込みが、“無いもの”を“在るもの”にしてしまう。もはや語り伝えることがすでにある種の罪である場合から、無害ではあれ、ちょっとした都市伝説を聞きかじって語ったりすることでも、何かが生まれてしまう場合はある。自分が、そういう“口”を持った一人であることを意識すること。その口が生み出す潜在的な負の可能性に気づくことが、本作から与えられる最大の恐怖なのである。
■公開情報
『口に関するアンケート』
全国公開中
出演:板垣李光人、綱啓永、吉川愛、MOMONA(ME:I)、森愁斗、西山智樹(TAGRIGHT)、柄本時生、中村獅童
原作:背筋『口に関するアンケート』(ポプラ社刊)
監督:清水崇
脚本:山浦雅大
プロデューサー:田口生己、佐藤孝樹、白石裕菜、石田基紀
音楽:大間々昂
インスパイアソング:オレンジスパイニクラブ「口」(WARNER MUSIC JAPAN)
制作プロダクション:ホリプロ
配給:松竹
製作:映画「口に関するアンケート」製作委員会
©2026映画「口に関するアンケート」製作委員会
公式サイト:kuchi-movie.jp
公式X(旧Twitter):@kuchimovie
公式Instagram:@kuchimovie






















