『風、薫る』はなぜ“正解のない看護”を描き続けるのか “優しい嘘”に宿る看護の本質

テイの場合は間違えた、のかもしれない。少しでも可能性があるなら手術してほしい。よかれと思ってやったことだった。だが手術が成功したかと思ったらすぐに再発してしまう。
退院の日、廊下を意気揚々と去っていったかと思えば、すぐにまたしんどそうに戻ってくるという別の日をワンカットで撮ったような場面があった。深刻なシーンだがおもしろく見られた。山本は手術したときにはすでにあちこちに転移していて、手の施しようがなくなって、すぐにまた体調が悪くなってしまった。
辰治は、うすうす自分のからだのことは気づいている。問い詰められたりんは誤魔化す。こんなときは嘘をつくしかない。だが、山本にはバレている。

「一ノ瀬さんもつけるんだな、嘘」
山本のほうが上手(うわて)だ。嘘だって悪いばかりではない。ときにはいいこともある。りんは悩んでいるとき、山本の嘘に救われた。嘘でも人の心を楽にすることができるのであれば、嘘を選ぶことがあってもいいだろう。それが「優しい嘘」。
山本はりんに嘘の共犯者になってほしいと頼む。テイが看病疲れか、心労がたたってか寝込んでしまった。辰治は妻が「手術を勧めさえしなければ」と自責の念にかられることだけが気がかりなのだ。自分がいなくなったあと泣いたり苦悩したりしてほしくない。妻に会いに一度家に戻りたい。辰治はりんに一世一代のウソをつかせてほしいと頼む。
夫婦の楽しい思い出の花火の日、りんは辰治を病院から家に連れていく。第14週はそこで「つづく」となる。嘘の片棒を担ぐことを受け入れてしまったりん。彼女がそうした理由は、その前に直美と話したことに起因しているだろう。もし自分だったら? 余命間近なとき、どうしたいか。直美は「思い残しがないように知らせてほしい」と語り、りんは「自分はどうでもいい。残された人の良いようにしたい」と答える。山本とりんはこの点において共鳴したのだ。ふたりの嘘は吉と出るか、それとも……。

これまでの『風、薫る』の金曜の終わり方を振り返ってみよう。例えば、第40回、千佳子(仲間由紀恵)が手術を前に、深刻な後ろ姿を見せて、次週に引っ張った。ここでも、患者(人間)は嘘をつくが肉体は嘘をつかない。肉体から感じることを大事にするようにとバーンズ(エマ・ハワード)から教えを受けていた。
また、第45回、東雲ゆき(中井友望)が担当している患者・小野田理久(宮地雅子)の容体が急変したところでつづくになった。病院が舞台なので病人が登場するのは当然だが、患者の容体を心配させて次週に引っ張るのが山本で3人目。千佳子の乳がんの手術は成功。小野田は残念ながら亡くなった。山本はーー。できればこの手はこれで最後にしてほしい。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK





















