リチャード・リンクレイターが語る『ヌーヴェルヴァーグ』の試み メイキング写真も公開

『ヌーヴェルヴァーグ』の試みを監督が語る

 7月10日に公開を迎えた『ヌーヴェルヴァーグ』より、リチャード・リンクレイター監督のコメントとメイキング写真が公開された。

 本作は、『スクール・オブ・ロック』や『6歳のボクが、大人になるまで。』、『ビフォア』シリーズのリンクレイター監督最新作。1959年、ジャン=リュック・ゴダールと彼の長編デビュー作にして、ヌーヴェルヴァーグ=“新しい波”と呼ばれる当時の革新的な映画運動の記念碑的作品となった『勝手にしやがれ』製作の舞台裏を、仏映画界を代表する映画作家たちとの活気ある交流とともに描いた青春物語だ。

 これまで「ベテランの映画監督は、映画を作る過程についての映画を作るべきだ」と語ってきたリンクレイター監督。しかし、自身の撮影現場を題材にするのではなく、彼が興味を持ったのは、映画史に残る一本が生まれた瞬間だった。「実際に映画を作っていると、面白かったり、何かを物語っていたりする出来事に出会います。心の中で映画を作り始める、と言いますか。でも、私は自分自身の映画作りについて描きたかったわけではありませんでした。私にとって、より興味深かったのは、別の映画の歴史について描くことだったんです」と語る。

 共同脚本家のヴィンス・パルモとホリー・ジェントが、約13年前から取り組んでいた脚本を見せてくれたことが、本作への参加のきっかけになったという。「脚本を読んで、『私も仲間に入れてほしい』と思いました。私はあの時代が大好きです。本当に素晴らしい瞬間だったのでしょうし、ゴダールは実に興味深い人物です。私たちは夢中になりました。これほどまでに、別の映画の内側へ入り込むのは、本当に楽しかったですね」と語った。ゴダール役に抜擢されたギヨーム・マルベックについて、リンクレイター監督は、その外見だけではなく、本人が持つ存在感こそが決め手だったと明かす。「ギヨームが入ってきたとき、これが初めての演技だと思う人はいなかったでしょう。映画の中で演技をしているだけでなく、実際に監督までしているように見えました。現場全体に対して、自然に権威を持っていたんです」と話す。

 また、ジャン=ポール・ベルモンド役のオーブリー・デュラン、ジーン・セバーグ役のゾーイ・ドゥイッチについても、「似ている」と評される理由は、単なる外見の再現ではないと強調。「それは、彼らの演技力とパーソナリティの力です。彼らは本当に優れた俳優で、常に全力を尽くしてくれました。一緒に仕事ができて、とても幸運でした」と撮影を振り返る。

 本作は時代を描く作品であると同時に、まるでその時代に実際に撮影された映画のような独特の質感を備えている。リンクレイター監督は、企画を考え始めた段階から完成した映画のルックが頭の中に見えていたそう。「それは、1959年に作られた映画でした。あの時代に撮影された映画には、手段が限られていたからこそ生まれた、独特のルックとスタイルがあります。撮影方法やアングルも含めて、この映画の中に、当時の映画へ入れたら違和感が生まれるようなショットを、一つも作りたくありませんでした」。そのため、1960年以降に発展したカメラワークや撮影技法を、意識的に頭から消していったと言う。「彼らがやったであろう方法で撮影しました。クレーンもドリーもなかったので、バルコニーから撮ったり、手持ちで撮影したり、屋外をわずかに露出オーバーにしたりして、あのルックを実現したんです」と撮影手法について明かした。

 一方で、「私たちが作っているのはゴダール映画ではありません。ジャンプカットもそれほど多くない。あの時代に、別の映画作家が作った一本、というのがコンセプトでした。フランスのヌーヴェルヴァーグの世界で皆がたむろしているような、“たむろ映画”のルックと感触を目指したんです」と、ゴダールの演出そのものを模倣する意図はなかったと語る。

 最後にリンクレイター監督は、「この映画を作るとき、若い人たちが、理解できない引用や、知らない人物の名前に威圧されないでほしいと思っていました。若い人たちが集まって何かを作るという物語そのものは、とてもシンプルです。この映画について“分からない”ことなどありません」と、ヌーヴェルヴァーグについて詳しく知らない若い観客にも、気後れせず本作を楽しんでほしいと語った。そして、映画をきっかけに当時の人物や作品へ興味を持ってもらえたなら、「とても感激する」と続ける。「映画作家や、映画作家を目指している人にとって、彼らが私に影響を与えたように、何十年が経っても、そのメッセージは次の世代へ受け継がれていきます」「私にとってヌーヴェルヴァーグとは、個人的な映画、自己表現、友人を集めて、とにかく“やる”ことを意味します。それは絶えることがありません。革命は続いているんです。常に、どこかで起きている」。

 本作で描きたかったのは、映画作りに伴う不安や危うさだけでなく、その根底にある純粋な楽しさだったと言うリンクレイター監督。「映画を作ることは、少し怖く、少し不安定かもしれない。でも、ただ楽しいんだということを示したかった。特に、初めての映画を作る
ときの、あの高揚感を捉えようとしました」と話すと、続けて「もしこの映画が誰かを奮い立たせ、自分自身をその状況に置き、自分たちの映画を実現するきっかけになるのなら、それはとても良いメッセージだと思います」と締めくくった。

 あわせて公開されたメイキング写真4点には、監督、キャスト、スタッフが一堂に会した集合ショットをはじめ、カチンコを手に撮影へ臨む姿や、当時の映画雑誌編集部を再現したセット、パリの街中で大掛かりな撮影を行う様子が収められている。

 さらに、映画監督の呉美保、俳優の細田佳央太ら、著名人8名から絶賛コメントも到着した。

コメント

呉美保(映画監督)

スクリーンから溢れる映画への情熱とユーモア。クセ強ゴダール監督と同志たち、あの時代の熱狂をここまで緻密に描き切ったリンクレイター監督の執念に、呆れたり敬ったりしながらワクワクし続けた。映画好きはもちろん、むしろ映画に詳しくない若い人たちにこそ観てほしい。何かに取り憑かれたように夢中になるって、それだけで愛おしいから。

【私にとってのヌーヴェルヴァーグ】
フランソワ・トリュフォー『アメリカの夜』

岡本大陸(DAIRIKUデザイナー)

当時にタイムスリップして、ゴダールたちの映画への情熱と撮影の目撃者になったような気分でした。自分勝手に撮影を進めるゴダール、その彼に翻弄される映画スタッフ。そんな彼らの掛け合いが面白くて面白くて!今後、"勝手にしやがれ"を観る時は、スクリーンの裏からゴダールの声や映画スタッフの声が聴こえてきそうです。

【私にとってのヌーヴェルヴァーグ】
ミロス・フォアマン『カッコーの巣の上で』

秦早穂子(映画評論家・エッセイスト)

誰にも一度は、湧き起こるヌーヴェル・ヴァーグへの熱い思い。無謀にもリチャード・リンクレイターは、65年前、彼が生まれる前の『勝手にしやがれ』の撮影現場に、足を踏み入れてしまう。頭のきれる監督、厳しい批評家は嗤うだろう。だが、この熱さこそが、若い世代へおくるサインなのだ。

【私にとってのヌーヴェルヴァーグ】
ジャン=リュック・ゴダール『勝手にしやがれ』

林響太朗(映像監督/写真家)

生み出そうとするその衝動と躍動。宝物のような時間に立ち会わせてもらったような気持ちになる。不安や葛藤とさまざまな感情の中、凛と立つそれぞれの姿勢が、心地よい。自分も含め、何かを生み出す全ての人が背中を押されることになると思う。

【私にとってのヌーヴェルヴァーグ】
クリス・マルケル『ラ・ジュテ』、ジョナサン・グレイザー『関心領域』

細田佳央太(俳優)

前例がない、はできないじゃない。そんな当たり前のことを頭では理解していても、どうしても本作が眩しく映ってしまった。ただ、だからこそ映画作りというものに希望を抱けるし、映画というものが止まらずに進んできたんだろうな。現代は進化の余白で溢れている。

【私にとってのヌーヴェルヴァーグ】
リチャード・リンクレイター『ヌーヴェルヴァーグ』

松本花奈(映像監督)

映画づくりにおいて大切なこと。
『偶発性を楽しむこと』
『正解なんてないと知ること』
それってつまり、人生においても大切なことではないでしょうか。
映画づくり、そして人生の中にある、
喜び、悲しみ、ままならなさがギュッと詰まった作品でした。

【私にとってのヌーヴェルヴァーグ】
エドワード・ヤン『ヤンヤン 夏の想い出』

山下敦弘(映画監督)

膨大な登場人物を次々と並べ、一人の天才だけでは映画は作れないという、当たり前の事実をきっちりと描きつつ、映画の中のスタッフと同様、若きゴダールに振り回されながらも、笑って許してしまうリンクレイター監督のまなざしが、ホント素敵だなぁって、しみじみ思いました。とりあえずまだ観たことの無い『勝手にしやがれ』を観ようと思います。

【私にとってのヌーヴェルヴァーグ】
アキ・カウリスマキ『真夜中の虹』

米山然(雑誌『POPEYE』編集者)

ノリで撮られた一本で、映画史は永遠に変わってしまったらしい。この青春の延長線上で僕らは、映画の話をするらしい。敬愛する作家達が次々登場する画面はさながらテーマパークで、全員と記念写真を撮りたくなった。’59 年パリ行きのタイムマシンはもう不要!

【私にとってのヌーヴェルヴァーグ】
アニエス・ヴァルダ『5時から7時までのクレオ』、バス・ドゥヴォス『Here』

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■公開情報
『ヌーヴェルヴァーグ』
新宿ピカデリーほかにて公開中
出演:ギヨーム・マルベック、ゾーイ・ドゥイッチ、オーブリー・デュランほか
監督:リチャード・リンクレイター
プロデューサー:ミシェル&ローラン・ペタン
脚本:ホリー・ジェント、ヴィンス・パルモ
協賛:Chanel
配給:AMG エンタテインメント
2025/フランス/106分/仏語・英語/5.1ch/1:1.37/モノクロ/原題:Nouvelle Vague/日本語字幕:井村千瑞
©2025 ARP - Detour Development LLC

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