『さよならノワール』なぜ“犯罪被害者支援”をテーマに? 井上由美子がドラマに込めた願い

井上由美子『さよならノワール』に込めた願い

「お互いの足りない部分を補い合うバディにしたかった」

——これまでの井上さんの作品の中でも、女性バディものは珍しい印象を受けました。男性バディとの違いや、女性同士の物語だからこそ描けたことがあれば、ぜひ教えてください。

井上:男性同士のバディものや、男性が先輩で女性が後輩という組み合わせはよく見かけますが、その多くは「天才」と「それについていく新人」という構図で、どちらかといえば一方通行の関係性だなと思っていたんです。今回はそうではなく、お互いの足りない部分を補い合うバディにしたかった。夏海は年齢も配属年数も絵梨子より上の「先輩」ですが、その一方で、心理学の専門家である年下の絵梨子を「先生」と呼ぶ。その“ねじれ”も面白いかなと思いました。女性同士のほうが、年齢や立場を飛び越えて関係を築きやすいように感じていたので、今回はそこを大切にしています。ただ、女性同士だからといって、誇張されたキャットファイトのようにはしたくなかった。実際にこの二人がいたら、どんな会話を交わすのか、どんなふうに支え合うかを想像しながら描きました。また、河毛監督とは『ギフト』(1997年/フジテレビ系)や『きらきらひかる』、『パンドラ』シリーズなど、節目節目でご一緒させていただいてきましたが、昔から働く女性を魅力的に描くことに並々ならぬ情熱を持っている方なんです。小池さんの『新宿野戦病院』(2024年/フジテレビ系)を拝見したときにも感じましたが、女優さんをただ綺麗に撮るのではなく、実際にいるひとりの人間として、その人自身の魅力をリアルに映し出すことが河毛さんの真骨頂。今回もご一緒できることを心強く思っています。

——小池さんと北さんご本人の印象も、キャラクターに投影されているのでしょうか?

井上:長いことテレビドラマに携わってきた中で、俳優さんのこれまでとは少し違う一面を提供できたら、という思いで、いつも脚本を書いています。小池さんは明るく快活で、いわゆる姉御肌なイメージがありますが、今回はどちらかといえば、ぶっきらぼうで不器用な人物として描きました。他人の痛みを想像できる主人公でいてほしかったので、二人ともそれぞれに傷を抱えていますが、夏海はその傷に振り回されることなく、懐の深さを持った人です。北さんはコメディエンヌの才能がある方なので、絵梨子は少し勘違いしやすかったり、少々イタい人物として描いてみました。そんな不器用さも含めて、視聴者の方に親しみを持っていただけたらうれしいです。

——「共感能力に欠けた(長けたの間違いじゃなく!)」という絵梨子へのコメントに、井上さんの並々ならぬ想いを感じました(笑)。

井上:(笑)。完璧な人格のキャラクターって、ときに人を追い詰めてしまうところがあると思うんです。あまりに立派な人格者が出てくると、私もちょっと疲れてしまう。ダメな部分やコンプレックスがある人のほうが、観ている方にも身近に感じてもらえるんじゃないかと思いました。被害者支援に携わる人というと、まるで神や聖人のような、完全無欠の立派な人を想像されるかもしれません。でも、ただ立派な人よりも、不器用かもしれないけれど、生身の人間として向き合ってくれる人のほうが、「寄り添ってもらえている」と感じられるんじゃないかと思ったんです。だから、教訓めいたことや説教めいたことを、彼女たちに言わせたくなくて。絵梨子はときどき無茶なことも言いますが、無茶を言われるからこそ、その反動で言い返せることもあるじゃないですか。相手があまりにちゃんとした人だと、何も言い返せずに閉じこもってしまうこともあるのかなと思ったんです。

——お話を伺う中で、あらためて「犯罪被害者支援」は、明確な正解のない難しいテーマだと感じました。そうした物語を描くうえで、意識されたことはありますか?

井上:犯罪被害者の方というのは、大切なものを失っているんですよね。その失ったものは、決して戻ってこない。正解がないというよりは、簡単に区切りをつけられないところにいるのではないかと思うんです。解決できない悲しみと向き合う物語のなかに、少しでも希望を描けたらいいなと思いました。

——夏海たちが寄り添う被害者の方々も、それぞれに過酷な事情を抱えています。一方で、最近はドラマよりも現実のほうがハードだと感じることも少なくありません。そうした時代に、フィクションだからこそ、テレビドラマだからこそ伝えられることはなんだと思いますか?

井上:たしかに、最近は目を背けたくなるような事件がたくさんありますね。私自身もニュースを見ていて、「見るのがきついな」と感じることが多々あります。でも、そういう過酷な出来事も、フィクションというフィルターを通せば、当事者の方の気持ちを想像することができると思うんです。「つらかっただろうな」とか、「最後に希望を取り戻せてよかった」とか。そうやってドラマの登場人物に思いを馳せることで、日々のニュースでは報じられない背景にも、目を向けられるようになるかもしれない。大きなことを言うつもりはないのですけど、世界が少しでも生きやすくなるためには、それぞれが他者の気持ちを想像することが一番大切だと思うんです。ささやかではありますが、ドラマはそのためのレッスンになれるんじゃないかなと。もしこのドラマが、誰かの気持ちを想像したり、他者を理解しようとするきっかけになれたなら嬉しいです。そうした思いを届けるうえでも、今回のような、社会にとって必要でありながら、あまり知られていない仕事をテレビドラマで描いていきたいと思っています。

——ありがとうございます。最後に、タイトルの『さよならノワール』について聞かせてください。「ノワール」はフランス語で“黒”を意味しますが、どのような想いを込められたのでしょうか?

井上:フィクションの世界で「ノワール」というと、闇社会や犯罪映画などを指しますが、今回は被害によって負った心の傷や悲しみとして捉えました。悲しみに一度浸ってしまうと、もうずっとこのままなのかもしれない、その闇から一生抜け出せないのかもしれないと思うことがあります。たとえ法的な解決がなされたとしても、本人にとっては終わっていない。けれど、誰かと出会い、手を差し伸べてもらうことで、あるいは自分が誰かに寄り添うことで、その闇に別れを告げられる日が来るかもしれません。暗い場所から一歩踏み出してみよう。そんな“出会い”の意味も込めて、あえて「さよなら」という言葉を選びました。

——ポジティブな意味での「さよなら」なんですね。

井上:「犯罪被害者支援」というテーマを聞くと、シリアスでハードな印象を受ける方もいると思います。もちろん、夏海と絵梨子は一つひとつの事件の重みを受け止めながら前に進んでいきますが、小池さんと北さんのバディは、とてもフレッシュでエネルギーに満ちています! そんな彼女たちの掛け合いも含め、楽しんでいただけたら嬉しいです。

■放送情報
『さよならノワール』
フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜21:54放送
出演:小池栄子、北香那、岡山天音、荒川良々、味方良介、濱尾ノリタカ、利重剛、眞島秀和、岡部たかし、浅野和之、戸田恵子、渡部篤郎 他
脚本:井上由美子
演出:河毛俊作、清矢明子、柳沢凌介
音楽:菊地成孔
主題歌:chilldspot「ドラマ」(RECA Records)
衣装:伊賀大介
心理監修:石橋昭良(臨床心理士/非行臨床研究所)
警察監修:石坂隆昌(ユヌ・ファクトリー)
プロデュース:狩野雄太(スタジオ戦略本部 第1スタジオ ドラマ・映画制作センター)
制作プロデューサー:清家優輝、岸川正史(ファインエンターテイメント)
制作協力:ファインエンターテイメント
制作著作:フジテレビジョン
『さよならノワール』©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/sayonaranoir-cx/
公式X(旧Twitter):https://x.com/sayonaranoir_cx

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