『サバ缶、宇宙へ行く』最大の魅力は“継承”にあり 北村匠海が受け手に徹した意味

『サバ缶、宇宙へ行く』最大の魅力は“継承”

「うちのサバ缶も宇宙に飛ばせるんちゃう?」

 そんな生徒の何気ない一言で始まった挑戦が、もうすぐ実を結ぼうとしている。

 6月22日に最終回を迎える北村匠海主演の『サバ缶、宇宙へ行く』(フジテレビ系)。本作は、福井県小浜市の水産高校の教師と生徒が世代を超え、“宇宙食開発”という大きな夢に挑んだ奇跡の実話を基にした青春ドラマだ。

 お恥ずかしながら、筆者はドラマの基になった小浜水産高校(現・若狭高校)の生徒たちの偉業を知らなかった。劇中でも描かれていたが、バラク・オバマ大統領就任、小惑星探査機「はやぶさ」の地球への帰還、東日本大震災の発生、スマホの加速度的な普及など、時代の波が次から次へと押し寄せる裏で、まさかこんな一大プロジェクトが進行していたとは。

 生徒たちが教師や地域の人に見守られながら、幾度も困難を乗り越えて、「自分たちが作ったサバ缶を宇宙へ飛ばす」という夢のバトンを受け継いでいく喜怒哀楽の物語にいたく感動し、原案のノンフィクション書籍『さばの缶づめ、宇宙へいく 鯖街道を宇宙へつなげた高校生たち』(イースト・プレス)も購入した。それを読めば、このドラマがどれだけ実話に忠実であるかが分かる。

 北村演じる主人公・朝野峻一のモデルになった現小浜市教育長の小坂康之氏が赴任した当初、小浜水産高校は教育困難校で、授業中に寝ている生徒ばかりだったこと、そんな生徒たちが漁港での校外実習をきっかけに変わり始めたこと、「HACCP」認証の取得に必要なエアシャワーを100均のコロコロで代用したこと、宇宙サバ缶の開発に関心を持ったJAXA宇宙教育センターの職員が学校で講演会を開いたこと、高校の統廃合問題で一時開発が頓挫したこと……全部、本当に起きた出来事なのだ。それをそのまま描けば、十分にドラマとして成立する。一方で、難しかったのは、「サバ缶を宇宙食にする」という大筋に登場人物それぞれの背景や成長といった“サブストーリー”を組み込むことだったのではないか。

 この数年、ドラマ界は空前の“宇宙”ブームだ。特に、謎めいた理科教師に導かれた定時制高校・科学部の生徒たちが教室に“火星のクレーター”を再現する実験で学会発表を目指す『宙わたる教室』(NHK総合)、かつて高校の天文部で仲良しだったごく普通の30代女性たちが超小型人工衛星を宇宙に飛ばそうとする『いつか、無重力の宙で』(NHK総合)は大きな反響を呼んだ。本作も「宇宙への挑戦」を描いている点では共通しているが、大きな違いはその挑戦が一代だけでは終わらないことである。

 ドラマを観た多くの人が「宇宙食を作るのって、こんなに大変なんだ」と驚いたのではないだろうか。まずは宇宙食を作るための環境と設備を整え、NASAが宇宙食の安全性を確保するために考案した食品衛生管理システム「HACCP」の認証を取得する必要がある。認証を得たら、宇宙食開発に着手できるが、常温で長期保存ができ、安全かつおいしい食事を宇宙へ届けるためには高いハードルを乗り越えて、JAXAの厳格な審査をクリアしなくてはならない。宇宙食の認定を受けたら、宇宙飛行士に選ばれて初めて宇宙に飛べるのだ。

 宇宙サバ缶は2006年に開発が着手され、14年後の2020年に国際宇宙ステーション(ISS)で野口聡一宇宙飛行士(第10話にゲスト出演)によって最初に食された。開発に携わった生徒は300人以上。ドラマでも、どんどん生徒が入れ替わっていく。これは大きな賭けだったはずだ。ようやく愛着が湧き始めた生徒たちは皆、道半ばで卒業し、次の代に引き継がれていくのだから。『ごくせん』(日本テレビ系)の全3シリーズを一つのクールに詰め込むようなものであり、おそらくこれが視聴率に苦戦した原因ではないか。

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