『Michael/マイケル』よりも面白い! 『ユマカウンティの行き止まり』の“ドラマ”に大興奮

『ユマカウンティの行き止まり』に大興奮

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、ダイナーが大好きな宮川が『ユマカウンティの行き止まり』をプッシュします。

『ユマカウンティの行き止まり』

 今週末公開の映画といえば、“キング・オブ・ポップ”ことマイケル・ジャクソンを描いた『Michael/マイケル』の話題で持ちきり。日本における異常なほどまでのマイケル人気と、無駄に予算をかけまくったプロモーションで大ヒットすること間違いなしだが、個人的にはまったくノレなかったので別の作品をオススメしたい。

 興行的な成功が約束された大作の影で同日公開を迎えたのは、スカーレット・ヨハンソンが長編初監督を務めた『エレノアってグレイト。』、鬼才リン・ラムジーの新作『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』、橋本愛が主演を務めたホラー映画『祝山』、山田杏奈主演のサイコエンターテインメント『NEW GROUP』など。よく見てみると粒揃いだが、その中でも新鋭フランシス・ガルッピの長編監督デビュー作『ユマカウンティの行き止まり』がとにかく面白かった。

 この作品の舞台は、1970年代、アメリカ・ユマ郡の砂漠地帯にポツンと佇む、寂れた給油所兼ダイナー。ガソリンの補給車が遅れているため、ナイフのセールスマンやウェイトレスが暇を潰している。そこへ現れたのが、直前に銀行を襲ったばかりの凶悪な2人組の強盗だ。

 ガソリンがないため、強盗たちもこの場から逃げ出せない。緊迫した空気のなか、事情を知らないクセの強い客たちが次々とダイナーにやってくる。老夫婦、ヒッピー、頼りない地元警察……。密室となったダイナーで、それぞれの思惑、嘘、勘違いが、信じられないほどの高密度で交錯していく。

 上映時間はタイトな90分。この作品の何が面白いかといえば、全編に漂う“最悪のピタゴラスイッチ”のような連鎖反応だ。あのサム・ライミが絶賛したというのも頷ける。初期衝動的な映画の“毒”と、一瞬の火花で全てが崩壊しかねないサスペンスの緊張感が充満している。

 登場人物たちはみな、どこか滑稽で、どこか強欲だ。数々の名作が生まれてきた“ダイナー”を舞台に、誰が引き金を引き、誰が生き残るのか、全く予測がつかない“ドラマ”が展開される。そう、『Michael/マイケル』にはこの“映画的なドラマ”が欠落していたのだ(マイケル・ジャクソンの楽曲は最高だが)。

 限られた予算とシチュエーション、そして研ぎ澄まされた脚本のアイデアだけで、これほどまでに観客の心拍数を跳ね上げさせることができる。映画という表現の原点的な歓びが、ここには詰まっている。“映画好き”の方には『Michael/マイケル』よりも断然『ユマカウンティの行き止まり』をオススメしたい。

■公開情報
『ユマカウンティの行き止まり』
ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中
出演:ジム・カミングス、ジョスリン・ドナヒュー、ジーン・ジョーンズ、フェイゾン・ラヴ、リチャード・ブレイク
監督・脚本:フランシス・ガルッピ
製作:マット・オニール、アティフ・マリク、フランシス・ガルッピ
撮影:マック・フィスケン
配給:KOOKS FILM
2024年/アメリカ/英語/90分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/原題:The Last Stop in Yuma County/字幕:大石盛寛
©2024 The Last Stop in Yuma County LLC.

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